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モンスターといこう  作者: hachikun
女戦士とモフモフの章
72/106

閑話・周囲の動き

 モフ子陣営以外の動きです。後半ガラッと雰囲気変わりますが。


「はぁ。昨日は最低だったわねえ」

 とある場所。とある女は紅茶片手にぼやいていた。

 地味だがお気に入りだったツンダークの『職場』。そこを、実にバカバカしい理由で追い出されてしまったのだ。

「なんでプレイヤーのフレンドリスト情報なんてNPCが見てるのよ。キモいっての!」

 リアルとは違う、なかなか見栄えのする有能なボス。無骨だが気のいい用心棒ふたり。たったそれだけの『職場』だったが、実に過ごしやすい場所だった。なんたってツンダークの人間は都会ズレしてないし、大人の職場にモンペアがやってきたりもしないのだから。受付の仕事自体はリアルで慣れていたから、本当にのんびりやらせてもらっていたのだ。あくびが出るほどいい環境だった。

 なのに。

 サーベルタイガー連れの家出娘みたいなのがやってきて、そいつが友達のプレイヤーギルドで指名手配中の女だと知った。その女のせいで何人ものプレイヤーがアカウント削除の憂き目にあっていて、でも当人はwikiにすら出てない裏ワザで全くの別人に身をやつし、ペット連れて一人のうのうと行方をくらましているとか。

 ふざけんなと思った。

 もちろん、即座に友達に通報した。女のスクリーンショットと名前、取れた限りのステータス情報をつけて。

 なのに。

「なんで犯罪者を通報して、叩き出されなくちゃいけないのよ」

 しかもNPCが、勝手にプレイヤーのメニュー操作を追跡するなんて。

 おまけにそれをやったのが、わりといい男でお気に入りのボスだったというのがまた悲しすぎる。

 それだけじゃあない。

 勝手にプレイヤーのメニュー操作を覗いたのを謝罪するどころか、何か違反がどうとかいって逆に非難されたのだ。

 なにそれと思った。意味がわからなかった。

 なんでプレイヤーがネトゲの中で、しかもそういうイベントでも何でもない状況で、人として正しい行動をしたというのに叱られなくちゃならないのか。しかも、プレイヤーのメニューを勝手に覗くような信じられない奴に。

 もちろん即座に通報した。運営からの納得行く説明と、プレイヤーに対してありえない行動をとるようなNPCの排除を求めた。イベントと無関係に勝手にプレイヤーの情報を監視するなど、ツンダークは消費者をなんと思っているのか等の文面もくっつけて。

「ふう……まったくもう」

 もちろん女だってわかっている。ネトゲの「イベント内容」について文句をつけるなら、それは無粋だろう。

 だが、昨夜に女が対峙していたのはイベントでも何でもない。犯罪者プレイヤーをみつけたから通報した、ただそれだけだ。

 ついでにいうと、自分はその女の連れていたペットに攻撃された。間違いなくPK行為であり、自分も被害者だ。ツンダークではPKは禁止とされているはずで、あの犯罪女は当然罰せられなくてはならない。もともと重罪を犯して逃げているプレイヤーなら、アカウント削除なり、場合によってはリアルな刑事告発だってありえるはずだった。

 いくらなんでも、犯罪が絡んだら運営も動くだろう。そう考えていたのだが。

「……なに、これ?」

 運営からのメールを見た女は、目が点になるという言葉の意味を今、理解した。

 メールには、こうあったのだ。

『貴女からの情報を吟味、記録を参照して調査いたしましたが、プレイヤー名「モフ子」とその連れだというサーベルタイガーの行動には、少なくともツンダーク規約上はなんの問題も見受けられませんでした。

 まず問題のサーベルタイガーですが、これはいわゆるペットではなく、テイマーのようなパートナー動物でもありません。単に自分の意思でプレイヤー「モフ子」と行動を共にしているものです。ご指摘の攻撃もしかりで、あなたは単に市街地でサーベルタイガーに威嚇攻撃された、ただそれだけの事となります。

 さらにNPCの行動についてですが、プレイ開始時にお断りしております通り、当ツンダークのすべては統合AIが管理しており、運営は個別のNPCの行動には一切関知しておりません。また、ギルド管理者という職務の都合上、従業員の個人情報漏えいに神経を使うのは当たり前の事であり、それはプレイヤーとて例外ではありません。貴女がこの件で叱責を受けたのは、運営以前に一人の会社員としての立場から、当然と判断いたします。

 また、貴女がプレイヤー名「モフ子」の個人情報を勝手に自分のフレンドにスクリーンショット込みで流した件は、当ツンダークサービスの基本規約の一つ「プライバシーの侵害について」の項目に違反しております。ご存知のようにツンダークにおける基本規約は憲法として扱われており、これに違反した者は重大な警告を受ける他、プレイにも大きな制限がかかります。また今後も違反行為が繰り返された場合、アカウント削除となります。これは脅しではなく、再び違反行為が確認されれば、無条件で実施されます。

 それでは、貴女の今後のツンダーク体験に幸あらん事を』

「……」

 女は最初、何もコメントが浮かばなかった。

「……ふざけるな!」

 女は髪を振り乱し激怒した。そしてwikiを開き、モフ子についての情報を書き込もうとした。

 だが。

『ディーテ問題についてここに書き込むのはやめろ』

『おまえ過激派だろ。過激派はwikiを汚すな、迷惑なんだよ』

 女が知らないうちにwikiの方では、ペット問題を悪く言う意見は排除されつつあった。

 ペット排斥派最右翼だった『ディーテ』自らがサーベルタイガーの仔を育てはじめた件は、ツンダークプレイヤーのペット観自体を大きく揺り動かす激震となっていた。仔猫を伴って現れたディーテが今までの行動を謝罪し、また『神様が現れて、罪滅ぼしにこの子を育てよと託された』という話は公式記録にこそないものの、プレイヤーの間では噂になっており、また「実行犯の中でただ一人消されなかったのは、使命が与えられたからのようだ」そんな声も主流になりつつあった。

 そんな中でモフ子排除論を叫んだところで、誰も聞いてくれない。腹いせにモフ子の情報を書き込もうとしたが当然、個人情報漏えいという事で罰せられた。とうとうwiki自体にアクセス拒否までされてしまった。

「こうなったらツンダークの中で!」

 だが女はログインした瞬間に、異変に気づく事になる。

 なんと目覚めたのが、何もない荒野だったのだ。

「なにこれ?どうしてホームじゃないの?」

 女はギルドこそ作っていなかったが、小さな部屋を借りていた。その部屋で眠る事でセーブし、ログアウトできるようになっているのだ。昨夜も職場を追い出された後、怒りながら部屋でログアウトしたはずだった。

 悲劇はさらに続く。

 町に移動してホームに入ろうとしたら、町に入れない。守衛がガードして通してくれないのだ。

『貴女は犯罪者プレイヤーとして指名手配されています。贖罪しない限り町に入る事はできません。自ら出頭すれば罰金ですむ可能性があります。出頭しますか?』

 目の前で「はい」「いいえ」のボタンが宙に浮いているのが、女にはバカにされているようにみえた。

「なにこれ!犯罪者?どういう事よ!」

 メニューを解除して直接文句を言おうとすると、さらに警告音が鳴った。

『メニュー解除できません。貴女にはメニュー解除の権限が与えられておりません』

「なにこれ……」

 愕然とした思いのまま「はい」「いいえ」の画面を見直す。

 ふざけんなとばかりに「いいえ」をぶっ叩いた。

「よし、かかれ!」

 たちまちに衛兵が群がってきた。

 私は悪くない、知らないといってもメニュー解除できないのでそれを伝える方法がない。メニューで答えなくてはならないのだから、衛兵に従うか、逆らうかの二択しかないのだ。

 かといって衛兵に攻撃を加えたら、それこそ本物の犯罪プレイヤーになってしまう。

 女は毒づきながら逃げ出した。

 ある程度逃げたところで友人にチャットでアクセスして現状を伝えた。だが友人の返答は恐るべきものだった。

『サンディ大変だよ。あんたツンダーク中の組織って組織で名指しでブラックリストに入れられてるらしいよ!』

『うちのギルドも目ぇつけられてて、これじゃどうにもならないよ。ちくしょう、何がどうなってるんだい』

『まずいよ、武器の修理にいったら、おたくらのギルドの武器は直さないって拒否されちまったよ』

『は?プレイヤーのギルドに行ったのか?』

『プレイヤー系がダメなんだよ!中央大陸最大っていう生産者ギルドが、うちら名指しで敵対表明してるって話だよ!』

『なんてギルドだ?ギルドマスターの名前は?ふざけんな!直接乗り込んで(ナシ)つけてやるっての!』

『やめたほうがいいよ。そこのギルドマスター、中央神殿の巫女さんらしいぞ?』

『だから何だ?巫女だぁ?戦闘職じゃないってんなら最高じゃねえか!力の差って奴を思い知らせてやんよ!』

『バカ!巫女に手出しするって正気かい!?それツンダーク全世界への宣戦布告と同じだよ?討伐対象になってツンダーク中から殺し屋やら冒険者やらがわんさと押し寄せてくるよ?』

『はン、いいじゃねえか!雑魚のNPC冒険者なんざ相手になんねーっての!』

『わかってないね。討伐対象になったらPK規制対象外だよ?知らないの?』

『なんだと……』

『賞金稼ぎプレイヤーに追い回されてウチら勝てるの?おいしく経験値にされちゃうだけじゃない?』

『経験値ならまだいいさ。ツンダークって変なとこがリアルだからね。PKかからないってなったら、絶対洒落にならない事やらかす奴が出てくるよ?』

 そんな声が飛び交っていた。

 しばらく沈黙があって、誰かがつぶやいた。

『とにかく一度、集まろうぜ。サンディが町に入れないんなら、外でな。心当たりあるか?』

 また少し沈黙があって、別の誰かがつぶやいた。

『錬金術師の家って知ってるか?』

『なんだそれ?』

『いや、βからいるプレイヤーの家なんだけどな。錬金術師で、郊外に家建てて一人住まいなんだよ』

『なんだそれ。よく襲われないな』

『そりゃ、家そのものや錬金畑には他のプレイヤーは入れないからな。重要なのはそこじゃなくて、近くの洞窟だよ』

『洞窟?』

『ああ。中が広くなってて古代遺跡みたいなのがあるらしい。錬金術師の手で調査済みらしいんだが大したもんはなかったって話で、モンスターもいない場所がまるまる未使用なんだと』

『ほうほう、いいね。じゃあ、そこに行ってみるか?』

『錬金術師の人から文句は出ないのか?』

『大丈夫だと思う。前に色々あって錬金術師とフレンド登録してるんだけど、最近は滅多にログインしてないみたいだからな』

『今は?』

『留守だな』

『よし、じゃあちょっと借りよう。もし当人がログインしてきたら、ひとこと断ればいいだけの話だ』

『ふむ、皆もそれでいい?サンディは?』

『大丈夫だと思う』

『いけますー。でも一日ちょうだい、ちょっと遠いんで』

『わかった、じゃあ錬金術師の小屋の前で。いいな!』

『了解ー』

『了解です』

『おけ』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「ここが西の国かぁ。静かなとこだねえ」

 のほほんとした顔のローブ姿の少女が、新しい街の入り口に立っていた。

「衝動的に来ちゃったのはいいけど、こんなとこにお仕事あるのかな?あまりお金もないしー」

 そんな事を考えつつ、とりあえず広場の噴水脇に腰掛けた。

 町の中心とは思えない、静かな昼下がり。

 鳥の声。遠くから響く子供たちの声。

 もっと遠くから、かーん、かーんと響いているのは建築の槌音か。

 そんな、のどかな風景をボーっと見ていたら、

「ああくそ畜生、これじゃ怪我損じゃねえか!」

 そんな悪態をつきながら、ひとりの青年が少女の近くにドカッと腰をおろした。

 少女は一瞬だけビクッと反応したが、青年の方を見て、そしてその青年が血だらけなのを見ていきなり豹変した。

「た、大変!」

「……あ?」

 唐突な声に眉をしかめた青年。だが少女はその青年の前に立つと、

『疾病・障害探査』

 いきなり回復魔法をかけはじめた。

「おい、あんた魔道士か?いきなり魔法なんてかけられてもオレ、金払えねえからやめてく──」

「いいから怪我人は黙ってなさい!じっとして!」

 問答無用の剣幕で黙らせ、さらに続ける。

『探査結果。怪我・失血のみ。術式開始する。

 第一、消毒……クリア。

 第二、負傷部位回復…………クリア。

 第三、造血促進……オッケー。完全治癒は六時間後』

 そこまで唱えたところで少女は術式を終了させた。

「ふう、これで大丈夫だよ。でも酷い怪我だったねえ。いったいどこで怪我したの?」

「は?いや、森でウサギを追っててオオカミの集団に遭遇しちまって」

「オオカミ?ここいらだとコモンオオカミ?あなたの得意武器は?弓だけじゃないよね?」

「……」

「まさか、弓だけで、しかも、ひとりで?」

「いやぁ、仲間を雇う金がなくてな。これでも一家の大黒柱で……」

「何やってんの!無謀でしょう!?」

 少女はムッと眉をよせて青年を叱責しはじめた。

「一家の大黒柱って事は旦那様?奥さんと子供いるの?そんな人が無茶してどうするの!残された人はどうなるとか、そのへんちゃんと考えて行動なさいよ!」

「まだ結婚してねえよ。でもオレ長男だし」

「そういう問題じゃないでしょ!……あ」

 少女はそこまで言ったところで、ピタリと動きを止めた。

「仲間がいない?ひとりっきりで弓だけ?……うん、いいかも」

「は?」

「あのねぇ、弓使いのお兄さん。私仲間が欲しくて困ってるんですけどぉ」

 緊急事態でキリッとしていた顔を、にへらっと元の平和そうな顔に戻すと、少女が言った。

「私、はじまりの国から来たばかりで、おまけに回復術師なの。武器はこれだけだし」

 そう言うと、腰につけてある妙に変色した鉛色のメイスを手にとって見せた。

「回復師のメイス使いか……なるほど、あんたも前衛がほしいってわけか」

「ん?ああ違うの。私が前衛できるよって話なの」

「は?」

「見て」

 少女がそう言うと次の瞬間、少女のローブが黒っぽい色に変色した。

「これは……?」

「これ、魔織のローブっていうの。魔力を通すと硬化して鎧の代用品になる。それぞれの個人にあわせて作らなくちゃならないからどうしても高くなっちゃうんだけどね。……ほら、触ってみて」

「え?で、でも」

「いいから」

 ローブとはいえ女の子に触る、という事に青年は難色を示したが、少女の方に押し切られた。

「すげ……そんじょそこらの鎧に負けないな」

「私、みんなにバカ魔力って言われたくらい魔力だけ(・・)はあるから。でもね、ちょっと困ってるの」

「そうなのか?回復使えて武器もあって防御もできれば……あとは無理しなきゃどうにでも」

「このメイス持ってみて。そしたらわかるから」

「いいのか?」

「いい。持ってみればわかるから」

 自分の武器を異性に触らせるというのは、ツンダークでは親愛の証でもある。青年はためらったが、少女が持てというのだから仕方ない。それに実際、青年も少女にもっと触りたいと思っていた。

 果たして。

「なんだこのメイス。いやに軽いな」

 メイスは重さと硬さをもってぶん殴るものだ。ハンマーと同じで軽すぎると威力がなくなってしまう。

 なのに少女のメイスは異様に軽かった。

「体力ないんですよぅ。おまけに私、上級回復に手をつけようとしたら現状で祝福(ポイント)が足りなくて、攻撃魔法とってないんですよぅ。幸い、付呪はできるからメイスに毒や麻痺の付呪をしてですねえ」

「……前言撤回するわ、ちょっと色々待て。オレより無謀だろそれ?回復取り過ぎて攻撃手段がないって?」

「いえ、だから付呪でですねえ」

「あのなぁ……おまえ異世界人だろ?異世界には『溶岩に風を送っても』って言葉はないのか?」

「あー、たぶん『焼け石に水』が近いかもですねえ……あ、そういう事ですか?ひどいですねえ」

「うるせえな、無謀女に無謀って説教されたかねえっての!」

「あははは……」

 青年にも、どうやら少女の本質が見えてきた。先ほどのキリッとした様子はあくまで治療時の話で、本来はこの、のほほんとしている方が地なのだろうと。

「しかし、神殿勤めの神官や巫女でもないのに上級回復とれるのか。異世界人ってやっぱり(すげ)ぇんだなぁ」

「そうなの?」

「オレらでも取れないって事はないと思うよ。でも、マスターできた頃には爺さん婆さんだよ。だからこそ回復使いは貴重なんだぜ?」

「そっか……」

「そっかじゃねえよ。でもそうか……まとめると、おまえは守りと回復はできるが攻撃力がないって事だな?」

「はいです。で、お兄さんは中遠距離専門で接近戦がしおしおのパーって事ですねえ」

「そこまで言うかよ、おい。でもまぁ、おまえの言いたい事はわかった。組まねえかって事だろ?」

「はいです」

「女を前面に立たせるっていうのは正直気に入らねえが……それはオレがボチボチ前衛覚えるか、何か別の手を考えるしかないか」

「そうなりますねえ。で、その間くらいは、私が保たせてみせますよ?」

「ふむ……」

 青年は少し考えこみ、そしてポンと手を打った。

「よし、その案乗ったぜ!」

「よろしくお願いしますねぇ」

 と、そこまで言ったところで少女が少し困った顔をした。

「ん、どした?」

「そういえば私、ここ来たばっかだったんだっけ……お兄さんの怪我騒ぎですっかり忘れてたよ。んー、どうしよ」

「何のことだ?」

「あー、実は寝床がなくて。お金もあんまりないし、どうしようかなって」

「……」

 青年はためいきをつき、がくっと肩を落とした。

「……退屈しないなぁ、おまえ」

「?」

「行くとこないんならオレんちに泊まれ。ああ、心配しなくてもオヤジもお袋もいるからよ。オレ、両親が歳とってからの子供なんで、二人ともじっちゃんばっちゃんみたいだが」

「え、いいの?」

「いいのも何も、おまえ……組んで戦おうってパートナー、しかも女の子が宿なしなのにオレに放置しろってか?」

「あ、あはははは……ご、ごめんなさい」

「はぁ。いいから来い、その様子じゃメシもまだだろ?

 ああそうだ、オレの名はマオ。ここいらで弓のマオっていえばオレの事だ。おまえは?」

「あたし……マナ。ヒッキーのマナって……その、と、友達には言われたよ?」

「ヒッキー?なんだそりゃ?」

「ひきこもりって事。私、もう何年も家から出てないの。色々あってね」

「……は?何言ってんのおまえ?」

「え?」

 不思議そうな顔をする青年と、その青年の反応を訝しむ少女の視線が交差した。

「おかしいだろ、それ」

「何が?」

「ここツンダークだぞ?おまえから見たら異世界だぞ?そうだろ?」

「あ、うん」

「おかしいだろうが。何年も家から出た事ないっておまえが、なんでここにいんだよ?ここはおまえん家の中か?」

「…………は?」

 少女は青年の言葉にフリーズした。

 そして、何か悩むようにしばらく「うむむむ」とか悩んでいたのだが。

「…………あぁ、そっか。そうだよね」

 唐突に、花がほころぶように、朗らかに笑ったのだ。

「お、おい」

「ああごめんごめん、つい考えに夢中になって。あー、でもそっか、確かにそうだよね。家から出られないはずの私が、なんでこんな遠く(・・)にきてるんだろ。異世界って凄いねえ」

「いや、意味わかんねえから」

 クスクスと楽しげに笑う少女に、とまどう青年。

「ごめんね、もう大丈夫。でも本当にいいの?お世話になっちゃって」

「大丈夫だって。ま、ひとつ注意する事といえば」

「?」

「うちの両親、オレに女の子連れて来い、連れて来いって五月蝿いからな。嫁さん候補にされかねないから、そこだけは心配しといてくれよ」

「あははは、わかった」

 のんびりした少女と弓矢もちの青年のふたりは、のんびりと町に入っていった。

 ちなみに約二年後、青年に説得され、押し切られた少女はついに移住を決意。居残り組となるのだが……それはまた、別のお話である。


 メニューシステム的には今のところ、モフ子とリトルは同居人として扱われています。

 モフ子とリトルの関係は飼い主とペットではない。ツンダークのペットシステムはサトルの章で示したように汎用スキル『和解』により飼い主とペットの関係にならねばならず、もちろんサトル君のようにテイマー契約もなされていない。また同意の上で首輪をつければ擬似的なペット契約とみなされますが、モフ子はリトルに首輪をつけておらず、つけようと考えた事すらありません。そして両者には血縁関係もありません。

 この状態でリトルがプレイヤーを食い殺したとしても、当たり前ですがモフ子の責任にはなりません。ただし監督の義務がない代わりに、自分の所有物である事を主張して法的にリトルを保護する事もできません。

 もっとも、ラーマ神の庇護下にある二人をこれ以上どう保護するのか、という話もありますが。


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