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モンスターといこう  作者: hachikun
女戦士とモフモフの章
66/106

戦力確認

「とにかく、戦力を把握しなくちゃね」

「?」

 ミルクを飲み終わり満足気なリトルを横目に、モフ子は唸った。

 購入したミルクボトルの数は9つ。結構な日数保つだろうと思っていたが、なんのなんの。このままリトルの食欲が上がり続けたら、あと6日もあればミルクは尽きてしまうだろう。

 その頃までには戦力の把握が終わり、戦闘スタイルを確定する必要もあった。

「だって、ねえ」

 自分ひとりなら最悪、過去の事で私刑(リンチ)でも何でも仕方ない。だが今、それが起きると百%確実にリトルが殺されてしまう。

 プレイヤー同士はPKになるが、ペット殺しはPKにならない。要するに、過去のモフ子がペット狩りで利用してきた事が、そのまま跳ね返ってくるわけだ。

 しかし、たとえ自業自得だったとしても、モフ子は負けるわけにはいかない。リトルがやられてしまうわけにはいかないのだから。

 ならば、とれる手もひとつしかない。

「ごめんね。でも今は、今だけは、たとえ何て言われても、道理を踏みつぶしてでも無理を通させてもらうよ」

 絶対に、どんな手を使ってもリトルは殺させない。そのためには何が必要か?

 まず、リトルが充分に戦えるようになるまで、絶対に人前には出ない。

 そして人前に出るようになって、ペット殺しがやってきたら……どんな手を使ってでも押し通る。たとえ、それで自分がどれほどの悪人とされたとしても。

 理屈はわかる。が、無謀にもほどがある結論だった。

 そもそも相手がプレイヤーである以上、モフ子自身は戦えない。もし彼らと戦うなら、こちらの戦力はリトルしかない。

 当たり前だが、現状のリトルではもちろんプレイヤーには勝てない。

 まぁそれはいい。弱いからこそ訓練するのだから。

「さて。それはいいとして、どこで訓練させようかしら?」

 一番いいのは弱いモンスターから戦わせる事だ。

 しかし、まずい事にこのあたりにはモンスターがいない。

 以前はこの周辺にもモンスターがいたのだ。だがプレイヤーが狩りまくったら居なくなってしまった。ゲームではこういう場合、リスポンといって一定期間で自動的にモンスターが再配置される。だから当時は「そのうちリスポンするんだろう」と言われていたが、β時代が終わり正式公開された今も変わらないって事は、ここにいたモンスターたちはリスポンしない、あるいはリスポンするとしても周期が長いのだろう。

 もちろん、ふたりだけで仮想的な訓練ならできる。

 だが、それはあくまで代用品。実戦なしではダメだとモフ子は考えていた。

「この穴の奥、まだ見てなかったっけ?ちょっと調べてみるか」

 洞窟性のモンスターは気持ち悪いから好きじゃないが、背に腹は代えられまい。

 そうと決めたら準備をする事にした。

 食料備蓄、改めてOK。灯火類はないが、単独行で灯火類はありえない。使うと最悪、大量の敵を一気に呼び寄せてしまうので、ここは『暗視』で代用する。

(……)

 正直いえば、モフ子は暗いのが苦手だった。

 でも怖いったって虫の大群よりはマシだろう。

 さて。

「よしリトル、あたしはちょっとお出かけしてくるからね。ちゃんと留守ば……」

「……」

 リトルは、じーっとモフ子を見ていた。出入口の前に座り込んで。

「あー……ダメよ?危ないから。あんたのために調べてくるんだから、大丈夫なら後で連れてくから。ね?」

「にゃー」

 ひどく不満そうだった。後なんざ知るか、今連れてけというオーラを全身から放っている。

「いやぁ、そこは言うことを聞くべきだと思うよ?心配しなくても、そのうち、もう嫌だってくらい戦わなくちゃいけないんだし」

「にゃー」

 やっぱり不満そうだった。

「はぁ、仕方ない。ならば実力行使……って、え?」

 リトルを持ち上げてテントの奥にやろうとした、まさにその瞬間だった。

 ……ビリ。

 突然リトルが爪を一閃したかと思うと、今まで平気だったテントの生地がいきなり大きく裂けた。

「え?……えぇ?」

 で、そこからスルッと外に出ると、そのままトコトコと周囲を固めている結界石のところに歩いて行って、

「ニャッ!」

 そう短く鳴いたかと思うと、結界石を激しく爪で引っ掻いた。

 で、次の瞬間、

『警告・結界が破壊されました。本フィールドは効力を失います。不意の襲撃にご注意ください』

「ちょ……な、何やってんのあんた!」

 呆然とするモフ子の前にリトルはトコトコと歩いてきて、なぜか得意げにニャアと鳴く。

「……なんでドヤ顔なのよもう」

 思わず脱力したモフ子だった。

 だが、多少の事ではめげない脳筋娘である。やっちまったもんは仕方ないと即座に頭を切り替えると、破れたテントを手早く回収する。お留守番作戦は中止のようだ。

「しょうがないなもう。わかった、連れてくよリトル。でも」

 目を細め、可能な限り殺気をこめてリトルを睨んだ。

「あたしの言うことちゃんと聞くのよ?やばいと思ったらすぐ逃げるのよ?その時はあたしにも警告するのよ?できる?できないっつってもやらせるけどさ」

「にゃ?」

「にゃ、じゃないっての!」

 殺気は通じないらしい。むしろ遊んでくれると思っているのか、実に嬉しそう。

「……ダメだこりゃ」

 思わず頭を抱えたモフ子だった。

 

 

 

 そんなこんなで仔猫(リトル)連れでの穴探検となった。

 当初、モフ子は「少しでもやばいと思ったら中止」と決めていた。最悪、街道をギリギリ避けてプレイヤーの近寄らない田舎町に行くか、あるいは深夜に町に戻り、神殿で事情を話して相談するような選択肢も考えていたのだ。とにかく今はまだリトルが子供すぎるため、危険は避けたいと考えていた。

 考えていたのだが。

「にゃ!」

 短い鳴き声、または無音のまま、リトルが岩百足(ロックワーム)を倒した。

(まさか、こんな穴に岩百足とはね。どこかで洞窟にでも開口してるのかしら?)

 いや、岩百足といっても大きなものではない。リトルが相手をしているのは小さなものばかり……と、それでも30cmくらいはあるのだが。それより大きいのは発見しだい、モフ子が潰している。

 岩百足は成長すると約二メートルを越える。そのうえ群れる性質があり、古いダンジョンでは万単位以上の大集団に達する事もある。これの大群落に出くわしたら最後、広域破壊魔法のような対抗手段がない限り、最前線のトッププレイヤーでも逃げるべしとされている。ある意味、メインクエストに出てくるドラゴン軍団よりも危ない連中だった。

 たかが虫?

 レベルアップすれば問題ない?

 そういう考えをもつ者は、おそらくはツンダークを知らない素人だろう。

 いかに修練を積んでも人間である限り、なんらかの祝福でもないと普通に毒も食らうし切れば血を流す。それがツンダークの仕様である。だからこそ「数の暴力」は最悪の敵となりうるわけで、注意が必要なのだ。

 実は以前、この件について問題か起きている。日本製の某ファンタジーなゲームから流れてきたプレイヤーがボス攻略後の帰りにフィールドのザコ敵に殺されてしまい、「高レベルになったのに雑魚にダメージ喰らうなんてありえないだろ」と運営に文句をつけるという事件が起きている。つまり一部のプレイヤーにとっては「高レベルプレイヤーがザコ敵からダメージを受けるのはおかしい」という認識だったわけだ。

 当たり前だがこのプレイヤーの苦情は切り捨てられた。当時の運営の回答はズバリ「人間ですから当然切れば傷つきます。いくら高レベルでもゼロにはなりませんし毒も受けます」だった。極めて当然の回答だったが、そのプレイヤーと所属パーティは激怒、wikiと掲示板に文句を書きなぐったり、一時期騒動になった。

 まぁその件の是非は置いておこう。ここで重要なのは、とにかくツンダークでは「数が多い」は非常に危険という事だ。

 それにしても。

「結構やるわね」

 リトルの予想外の戦闘力に、むうっとモフ子は唸っていた。

 小さいのでダメージ耐性はどうにもならないだろうが、それを差し置いてもなかなかのものだ。何より野生という事か素早さが大変なもので、リトルは余裕で岩百足を始末していく。それも小さいものは当然として、時には自分より大きな個体すらも器用に倒していく。

 もちろん、数任せのローラー作戦にかかられたら、ひとたまりもないだろう。だが現時点でも充分だ。

「おっと!」

 脇から出てきた大物を、すかさず斧でぶっ潰した。

「リトル、でかいのは、あたしがやるよ!」

 通じているかはわからない。だがきっぱりと宣言し、そして宣言の通りに大物だけを潰していく。

 小型種は斧では狙いにくい。そしてリトルの爪や牙では大物はやりづらいだろう。そんな理由での住み分けだ。

「この!よっ!はっと!うわぁ、増えてきた増えてきた!リトル、あんたそっちは……OKみたいね」

 ちらっとリトルの方を見たが、仔猫とは思えない無双状態だった。小物限定とはいえ立派なものだ。

「しっかし、ちょっとこれは数が……ん?」

 ふと見ると、右奥の向こうに光が見える。

「広場か?それともダンジョンにでもつながっちゃってるのかな?」

 ちなみに、岩百足は明るいところには絶対出てこない。あの光の具合なら問題ないだろうとモフ子は推測した。

「リトル、あっちに移動するよ!」

 戦いながら少しずつ場所を移っていく。見ればちゃんとリトルもついてきている。

(う……もしかしてこの子、下手な人間の仲間よりずっと使えるかも)

 内心、モフ子のリトルに対する評価は、当初よりもずいぶんと高くなりつつあった。

 

 

 

 光の正体は出口のようだった。ふたりは明るいどころか、見知らぬ森の中に出てきてしまった。

「こんな町の近くに森なんてあったっけ?……んー、まぁいっか」

 周囲の安全を確認する。

「とりあえず大丈夫っぽいわね。休憩するよ、おいで」

 周囲のニオイを嗅いだりチェックしていたリトルを呼び寄せると、ご休憩用の簡易結界を作動させた。

「ほら、ここに座りなさい。今綺麗にしたげるから」

 岩百足の体液やら何やらでリトルの毛皮が汚れている。それを生活魔法で綺麗にした。

「よしオッケー、おつかれ。とりあえず休もうね」

「みゃー」

 さすがに疲れていたのだろう。リトルはモフ子の膝の上に乗ると、そのままあっという間に寝入ってしまった。

 それにしても。

「ふぅ。まさか、初戦であんな大群にぶつかるなんて」

 軽い様子見のつもりが、マジな戦闘になってしまった。リトルが想定外に強くなかったら、大変なことになったかもしれなかった。

 それと。

「あたしの戦闘力もあがってるよね。かなりデカい岩百足も一撃だったし」

 以前のモフ子なら、大型種は二、三発食らわせないと殺せなかったはずなのに。

 とにかく、ステータスを確認してみよう。

 ウインドウを開いたモフ子だったが、

「……え?」

 見た瞬間に固まった。

 

 

 

 『モフ子』職業:獣戦士Lv6、兼汎用魔道士Lv2

 特記事項:幼獣(リトル)の保護者

 特記事項2:名称強制変換(神の意思)

 

 人物データ:とある事情により新しい自分となり、新たな出発をする事になった。

  斧・ダガー・弓を武器とし、さらにスリープ等の初級魔法を補助に使う。

  派手さはないが、どの武器も技能もよく鍛えられている。また歴史的事情で隠密行動レベルが高い。

  人間を含む人型との戦闘を得意とする反面、動物型はあまり得意ではない。アンデッドは苦手。

 

『リトル』種族:サーベルタイガー(幼獣) Lv18 性別:male

 特記事項:飼い主(モフ子)

 特記事項2:神域のミルクにより成長が加速化しています。

 特記事項3:レベル50に到達したら、幼獣分類から開放されます。

 

 

 

「なにこれ……なんでこんなレベル上がってるわけ?」

 リトルのレベルアップはわかる。何しろピッカピカの初戦闘のうえに神様から注目までされているのだ。これで上がらなかったら嘘だろう。

 問題はモフ子の方だ。上位職のレベルなんて、そう簡単にあがっちゃいけないはずなのに。

「ん?スキル増えてる?……詳細見てみようか」

 詳細データの方も開いてみた。

 

 

 

 スキル:獣人化(ゾアントロピー)Lv1、隠密行動Lv52、不意打ち、見敵必殺Lv3、忍び早足、戦闘斧、仕掛け弓

 モフ子の詳細データは以下の通り。

  幼獣の保護者:幼獣が成獣となれば『パートナー』等に変化する。

  名称強制変換:神の意思によりプロフィールが書き換えられている。神に目をかけられし者。

  獣人化:獣戦士固有スキルの一つで、パートナーの獣に神獣要素がある場合に覚醒する守護獣(ガーディアン)スキルの一種。獣の咆哮(ビースト・ハウリング)またはパートナーの生命危機を入り口に半人半獣の姿に変貌し、全ての戦闘力が一時的に六倍になる。ただしパートナーが低レベルのうちは神力が足りないので腹が減ったり、変身解除してもうまく元に戻れなかったりと混乱が生じる事がある。

  戦闘斧:戦斧で戦うための基本スキル。

  不意打ち:急襲スキル。バックスタブほどではないが不意打ちで大ダメージを与える。

  見敵必殺:急襲スキル。狩猟神の恩恵。弓矢・スリング・ダーツ等、あらゆる投擲武器の命中率が跳ね上がる。

  忍び早足:隠密行動状態のまま駆け足速度で走れる。ただし疲労が早くなる。

  仕掛け弓:曲芸神の恩恵。弓を使って火を放つ、煙幕弾を撃ちこむ、わざと音をたてて撹乱する等。弓矢を小道具にした小技のエキスパート。なにげに所有者が非常に少ないレアスキル。

  

  

 スキル:情報連携Lv1、子の鳴き声Lv1

 リトルの詳細データは以下の通り。

  情報連携:リトルは未だ人語を介さないが、戦闘時にはモフ子とうまく連携できる。

  子の鳴き声:敵に戦意喪失や混乱を惹起し、保護者の全ステータスを急上昇させる。

 

 

 

「……」

 モフ子は文字通り、( ゜д゜)ポカーンとしてステータス情報を見ていた。

「何よこれ……」

 やっとの事で絞り出した言葉も、激しく混乱しきっていた。

 もともとモフ子のスキル構成は索敵系だ。戦斧スキルを持っているのは彼女なりの歴史的事情によるのだが、それを除けば問答無用に探索系、または狩猟系だろう。それ自体は全くおかしくない。

 だが。

「獣人化て……」

 なるほど理屈はわかる。リトルが特別だから、それを守るためのスキルなのだろう。獣戦士というのはモンスターとの連携で活動する職種らしいから、リトルのレベルアップにあわせてこちらもスキルに目覚めたという事か。もしかしたら、モフ子側のレベルアップもそのせいなのかもしれない。

 しかし。

「どんどん、人前に出られなくなっていくんだけどorz」

 困ったなぁとモフ子は悩む。

 だが、同時にモフ子はおバ……もとい脳筋でもある。もっとわかりやすく有効な手はないかいなと、ふむーんと頭を回らせていて、

「とりあえず、誰かに相談してみるしかないかな?」

 そんな結論に達した。

 ちなみにこの時点でモフ子が考えた相談先は3つ。

 ひとつはラーマ神殿。これはまあ当然だが、ちょっぴり距離が遠いのが難点だ。

 次に考えたのが、ペット愛好者グループ。かつての敵であるが、リトルに関する事なら相談できそうな気がしたのだ。

 そして最後は……野にいる普通の狩人だった。

 モフ子が高い索敵系スキルを持っているのは伊達ではない。そも、チートプレイヤー対策で悪名を成したが本来のモフ子の特性は索敵や補助系であり、攻略チームの本体を助けて危険な斥候を果たした事も一度や二度ではない。悪名にもかかわらずチームで排斥されず、チームリーダーもモフ子を普通に扱っていたのはそのためもあった。ボスを切り裂く豪剣も全てを焼きつくす魔導も持たないモフ子だが、立派な戦力だったのだ。

 そんなモフ子だが、実はNPCの狩人に何度か助けられた経験を持っていた。

 あの頃は気づかなかったが、彼らも町の人々同様、ずいぶんと人間ぽかった。また狩人たちは肉食系の野生動物を狩りのパートナーにしている事も多かったのも覚えていた。

(あの人たちに相談したら、何か案がもらえるかも)

 それはモフ子の、いわば野生の勘。

 だがしかし、その『勘』は大きな可能性をも示していたのだった。


 第二章で話題に出てきた各種ギルドは、この時点では一般プレイヤーには知られていません。これらはツンダーク人によるものだからです。

 あと、斧に関する歴史的事情はツンダークの話ではありません。はじめてプレイしたFPSゲームで民族解放戦線の闘士になったのですが、この時の旗印が片手斧だったために彼女は今も斧使いなのです。


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