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モンスターといこう  作者: hachikun
世界の謎を追いかけてみま章
51/106

朝チュン?

ちょっと短いですが、区切りですので。

 一夜あけ、ほむらぶの目覚めは唐突にやってきた。

(ああ、朝か)

 腰のあたりに強い脱力感と異物感があり、それが昨夜の出来事を如実に物語っていた。

(へんなの。あれは現実じゃないって言ってたのに)

 ヒルネルに血を吸われた時のことを思い出す。

 ふたりで眠れる大きな寝袋の中。抱き着かれて、首筋噛まれて。

 それで気が付いたら、なぜか唐突に南の島の浜辺にいたのだ。

 まさに、目が点になったとはあの事だろう。

(いいとこ連れてってやるって……まぁ、いいとこだったけど)

 照り付ける日差し。邪魔者のいない、波の音しかしない白い浜辺。

 ツンダークは嫌いじゃないが、敵性モンスターの心配すらせず、無心に浜辺で遊べる環境は見た事がない。探せばあるのかもしれないが、少なくとも今のところは知らない。

 そして、そんな環境で……。

(!)

 思い出しただけで、顔から火が出た。

 あえて言い訳をするなら、いろいろとおかしかった。

 どうも、血を吸われると言動や行動がおかしくなってしまうようだ。自分の行動がおかしい事はわかっているのだけど、どう考えてもあれは普通ではない。吸血のせいなのだろうとほむらぶは決めつけた。そうでないと、自分にエロい素質があるのではないかと疑うしかなくなりそうだから。

 そんな事になったら、自分は胸をはって『ほむらぶ』なんて名乗れなくなってしまう。

 ほむらぶは、どこまでも『ほむらぶ』でいるつもりだった。だから、ふんっと最愛のアニメキャラ同様に、ささやかな胸をはってみたりするのだが。

(それにしても)

 昨夜のアレは、冷静になってみると色々と興味深い。

 まずは、あの浜辺。

(ヒルネルは確か、『幽閉部屋』の改造って言ってたけど)

 幽閉部屋というのは幻惑魔法の一種で、幻の座敷牢みたいな小部屋に相手を閉じ込めるものだ。

 相手の意志を直接曲げるのが幻惑魔法と思われがちだが、本来、幻惑魔法の真骨頂は相手の五感を幻で狂わせる処にある。無限回廊や幽閉部屋のような魔法はまさにその典型で、かけられた者はまるで異空間に魂だけ移送されたような状態になってしまう。

 だが、今回の場合、問題はそこではない。

(座敷牢を南の島に改造するって、いったいどんな魔改造よそれ)

 情報屋を自称するほむらぶとしては、遺跡関係と同等以上に興味深い話だった。

 プレイヤーの魔法はメニュー通りに使っている者が多い。これは取扱いこそ楽だが応用がきかない問題点を持っている。

 で、ヒルネルのように好き放題に魔法を改造しようと思えば、これはメニューに頼らず自力で魔法を使うしかない。だがプレイヤーは元々魔法なんてない世界の人間なので、自在に魔法をアレンジし、使いこむ者は意外に少ない。

 つまりヒルネルはメニューに頼らず魔法を駆使できるし、さらに魔術式の構造を理解しているのだろう。だからこそ可能な事なのに違いない。

(魔法の改造なんてウィザード級とか研究職のやるものだと思ってたけど、こういう伏兵もいるのね。いい勉強になったかも)

 まったく、興味は尽きない。

 ちなみに、その幻の浜辺で何があったかは、あえてコメントするまい。ほむらぶも語るつもりはないようだ。

 ほむらぶは服を着るために寝袋を抜け出した。寝るときは一応服を着ていたはずなのに今はなぜか全裸なのだが、きっと寝相が悪かったのだろう。あまり気にしてはいけない。

 で、服を着ようとしたほむらぶだったが、

「え?砂?」

 パラパラとこぼれたものが何かと拾ってみれば、それは白い砂だった。

「なんで砂が?」

 じっと考える。

 確か衣類は浜辺で脱ぎ散らかされた。だから、あの幻の中限定なら、確かに砂まみれでもおかしくない。

 でも幻は幻である。今ここにその砂があるのはおかしい。

「浜辺の砂とおんなじよね、これ。でも、あの砂浜は幻なわけで。ほんとに砂があっちゃおかしいよね?」

 むむむ、と悩むほむらぶ。

「……いいや、とりあえず考えないでおこっと」

 ふるふると頭をふる。

 もしかしたら、まだ幻の残滓が残っているのかもしれないとほむらぶは結論付けた。

 実際、かりに、あの砂浜が幻でなく、現存する閉鎖空間みたいなものだったとしよう。そして、昨夜ふたりの間に起きた事が、幻の事でなく現実の事だったとしよう。

 でも、それは今気にしても仕方ない事だ。最悪の場合でも、ほむらぶがそれを自覚できるのは少し先の事。今はどうしようもない。

 うむ、と頷いてから、ほむらぶは今できる事をする事にした。

 砂がついている服をとりあえずアイテムボックスに仕舞い、別の服を出して着た。

 チラッとヒルネルを見たが、よく眠っている。お人形のような可愛い顔も、今朝は精彩がない。疲れているのだろう。

 実時間で一晩、あの幻の浜辺では丸一日、あんな大魔術を使いつつ女を嬲って遊んでいたわけで。そりゃあお疲れだろう。

 それにしても、下手すると命をかけるだろうって時の直前に、なぜ女相手にあんなアホな事をする?

 男ってやつは、どいつもこいつも。

 ほむらぶは、日本じゃ年齢イコール彼氏なし歴だった。ほむつながりでヲタ友はそこそこいたのだが、もちろん浮かれた関係になどなった事はない。むしろ彼らには、その溢れるほむ愛で我らが同志と称賛され、共にファミレスで奥の席に隔離されていた種類の女だ。

 だが、勘違いした馬鹿どもに無意味に女王様扱いされそうになり、気持ち悪くて逃げた事はあった。

 ヒルネルの暴走は別に気持ち悪くはない。だが下心全開に暴走している姿は、あのバカどもによく似ていた。

「はぁ。ま、今日は現場近くぎりぎりまで近寄るだけで、突撃は明日ね」

 コンディションを整えるにはそれが一番だろう。

「アメデオ、朝作ろ」

 いつのまにか当然のように傍にいるアメデオにそう言い、ほむらぶは立ち上がった。

 テントの外は晴れていた。もちろん昨夜の南の島とは違い、地平の果てまで広がる雪原である。

 ふうっと息を吐いたら、風に散らされて真っ白な息が飛んだ。

 だが。

 いかにも寒さ全開といった装いだったが、昨日以上にほむらぶは全く寒さを感じない。朝だというのに。これなら、肌着でウロウロできそうなほどに。

 さすがに呆れた。

 さっきとは別の意味で、ため息を吐いた。

「アメデオ、防寒対策しといて。わたしは全然大丈夫そうだけど、あんたがダメだと困るん……アメデオ?」

 のこのことアメデオはほむらぶの前に出た。そして何か構えた瞬間、ほむらぶの脳裏に声が響いた。

「『耐寒(アダコール)Lv3、自分(セルフ)』」

 その瞬間、アメデオの体を何か光の幕のようなものがつつんだ。

「へ?」

 さ、やるぞと言わんばかりにほむらぶを見て、そして昨夜設置したままの無煙グリルの方に歩いていくアメデオ。

「な、なんでアメデオが防寒魔法なんて……え?」

 昨夜にふった雪のせいだろう。グリルはほとんど雪に埋まっていたのだが、それを風魔法の『扇風(ウィンホウ)』で普通にふっとばすアメデオに、さらに目が点になった。

「アメデオが……」

 あっけにとられたほむらぶは、少ししてハッとしたようにブンブンと首をふり、そしてアメデオに駆け寄った。

 で、なぜかドヤ顔をしていたアメデオは、ほむらぶに、ひっしと抱きしめられる結果となった。

「ごめんよう、ヒルネルばっかに構ってて。まさか、まさかアメデオがグレちゃうほど寂しかったなんて。ホントにごめんよう」

「……」

 こっそり習得した魔法を披露して褒められたかったアメデオは、なんでやねんと少し脱力した。

 だが、しっぽだけはピク、ピクと動いている。

 どうやら、馬の骨(ヒルネル)に構いまくるほむらぶに欲求不満だったという点では、ほむらぶの結論も間違いではなさそうだった。


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