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モンスターといこう  作者: hachikun
女戦士とモフモフの章
80/106

試練の噂

 異世界人がいなくなる。

 その噂で色々と蠢いていたのはツンダーク人社会の方で、プレイヤー側はそれほど深刻ではなかった。

 もちろん、サービス終了の噂により人の流動は起きていた。だがそれは大きなものではなかった。最終日に向けて集まろうという動きはおそらくあるだろうが、そもそも、公開から十年以上過ぎたネトゲのプレイ人口である。すでに安定化の極にあり、騒動はそれほど大きなものではなかったのである。

 だから、騒いでいたのはプレイヤーではなくむしろ、異世界人相手に商売をしていたような連中の方だった。

 あとはむしろ……。

 

 

 西の国のとある魔法学校。極彩色のスーツをまとった奇怪な姿のウイザードと、キラキラした瞳のかわいらしい教え子たち。

「せんせー、帰っちゃうの?」

「アタシが帰る?異世界に?オホホホホ、ま、さ、か。異世界にはアぁンタたち教え子がいないのよ?アンタたちの成長がアタぁシの楽しみなんですからねェ。フフフ……こんな変なセンセで悪いけど。

 そんな事よりメイナ・スー?あんた炎の授業で先生負かしたって?やるわねえ!」

「いえ、そんな事は……」

「フフフ、いい事教えようかメイナ・スー?実はね、今、先生が足りないの。アンタの成績なら……」

「本当ですか!?」

「……え゛?」

「そ、それってつまり、私が先生のお手伝いに!?や、やだ、どうしよ……(//////)」

「え?ええ、まぁそうね。ま、アタシの弟子なんてイヤっていうのなら仕方ないんだけ……」

「やります!先生の弟子なら是非!是非是非!!」

「そ、そう?」

 こんな感じに生徒に懐かれまくっているオカマっぽい先生がいたり。

 

 

 とある森の中にある、蜘蛛糸だらけの不気味な結界の中。

「貴女たちはお行きなさい。貴女たちにはまだ、元の世界での未来があるのだから」

「姉様は?」

「わたくしは……もう戻るところなんてないもの。ここに残り、生きるわ。命か心か、時が尽きるまでね」

「ご一緒します」

「いっしょー」

「……それでいいの?貴女たちにはまだ」

「姉様と共に。それが望みです」

「シセツは、もうイヤ。連れてって。どこまでも」

「そう……そう。バカねほんと貴女たちは……いいわ、じゃあ、そうしましょうか」

「はい」

「はーい」

 美しい黒髪の女と、侍女の姿をした娘ふたりとか。

 

 

 とある町の中。ハンターの一家と思われる、こじんまりとした家にて。

「マナ。その、本当にいいのか?」

「何を今さら。異世界になんか帰るなここにいろって、わたしを無理やりお嫁さんにしたくせに」

「あー、それはその……」

「え、そうなの?ママ、パパに無理やりお嫁さんにされたの?」

「パパひどいー」

「いや、ちょっとまて!マナ、これは」

「うっふふふ。つまんない事いう旦那様が悪いんですよーだ。

 大丈夫よみんな。パパとママはちゃんとお互いに好きになって一緒になったんだからね。本当よ?」

「そうなの?ほんとに?」

「ほんとほんと」

「よかったー」

「……マナ」

「さ、ごはんにしましょ、旦那様」

「ああ。そうだな」

 エプロン姿の主婦は、子どもたちと旦那ににっこりと微笑み。

 

 

 北の大地。吹雪もやんだ寒い朝。

「そうか、ついにきたか。……フラッシュ、僕らも帰ろうか」

「?」

「あの森、あの野原。ずいぶんご無沙汰だろ?」

「……」

「ああ、そうしよう。

 皆、聞いてくれ。僕らの群れはこれから中央大陸、はじまりの国へ移動する。皆も準備を開始してくれ」

「ぷー」

「ぷー、ぷー、ぷー」

「了解いたしました、お父様」

 大切な相棒のために里帰りを決意した青年とか。

 

 

 すでに居残りを決めている者たちにとっては、ひとつの転機となる出来事ではあった。

 しかし。

「……おはようリトル。ん?あんた、なんであたしのチュニックくわえてるの?」

「?」

「いや、華麗にスルーしようとしてもダメだから。まーた、あたしのおっぱい吸おうとしてたのね?もう、いつまでたってもガキなんだから!」

 自分の寝相が悪くてリトルに毎朝直されているわけだが、そんな事にも全然気づいていない。

 そして、本来大事件のはずのサービス停止も関係ない。

 モフ子たちに関していえば、あいかわらずだった。

 

 

 

「試練の山、ですか?」

「ええそう。そろそろリトルも神獣になる日が近いのよ。ひいては、本当の意味で大人になる試練の山に登るわけなのだけど」

 そこまで言うと、老婆はにっこりと微笑んだ。

 いつぞやのミルク売りだった。中央大陸の某所以来、本当に久しぶりだった。まぁ、生涯何度もこれに遭遇する者は滅多にいないのだが、白昼神様と雑談できてラッキーかというと、モフ子にはちっともありがたい事には思えなかったが。だいたい、食事時に気づけばそこにいる、程度ならしょっちゅうだし。

 十年以上前と全く変わらない老婆の正体はもちろんアレである。そして中身はというと面倒くさそうな試練の話であり、モフ子は「やれやれ」とためいき混じりに老婆の話を聞いていた。

「めんどくさいって顔ね?」

「うん。めんどくさそうだし」

「うふふ……そこまでハッキリいう子はツンダークひろしと言えども貴女だけよ。もう、前から思ってたけど本当に面白い子よね」

「いやぁ、つまんない方がいいよー」

 それはモフ子の本心だった。

 リトルとの生活がイヤかといえば楽しいしお気に入りなのだけど、それとこれとは話が別だ。ラーマ神がこの老婆の姿でやってくる時、それは神様が介入してくるほどの厄介事って事なんだと、さすがの脳天気なモフ子でもハッキリと認識しつつあった。

 だが確かに、いくら神様が近いといっても、ここまで真っ正直にブーたれるアホの子はモフ子くらいのものであろう。しかも、例の神様のミルクを「ああ、やっぱりこれ美味しいよね」と平然と嬉しそうに飲みながらなのだから。今度はどこをどう成長(・・)させられるのかもわからないのに。

 しかし、地球にも「神は愚者を好む」なんて言葉があったりする。遠くの野望より目の前の小事、衣食が満ちていれば満足で、強欲の果てに悪事などアホウのする事だと確信しているモフ子の性格は、実に老婆にはかわいらしく写っていた。そして、そんな時の老婆の顔は、モフ子がリトルをかわいがる時のそれによく似ていた。

「まぁ試練ですからね。とにかく行く事は義務よ、いいわね?」

「げげ」

「げげ、じゃないの。それに、これがうまくいけば貴女にも利点はあるのよ?」

「どういうこと?」

 老婆の言葉にモフ子は眉をしかめた。

「リトルが神獣になったら、神域にいつでも入れるって事。今より確実に、いい獲物が穫れるわよ?」

「……マジですか」

「ええ、マジよ。今までも偶然入る事はあったでしょうけど、本当に神獣になるっていえば、そういう事だもの」

「それは……いいかも」

「でしょう?食費稼ぎのためだけのアルバイトが少しは減らせるわよ?」

「おお」

「ただ問題はね、試練の場所なのよ」

「場所?」

「ええ。西の国にあるのよね。ここはシネセツカ北部だから、ゴンドル西大陸に渡らなくちゃね」

「なにそれ……そんな船賃持ってないよ」

 そもそも『はじまりの国』にモフ子が戻っていないのは船賃の高さだった。大西洋の広さはないとはいえ、それは北米大陸からヨーロッパに渡るに等しい。需要の多い航路なので、交易目的でない個人渡航は当然、当然お値段も高くなる。

 さらに言うとリトルの問題があった。さすがに一般デッキをウロウロさせるわけにはいかない。

 そんなわけで「まぁ無理に戻らなくてもいっかー」と、ここシネセツカに落ち着いていたわけなのだが。

「問題ないわ。ここインシュンでしょう?郊外の転移門をお使いなさい。そうすればゴンドル西大陸の一角に飛べる。そこから試練の舞台、エルドラ山へはすぐよ?」

「へ?転移門?」

 モフ子は、しばしポカーンとしていた。

「もう、貴女自分が元プレイヤーなの忘れてないかしら?

 ツンダーク人にとって転移門は特別な存在で、世界の危機のような状況でないと使ってはならない禁忌の存在よ。あれは軌道エレベータと同じ性格のもので、利権を巡って国同士の潰し合いも起きかねないもの。普段は絶対使っちゃいけないものよ。

 ……でも、プレイヤーには使わせている。でしょう?」

「……あー」

「わかった?」

「了解、わかったよ。でも転移門の使い方って知らないんだけど?」

「大丈夫、行けばわかるわ」

「むー、了解」

 

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