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モンスターといこう  作者: hachikun
サトルとテイマーとウサギの章
7/106

カキワリの裏側(2)

「ん?」

 その感覚は、フラッシュとふたりで町に戻ろうとフィールドを歩いていた時にやってきた。

 誰かが見ている。

 その感覚が気のせいでない事はすぐにわかった。敵味方の識別が簡易的に出るコンパスがあるんだけど、そのコンパスに敵の反応がポッと現れたからだ。

 コンパスに出るのは俺が認識した存在だけだ。つまり、気配の主を俺が認識したから表示が出たわけだな。午後にさんざんフラッシュと試した、気配察知って新しいスキルと同じだった。

 うん、これは間違いないだろう。

 さてとこちらも隠密行動をとろうとした。だけど、いやまてよと思い直した。

 今、俺はどこに向かってる?もちろん町だ。

 では、この状態で隠密行動して意味は……あまりあるとは思えない。町の中で隠密行動していたら目立つし、居候状態のガラムさん家にも迷惑がかかりかねない。

 夕刻が迫っている。夜はフィールドの危険度が段違いになるし、誰もが家路を急いでいる。もちろん視線の主もそれを計算の上で俺をつけてきているんだろう。

 では真正面から対峙?いや、それもまずいだろう。

 相手の狙いがわからないが、ひとつだけ思いつくものがある。つまり狙いは俺でなくフラッシュ。フラッシュはプレイヤーじゃないからPKが適用されないからだ。

 よし。だったら逆にかき回してみるか。

「フラッシュ。ちょっと森に戻ろうか」

「?」

 俺は屈みこんでフラッシュと視線をあわせた。そして小声で告げた。

「どうも、よろしくないお客さんがいる気がするんだ。おまえ気づいてるか?」

 フスッといつもの返事。どうやらフラッシュも気づいていたようだ。

「おけ。一度森に戻ってかき回してから隠密で戻ろうと思う。おまえはどう思う?」

「……」

 やはりフスッと返事をすると、フラッシュは元きた道を戻りだした。もちろん俺もそれについて、見た目、ちょっとあわてた風に戻り始めた。

(ふむ)

 間違いない、視線も、そしてマップの反応もついてくる。

 それにしても。

(なんだか強い視線だな。何者かしらないが雑すぎないか?相手が隠密使いならすぐバレちまうだろうに)

 と、そこまで考えて、ひとつの可能性に気づく。

(あ。もしかして、俺の隠密レベルがあがったせいなのか?)

 そう。あれからこの時間までで、さらにレベルが上がったんだ。もしかしたら隠密行動限定では既にトップランカーかもしれないってくらいに。

 そして『気配察知』『聴音』って便利そうなスキルもついた。隠密漬けで気配を殺し続けていたので、他者の気配を察知しやすくなったという事らしい。

 ただし。

(察知できるのはありがたいんだけどさ。攻撃力がないんだよね俺って)

 そう。俺の武器というと小さな木製のナイフだけだ。

 もちろん木製といってもナイフに使われるだけあって、青銅よりは硬い。硬いんだがナイフはナイフなわけで、ナイフ使いでない俺にとっては道具以上のものではない。

 まぁいい。今は移動しよう。

 森に入った。

 入り口でわざと装備をチェック、そして隠密行動に切り替えた。するすると移動して相手がチェックできそうな位置に移動する。

(おや)

 相手が動揺し、動き出したのがありありとわかった。

 うまくいったらしい。森に入った事、こちらの隠密行動力、そして夕刻。こっちを見失ったか、あるいはわかりにくくなったか。

 気配を殺し、物陰から見てみる。

 森の中はだんだん暗くなってきている。だけどフラッシュと遊び倒し……もとい、訓練している俺ならまだ大丈夫。相手の判別くらいはできた。

 相手は男。もろに盗賊、または隠密って感じの奴がそこにいた。

 移動中に妙な、軋むような微かな音が時々していたが……どうやら革鎧の硬い部分がこすれる音だったっぽいな。おそらく消音のための細工もしてあるんだろうが、それでも鎧の出す音を完全に消すには至らないに違いない。

 だったらどうして脱がないのか、とも思う。思うけど、それは俺の立場だから言える事なんだろう。普通なら、鎧なしで敵のいるフィールドを隠密技術だけを頼りに歩きまわるなんて正気の沙汰ではないだろうし。

 さて。フラッシュが耳をたてるイメージで、そっと耳をすましてみる。

 お。何か聞こえてきたぞ。

『まさか隠密で……いやまさか。しかし本当に新人(ニュービー)かあいつ?セカンドか重課金、いやもしかしたらチートじゃないのか?』

 なんかボソボソつぶやいてるなぁ。

 wikiによると、チートっていうのは何か良くない方法で凄い力を手に入れる事らしい。あと重課金は、まぁわかるよな。純粋にゲームと考えるともちろんダサい方法だけど、誰もが廃人レベルに時間を注ぎ込めるわけじゃないって事だろう。

 え?俺?マイペースで楽しむつもりの俺は当然、そんなもの使っていない。そもそもテイマーってどこをテコ入れすりゃいいのかもわからないしね。

 ああ、そういや武器といえば、問題がひとつあるんだよなぁ。

 隠密行動にならんで、テイマーのもうひとつの主力、つまり幻惑魔法の方だ。こっちが丸っきり手付かずなんだよね。なんたって指南書には『普通の幻惑魔法とは関係ありません。あれも知っておけば役立ちますがテイマーが使うものとは違うのです』って事だし。まぁ本の方には『心配せずとも、必要になれば仲間が教えてくれます』ともあったが。

 どういう事かな?フラッシュが魔法を使えると?使えないよなぁ。むむ。

(さて。ここまではいいが)

 あいつが帰るまで粘っていたら、間違いなく夜になるよな?どうしようか?

 そんな事を考えていると、

(ん?)

 フラッシュがなぜか、とことこ歩いて前に出た。姿を隠す事もなく。

(おい、何やってんだっ!)

 一瞬ボケッとしてしまったが瞬時にその意味に気づいた。あわてて止めようとしたがもう遅い。

「あ?」

 盗賊野郎がフラッシュに気づいた。

「なんで、こんなとこにフィールドラビットが?ん?ありゃ?こいつもしかして」

 ち、やっぱり俺のフラッシュだって気づきやがった!

 だが次の瞬間にフラッシュがやりはじめた事には、俺も驚いた。

 

 

 ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、ぷー、…………。

 

 

 その妙に可愛い声がフラッシュの鳴き声だという事に、一瞬遅れて気づいた。

「……は?」

 いや、びっくりしたのは盗賊野郎も同様らしい。なんかもう、あからさまに「ぽかーん」とした表情でフラッシュの奇行を見ていた。

 ええと、何がしたいんだフラッシュ?

(ん?)

 だがそのうち、妙な事に気づいた。

(なんか……こいつ、魔力放ってね?)

 うん、やっぱりそうだ。すんごく微量だけど、声に魔力が乗ってるっぽい。メッセージか何かなんだろうけど……内容は?えーと……あ、なんかわかるぞ。なんでだ?契約してるからか?

 いやいい、理由なんかどうでもいい事だ。それより内容は?

(求む?何を求めるんだ?……騒げ?こっちで?)

 あ、わかった。『ちょっとこっち来て騒いでくれ』って感じだな。

 でもこれ、誰に向けて放って……って!?

「え?なんか気配が」

 うん、わかるよ盗賊野郎。俺もビシバシ感じるもん。

 幸い俺は敵意を感じない。だけど奴にとっては?

「え、ええ、えええええっ!」

 いきなりだった。

 いきなり森の中から、大小いろんな動物がわらわらと凄い勢いで駆けてきたんだな、うん。

「ちょ、まて、まてまてまてっ!ひぃぃぃぃっ!」

 盗賊野郎は悲鳴をあげつつ逃げ出した。だけど間に合わない。

 たちまちのうちに盗賊野郎は動物たちに飲まれた。なんかダメージいってるっぽい異音が、ゲスっとかガスっとか響いているわけで。

 これは……フラッシュが仲間を呼んだって事か?鳴き声で?

 いや違うか。あれはどちらかというと……?

 そんな事を悩んでいると、なんかツンツンとつついて来る者が。

「お?うん、そうだな」

 フラッシュだ。さっさと逃げようぜという事らしい。

 うん、そうだな。とっとと逃げよう。

 

 

 

 ガラムさんのところに戻ると、こちらにも驚きが待っていた。

「お嬢さんがひとり訪ねてきたぞ。おまえさんと同じ世界の人だ。わけあって名前は明かせないとの事だけど、おまえさんに伝えてくれって伝言もってな」

「は?訪ねて……あー」

 ツンダークに女の人の知り合いなんていない、と言おうとしたんだけど、ひとりだけ思い浮かんだ。

「ガラムさん。その人、うさぎ連れてた?ペット扱いの」

「ああ、そういや連れていたな」

 やっぱりかな。心当たりはあの人しかいない。食堂で話した人だ。

 でも、なんの用だろう?

「それで伝言って何です?」

「うむ。何でもテイマー狩りがおまえさんをターゲットに据えた可能性が高いそうだ。おまえさんのうさぎが狙われる可能性が高いから、十分に注意しろって事だ」

「……ははぁ、そういう事か」

「ほう?何かあったのか?」

「はい」

 俺は正直に、さっき盗賊に絡まれた事、フラッシュが不思議な魔法で森の動物たちを呼んだ事を話した。ガラムさんはそれを聞き、ふむふむと腕組みしつつ考えていた。

「それは動物の魔法だな」

「動物の魔法?」

 聞いたことないぞそれ?

「まさかおまえさん、うさぎが鳴き声で森の動物たちを呼べるとかファンタジーな事考えてないよな?」

「いやいやまさか」

 そうか?と、ガラムさんは少し苦笑するように俺を見た。

「それは音響魔法の一種さ。物理効果はあまりないが、敵味方を混乱させたり恐怖に陥れたりもする効果がある。まぁ、本来は動物が求愛に使うものから発達したらしいんだがな。獣魔法の類だが、人間でいうところの幻惑魔法にあたるといえるだろう」

「え」

 幻惑魔法!?

「なんだ?そんな(ピッツ)に豆ぶつけたみたいな面しやがって」

「ガラムさん、それって僕にも習得できますかね?」

「サトルがか?……ははぁ、なるほど。テイマーの魔法って事か?ふむ」

 少しガラムさんは考えこむと、うむと手を叩いた。

「ありうるな。ありうるが、確認してみたほうがいいだろう。指南書の方も調べてみてはどうだ?」

「そうっすね。わかりました……あ」

 そこまで言ったところで思い出した。

「ん?なんだ?」

「これ。宿代にもなりませんが」

「なんだ、そんな細かい事きにすんなって……ほう?こりゃあ」

 森で拾った古いコインだ。ボロボロなんだけど、いい値がつきそうな気がしたので持ち帰ってみたんだが。

「こりゃあ帝国金貨だな。大金だぞ」

「そうなんですか?森の奥に、腐った財布の中に入ってたんですが」

「遭難者のものだなこれは。他にわかるものはあったか?」

「いえ。財布の方にも紋章みたいなものは見当たらなかったし」

「そうか、わかった。これちょっとあずかっていいか?」

「いえ、さしあげます。おみやげにするつもりだったので」

「だが高いぞ?これだけあれば装備一式揃うが?」

「ガラムさん……僕テイマーですから」

「あ、そうか」

 そう。大金もってたって装備が買えないしね。食べたり飲んだりの分は何とか稼いでるわけだし。

「わかった、じゃあこれは謹んでいただくよ。それでだサトル」

「?」

 次は何だろう?と思った俺に、ガラムさんはニヤッと笑った。

「メシだメシ。いつまでそこに突っ立ってんだバカ!」

「あ、はい。すみません」



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