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モンスターといこう  作者: hachikun
サトルとテイマーとウサギの章
5/106

相談

『ミミ』職業:魔織士(まおりし)

 魔術師見習いであったが、サブ職であった魔織士(まおりし)をメインに変更し、生産職の道を本格的に進むようになる。現在、生産職ではトップクラスのプレイヤーのひとりであり、ツンダーク最大の工房ギルドの代表をしている。

 なお、魔織士とは織物を作成する際、これに魔法を組み込む職種である。

 

 

「ふう」

 あの日の翌日。いつもの会議を終わらせたミミは、ふと窓から空をみあげた。

「……いいなぁ」

 彼女の脳裏にはサトルと、彼がフラッシュと名づけたウサギの姿があった。

 実をいうとミミは、かつてテイマーを目指そうとした事があった。ただ彼女は慎重派であり、テイマーが戦いに向かないという情報を重視していた。だから魔法や錬金術関係の職種の見習いをやってみて、テイマーと両立できそうな組み合わせを見つけようとしていた。

 そうした中、テイマーへの嫌がらせ事件が発生。その道は閉ざされてしまったのだが。

(やっぱりテイマーなのかな?)

 ミミの理性は、その可能性を否定している。

 だけど、テイマーにあこがれていたミミの本心は、おそらくサトルがテイマーであろうと直感している。

(だって、ねえ)

 フィールドラビットは可愛い動物だが、大きいだけあって腕力はバカにならない。ウサギにミミが首輪をつけているのは、むしろウサギを守りたいからなのだ。イザという時に抑えきれず、問題を起こされたらどうなるか。泣く泣く可愛いこの子を殺さなくちゃならなくなるかもしれない。

 そんなのはイヤだ。だから首輪をつけた。

 だけど。

(あの子は違う)

 フラッシュ。あのウサギはミミの連れている子とは何か違う気がした。

 突然暴走しそうな感じが全然しない。きちんと意思疎通しているのも、ありありとわかる。

(ちがう。あの子は絶対にペットじゃない。ペットであるわけない)

 ふと、さっきまでの会議の内容を思い出す。

 最近流れている素材や、プレイヤー間に流れる情報を交換するというのがその趣旨であったのだが、

『テイマーらしき新人プレイヤーを確認。しかもウサギ連れで、ペットではなさそう』

 隠密系のプレイヤーが撮ったらしいスクリーンショットには、おもむろにサトルとフラッシュが写っていた。

(まずいよね)

 ミミたちの生産者ギルドには、テイマー潰しを止める力はない。

 フラッシュはプレイヤーではないのでPKにあたらず、だから殺しても構わない。それが彼らの言い分であり、確かにその言い分は間違いない。

 もちろん「いたずらにプレイヤー同士の平和を乱す」行為として告発は可能だが、それは事後だ。告発する時には、あのウサギちゃんはもう死んでいる。

 生産者ギルドとしての見解は、ただひとつ「当人が助けを欲した場合にのみ介入する」だった。

 サトルはプレイヤーであり、生産者にとってはお客様候補である。だが現状、彼を顧客にしている生産者はいない事もわかっている。

『もし現状で生産者ギルドが割り込めば、サトル氏にとっても「よけいなお世話」である可能性がある』それが理由だった。

(白々しい話よね)

 ミミは知っている。ほとんどの生産者が「やらなくてもいい抗争に飛び込みたくはない」と考えている事を。

 なぜなら、かりに積極的に介入せず中立を保つとしても、孤立状態のサトル氏当人に危険を知らせるという選択もあるはずだからだ。

 なのに、それをしようと提案した者の意見が却下されたからだ。「いくらなんでも掲示板くらい目を通しているだろう。通してないのなら、それは情報収拾を怠った彼の問題だろう。冷たいと言われるかもしれないが、それもまたネトゲの現実だと思う」と。

 いや、そればかりか「そうだね。そうなったら、それはそれで勉強になるでしょう」などと同意する声も出てくる始末。

 白々しい。関わりあいになりたくないって正直に言えばいいのに。顔はそう言っているが。

(まぁ、サトル君とお話した事を黙っていたわたしも同罪よね)

 紹介されたスクリーンショット自身にはミミは写っていない。しかし状況から、おそらく自分が写っているものもあったろうとミミは確信していた。そしてその理由も。

 つまりミミが関わってる事実を出したくないのだ。それでなくともミミがペット連れプレイヤーなのは皆が知っているのだし。

 もしミミが「わたしこの人知ってます」などと言おうものなら、どうなったのだろうか?

 はぁ。ためいきをついた。

(いったい、わたしは何をしているんだろう?)

 彼らの考えは、確かに仲間内では正しい。だがプレイヤーのひとりとしては間違っている事のはずだった。

 別に正義を気取る必要はない。キレイ事を語るつもりもない。

 だが、プレイヤーが集まってできたコミュニティが、同じ町を拠点とするたったひとりの、同じプレイヤーの危機にほっかむりを決め込むとしたら……そのコミュニティの存在意義とは何だろう?所属者の権益保護か?

 ミミは少し考え、誰かペット関係の友人とチャットしてみようかと思った。

 インベントリを漁り、菜種油氏のデータを漁り見つけた。

 彼はいつも集団チャットで頼りにしている……が、都合悪くオフラインだった。

 次に、ノマ女史もオフライン。

 で、なぜかその次に、ほむらぶ氏がひっかかった。しかもオンライン。

(あれ?ほむらぶさんのデータも持ってたんだ)

 ミミは彼が苦手だった。いや本音をいうとキモいと思っていた。

 好きなアニメキャラへの愛から名乗っているという「ほむらぶ」なる名前。チャットでの微妙におかしいやりとり。あまり他人と関わりたくなさげな反応なのに、なぜか自己主張の激しい色々なデータ。

 なんと言われても困るが、どうにも薄気味悪いと感じていた。

(……)

 だけど、衝動的にだろうか。ミミはほむらぶを呼び出していた。トークチャットでなく文字ベースのテキストチャットだが。

 相手はすぐに反応した。

『はいよ、珍しいね、何か非常事態?』

(え?)

 一瞬、反応に困った。予想に反して妙に気さくな応答だったからだ。

 なぜ?

『えっと、うん、用があったんだけど……』

『うん?ああもしかして、オレのしゃべりが音声トークと違うって思ってる?』

『はい』

 やけにあっさりと見ぬかれたミミは、素直に返事をした。

『悪いね。オレ、どうもボイスチャットって苦手でね。キーボードの方が馴染みがいいんだよ。

 って、そんな事どうでもいいか。菜種の奴とかもオフラインみたいだし、例のテイマーの件だろ?違うかい?』

『うん、そう』

 やたら饒舌なほむらぶというのは想定外だったが、どうやら大丈夫のようだとミミは思った。そのまま相談してみる事にする。

 他言無用という事で、さきほどの会議の内容を投げてみた。

 ふむふむ、とほむらぶは簡単に相槌を打っていたのだが。

『ミミさんの中でもう答えは出てるよね?それに従うのがいいと思うよ』

『どういう事?』

 何を言いたいのかわからない、そうミミは思った。

 だが、そういうミミの思考に、ほむらぶは適切な切り込んできた。

『ギルドでの対応に疑問を持ったんだよね?けどミミさん自身も会議の場では流されて、でもやっぱり何か違うと思った、そうなんだよね?』

『うん』

『ならば、そのように行動すればいいじゃないか。つまりギルドを通すのでなく、ミミさんなりに行動するって事さ』

『?』

 わからない。いったい何をしろというのか。

『彼、サトル君だっけ?その彼に連絡をとりたいんだろ?せめて危険を伝えたいんだろ?だったら伝えればいいさ。ギルド情報とか一切出さずにね』

『うん、そうだね。でもどうやって?』

『ん?ああそうか、誰かに釘さされたんだね?関わるなって』

『そうなの』

 おそろしいほど的確な指摘だった。

 ミミは正直驚いていた。ほむらぶの事を正直高く評価してなかったのに、このキレのよさ。よく相談する菜種油氏だってこうはいかないだろう。

 驚いている間にも、ほむらぶの提案は続く。

『だったら、直接関わらなきゃいいんだよ。手はまだあるよ』

『えっと、ごめん、具体的には?

『そいつが使ってる店知ってる?先日食事したって店はNPC店?』

『うんそう、NPC店。ほら、通りの角にある』

『ああ、フレッドの食堂か。だったら話は早ぇや』

 なに、どういう事?と首をかしげるミミに、驚くようなテキストが流れてくる。

『店員にワケ話してみろよ。なんならオレの名前出してもいい』

『は?ほむらぶさん、店員ってNPCだよ?』

『いやいや、騙されたと思って尋ねてみなよ。メニューの選択肢をキャンセルして、口頭で尋ねてみるんだ』

 何それ?とミミは思った。

 リアルなVRMMORPGといっても、お店のNPCなんて結局はただのNPCのはずである。王様のような重要人物ならAI制御で多少は話せるのかもしれないが、それでも結局はプログラム仕掛けに違いない。そんな応対ができるわけがないと。

 だが、「わかってないなぁ(・∀・)ニヤニヤ」とほむらぶからは変なテキストが飛んでくるだけだ。

『ミミさん、このツンダークの登場人物はね、全員がわりと柔軟に話せるんたぜ?裏でどうなってるのか知らないけど、まるで生きてる人間みたいにね』

『まさか……』

『ダメだなぁ。ミミさん生産職なのに、値下げ交渉とかした事ないの?』

『あるよぅ。プレイヤーの生産職相手なら』

 やっぱりか、とほむらぶはそれにも反応した。

『なら、いいチャンスだ。いいかいミミさん、そのお店でまずは話してみなよ。あの食堂はね、口頭プレイを知ってる一部の者にとっては重要なんだ。食堂っていろんな奴がくるだろ?情報も集まってるってわけさ』

『そっか』

 口頭プレイときたか。

 wikiにも出てないようなところで、そんなマニアックなプレイが行われていたとは。

 いや、おそらくそれだけ『ツンダーク』が新しいゲームという事なんだろう。やりこみプレイが行われれば、こういう事も次々に解明されて広がっていくに違いない。

 とにかく、ほむらぶのおかげで方針は決まった。

『わかった、やってみるよ。ありがとう、ほむらぶさん。このお礼は必ずするね!』

『ああ気にしなくていいよ。お礼は次の会合に元気に顔出してくれればいい。OK?』

『うんわかった、ありがとう!』

 ひとの印象とはこうも変わるものか。ヲタっぽい珍妙な台詞まわしなんかは全然変わらないというのに。

 不思議なものを感じつつチャットを終了すると、ミミは即座に立ち上がった。

「?」

 どこかにいくのか?と、ミミの足元で彼女のうさぎ……チックが見上げる。

 ちらっとステータスが目に入ってきた。

 

 

 『チック』種族:フィールドラビット Lv49 性別:male

 プレイヤーのミミが可愛がっているウサギ。βの頃からなのでつきあいは長く、採取などで同行した先で戦った事もある。結果、ただのウサギでありながら現状、下手な戦士より戦闘力は高くなっている。生産職であるミミにとってはいい守り手といえるだろう。

 

 

「チック」

 ミミはチックの方にまっすぐ顔を向けると、きっぱりと言い切った。

「サトル君とフラッシュちゃん、覚えてるよね?先日のふたり。……彼らを助けるの。一緒にくる?」

「……」

 チックの垂れ下がっていた耳かピンと立った。動物特有の澄んだ目が、じっとミミを見据えた。

 そのさまは、いつもの可愛いチックのありさまとは違い、どこかあのフラッシュに似ている……そうミミは思った。


なにげにミミさんのウサギ、レベルカンスト直前……。

さて。

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