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モンスターといこう  作者: hachikun
世界の謎を追いかけてみま章
39/106

遺跡で(1)

おまたせしました。

 そこが夢である事に、(ひるねる)はすぐに気づいた。

 今はもう戻れぬはずの日本の部屋。二度と見るはずのなかったちゃぶ台の前に座り、まったりとお茶を飲みつつ窓の外を見ていた。

 長い年月を飲み込み、その場所はあった。

 彼の実家は地方にあった。旧家というほどではないが一族がいて、長男があとを継ぎ、下の者たちはそれを手伝うか家を出ていた。それに対し、子供時代の彼は体が弱く入退院を繰り返し、将来を危ぶまれていた。まぁ簡単にいえば、将来はタダ飯喰らいの役立たずになるのだろうと。特に、唯一かばってくれていた母が早く鬼籍に入ってからは、その風当たりが非常に強くなってしまっていた。

(そうだ。そういうのが嫌で家を出たんだよなぁ)

 幸い、青年になる頃には普通に生活できるようになってきた。だから資格をとり頑張って外にコネも作り、それをもって実家を出た。元気になったとみるや、以前の扱いなど忘れたように普通に相対するようになった親族は信用に値しない。それよりも、きちんと利害を明確にしたうえでつきあえる他人の方がよいと思ったのだった。

 それ以来、帰らなかった家。当時彼のいた離れの一室。

『そう。ここがあなたのはじまりの場所』

『!?』

 突然の声に驚くと、そこには、そこにいるはずのない存在……ツンダークの『お姉様』がいた。浅葱(あさぎ)色の着物をきちんと着て、まるで生来の日本人のように静かに正座していた。

(いや待て、それは違う)

 いくらなんでも、それは都合が良すぎるだろう。

 少し悩み、そして俯いて自問し、再び顔をあげた彼は、首をすくめてその古い親戚の女に似た人物に声をかけた。

『少々悪趣味だと思います。ラーマ神様』

『そうですか。あなたの心に強い印象をもつものの中で、好ましいと思っているものを集めてみたつもりでしたが』

 苦笑いするラーマ神。

 この世界では神の距離が近い。巫女や神官でなく一般人でも、神の来訪を受けた事のある人は存外に多いのである。ただ、どういう姿をとってくるかも千差万別で、たとえばミミのところには老人もしくは老婆の姿で現れ、ほむらぶの元に一度だけ現れた時は、彼女の溺愛するアニメの登場人物の姿だったという。

 だが。

 凄いには凄いが神は神、良くも悪くも人間ではない。こうして夢枕に立ったり会いに来るようなのは、いわば端末機のようなものらしいのだが、時々コントのような奇妙な間違いを犯したり妙にピントのずれた事もしでかすという。つまるところ、そこが良くも悪くも人ではない、という事なのだろう。

『こう言うのもなんですけど、もう少し威厳を大切にされた方が』

『そうですか。わかりました、気をつけてみましょう』

 さて、とラーマ神は姿勢をただすと、本題に入った。

『私に聞きたい事があるのではないですか?』

『あー。世界に関する事に抵触しない、という範囲で』

『なるほど、あなたは探索者ですものね』

 ツンダークが本当に異世界なのか、なんて質問を、その世界を統べる神様に投げかけるほど彼は愚かではなかった。

『気になっているのは吸血鬼の扱いなんですが』

『吸血鬼ですか。ああなるほど、あなたの元の世界の伝説にいう吸血鬼と、ここツンダークの吸血鬼には違いがありますものね。具体的には何を知りたいのかしら?』

『はい。吸血鬼といえばアンデッド、つまり普通の生き物とは異なる存在、あるいは生き物の摂理に反した存在というのが俺の世界の認識なんです。あるいは、宗教的にいえば、神の御心に反する存在というか』

 その点、彼は疑問に思っていた。

 ツンダークにはいわゆる死霊術の類がほとんど見当たらない。スケルトンやゾンビのようなものも確認されているが、これらの中身はゴーレムと同じようなものだと思えばいい。外見こそおぞましいが、ゴーレムの素材に遺体を使っているだけにすぎず、それは死霊術とはいえないだろう。

 なのに吸血鬼は存在する。

 では、吸血鬼とはどういう立ち位置にいる存在なのか?

 ラーマ神は、その質問をじっと聞いていた。そして、

『その疑問は、そもそも前提条件が間違っているわね』

『前提条件?』

『ええ。つまりこのツンダークにおいては、吸血鬼もリッチも死んでいないから、といえば理解できるかしら。あなたの言うような生命の条理に反した存在、いわゆる不死人(アンデッド)ではないのよ?』

『え?』

 想定外の答えに、彼の目は点になった。

『そうね。具体的に説明しようかしら。

 たとえばリッチの場合、本来あるべき年齢を越えて肉体を維持するため、生命活動自体を最低レベル以下まで萎縮させた結果ああなるのですよ。代謝活動が停止または限りなく減速した結果、枯れ木のようになってしまった肉体を代わりに魔力で強引に維持しているというわけね。

 もっと平たくいえば、ミイラのような年月を生きたいと思えば、ミイラのようになるしかないという事かしら?正しくは死体ではないので、あくまで「そのような姿」って事ですけどね』

『……そうなんですか?』

 ええ、とラーマ神は頷き、そして続けた。

『吸血鬼の場合は、そのリッチの枯れ木のような肉体を嫌がった結果。まぁ、このあたりはもちろん知ってるでしょうけどね。

 それに、よそから生命力を取り込むという行為を生命の有り様に反していると言うのなら、この世界にも、そして地球にもたくさんいる、他者の血を吸う生き物も全て間違っているのかしら?』

『いや、それは違うんじゃないですか?』

『どうして?』

『どうしてって……その。吸血動物っていうのは、単に栄養源として血を選んだというだけですよね?いわゆる吸血鬼とは違うわけで』

『それは、地球の科学的な考え方に基づいた分類ということね?』

『はい。そうなります』

『でもね、それはあくまであなたたち地球人の科学的な分析の結果なのよ、わかるかしら?今のツンダーク的価値観と世界観で語るなら、あなたの言う吸血鬼もそれらの吸血動物の一種と見なされるわね』

『……でも事実は』

『わたしには、地球の科学的な分析にこだわるあなたの見方の方が不可解なのだけど』

 ふふっと、なぜか楽しげにラーマ神は笑うと、話を続けた。

『だったら、ツンダークの吸血鬼と、ロミちゃんだっけ、あなたのお友達のコウモリさんのデータを比較してみましょうか?こんな感じに』

 唐突に、ラーマ神の背後に大きなホワイトボードのようなものが現れた。ラーマ神は黒いペンをひとつ手にとると、キュッキュと日本語で何やら描きはじめた。

『手書きかよ……』

 しかも、妙に丸っこくて可愛らしい文字だったり。

 さらには、幼児の落書きみたいな下手くそな人間らしきものと、鳥だかコウモリだか意味不明の絵までくっついている。絵心は壊滅的らしい。

 彼が半分呆れつつ見ているうちに、その間抜けな説明図はとりあえず完成した。

『うん、地球式に解説するとこんな感じかな?

 こっちがロミちゃん。ロミちゃんはツンダーク・コモンコウモリから変種に進化したのね。さらにその後、吸血鬼の眷属として活動しているうちに成長と同時に影響を受け、吸血行動もするようになったわけだけど』

 そこでまず、ラーマ神は言葉を切った。

『実はロミちゃんの吸血行為は、原理的には吸血鬼のそれと同じものなのね。微量の魔力と本来の消化器官の力も借りていて、単に栄養とするよりも高効率で体内にエネルギーを取り込む事ができる』

『え』

 彼は驚いた。想定していない答えだったからだ。

『普通の生き物なのに、吸血鬼と同じように吸血できるって事ですか?』

『当然。言ったでしょう?そもそもツンダークの吸血鬼はあなたたちの言うアンデッドってやつではないんだって。当然よね?死体は死体なわけで、生きてない。それでも死体を動かすならゴーレムと同じ原理で外から動かすしかないのよ』

『いや、でも』

『ふふふ』

 出来の悪い生徒の反応に苦笑するように、ちょっと困ったような笑いを浮かべるラーマ神。

『燃費を限りなく良くするために人間を魔改造したみたり、さらに外部からエネルギーを直接取り込んだりと工夫を重ねているわけだけど、ツンダークの生命体としての基本システムまで書き換えているわけではないのよ。確かに人間の限界をはるかに超える寿命を手に入れているわけだけど、結局彼らは普通のツンダークの生き物ってこと』

『……』

 そこまで言うと、再びラーマ神はボード上のコウモリと人間の間に大きな等号を描き「同じ!」と書き添えた。

『まぁ、現在のロミちゃんは飼い主にあわせているだけで、生き物としての寿命まで伸びたわけではないわ。フォーミンバット種はコモン種より少し延命されているから二十年くらいは生きるでしょうけど。

 だけどおそらく、次の進化まで生き延びれば長命化するでしょう。場合によってはブラッドフォックス、つまり吸血系オオコウモリ族に変化する可能性もあるかもね』

『……』

 ううむと考えこんだ彼の前で、ラーマ神は女の顔で微笑む。

『まぁ、好きなだけお悩みなさい。ヒルネル、あなたはまもなく大きな選択を否応がなしにしなくちゃならないんですからね』

『え?』

 その神の言葉に、ヒルネルは思わず顔をあげた。

 だがその時にはもう神の姿はなく、ただ懐かしい部屋の風景と、そして外の景色があるだけだった。

 遠くでセミの声がする。声の中に寒蝉(ツクツクボウシ)の特徴的なそれを聞きつけた彼は、この夢の季節が秋である事を知る。

『そう。うん、そろそろ帰らないと(・・・・・・・・・)ね』

 (ひるねる)は……いや、彼女(ヒルネル)はゆっくりと立ち上がった。

 そしてゆっくりとまわりの景色はぼやけ、全ては混沌と光の彼方に消えていくのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 北部大陸には多くの遺跡がある。

 それらの多くは本当に遺跡であり、ただの遺構にすぎない。だが長い時を越え、活動を続けているものもいくつか存在する。

 ゲーム時代にはそれら「生きている遺跡」は全く知られていなかった。当時、ツンダーク世界を綿密に調べたプレイヤーの資料は地球側のネットwikiに存在したので最新版は不明なのだが、当時それをチェックしていたヒルネルは、自分ですら知っているいくつかの北部遺跡のデータすらwikiにはなく、北部大陸は「寒すぎるうえにすべての文明圏から遠いため無政府地帯となっており、ごくわずかな開拓民と学者がいる他は寒冷地タイプのモンスターが跋扈するだけの土地」と記されていたのを今も覚えている。

 では、狩場として重宝されたのかというと、これもなかった。

 なぜかというと、ほとんどのプレイヤーが拠点とした西の国から、北部大陸は色んな意味であまりにも遠かったからだ。

 まず、中央大陸にいるレベルの初級プレイヤーでは北部大陸行きは自殺行為も同然だった。だから初期を終えたプレイヤーは西の国に向かうわけだが、その西の国から北部大陸はあまりにも遠く、そして西の国周辺はあまりにも未開拓のフロンティアだらけだった。結局、サービス終了のその日まで、北部大陸に大々的にプレイヤーのメスが入る事はなかったほどに。

 いや、厳密には北部大陸にもプレイヤーはいたのだが……それらのプレイヤーはサトルたちのように一般プレイヤーと隔絶してしまった者たちばかりだった。彼らはツンダークの住人とは交流するがプレイヤーには情報を漏らさない事が多く、だから攻略wikiの情報はちっとも更新されなかった。そして探索好きのプレイヤーが護衛を雇って行こうにも、中央大陸経由で大きく迂回しつつ北部大陸に向かうのは大変な長旅になる。転移魔法の発達していないツンダークではそれは大変な負担であり、結局、北の探索は後回しにされていった。

 え?西の国から直接海を渡り、北部大陸を目指さなかったのかって?

 実は、北部大陸の周囲は巨大蛸(クラーケン)巨大烏賊(ケトラード)の巣になっている。ツンダークのプレイヤーにとってこれらの生き物は鬼門といってよく、ソロでドラゴンを余裕で倒す猛者たちをもってすら、これらの海域で襲いかかってくる軟体の怪物たちに勝ち残る者はいなかった。

 ツンダークはその仕様上、移動し、壊れればなくなってしまう船内ではログアウト・ログインこそ可能だがセーブはできない。つまり船旅は確かに可能なのだが、もし海でプレイヤーが死亡した場合、戻るのは船内のベッドでなく、最後に寄港した街の宿屋や仮眠ベッドに戻されてしまう。

 それでも何度か海からの挑戦は行われたが、セーブ不可能の一発勝負で海の怪物をもやり過ごし、北部大陸に辿り着けた者は結局誰もいなかった。少なくとも攻略プレイヤーたちの記録上は。

 怪物たちを討伐しようとした者もいた。巨大な経験値や未知の素材、あるいは倒したという事実を誇りたい自己満足のために。

 だがゲーム・ツンダークでは結局、最後まで対海中戦のためのアップデートはなかった。「モンスターがいるのになぜ狩れないの、馬鹿なの死ぬの」と運営に突撃したプレイヤーもいたが、返答は「海はモンスターの世界であり人間の領域ではない。入れるのは漁師など一部の特殊な職業の者に限られる」との事だった。

 ゆえに、プレイヤーたちにとって北部大陸は「何もない謎の大陸」のままであり続けたのである。

 

 

 

 巨大なマンモス『グリディア』の背中の上で、のんびりと伸びているふたりと一匹。ほむらぶ、ヒルネル、そしてアメデオである。

 コウモリであるロミはその中に加わらず、時々パタパタと飛んでは寒さに戻ってくる、というのを飽きずに繰り返している。また前方、グリディアの頭上のあたるところにはコネクトラビットのピンが、まるでパイロットのように鎮座している。どうやらそこが彼女の特等席らしい。

 彼女たちにとって幸いなことに、グリディアの上は非常に暖かかった。

 グリディアは多毛種のマンモスなのだが、どうやらこの巨体をして清潔好きのようだった。ほむらぶは強烈な獣臭を心配していたのだが、予想よりもはるかに臭いは少なく、その巨大な毛皮のモフモフっぷりも素晴らしかった。特に頭から背中にかけての部分はよく手入れされているようで、彼女たちはフカフカの巨大な絨毯の床に迷い込んだ小さなネズミのように、なかばモフモフに埋もれるような状態で外の寒さからほとんど切り離されていた。

 そんな状態のせいだろうか。

 寒さで中断していた色々な疑問についての話が湧いて出て、ほむらぶとヒルネルは様々な意見をやりとりしていた。

「そういえばさ」

「ん?」

「結局、攻略系や探索系のプレイヤーで北部大陸を目指した人たちっていなかったのかな?ギリギリまで情報とりたいとか」

「聞いてる限りではいないみたいね。まぁ西の大陸からだと移動だけで半月以上かかったと思うし、大陸間瞬間移動ができるようなごく一部のプレイヤーはもう、ツンダークをやめるか地元にまじりすぎるかのどっちかになってたみたいだし。まぁ最終日にはいたのかもしれないけど、今じゃ確認のしようもないしね」

「そっか。海路は使えなかったんだっけ?」

「無理ね。北部大陸周囲の外洋は、ほぼ全面がクラーケンとケトラードの遊び場だもの。わたしたちの渡ってきたあの橋だって、うっかり海にでも落ちようもんなら」

「……そうなの?」

「ええ」

 げげ、とヒルネルは今さらのように眉をしかめた。

「そっか。確かクラーケンとかケトラードって倒せた人いないんだっけ?」

「いないわね。それに実際、あいつらってドラゴンより始末におえないわよ?最先端の攻略プレイヤーだって、あいつらが海にいる限りはまず勝てないわ」

「ほむちゃんが断言って珍しいね。もしかして詳しいデータ持ってる?」

「持ってるっていうか……そうね、ないとは言わないわ」

「すご……さすが情報屋」

「いえいえ、それほどでもあるけど?」

 さすがにドヤ顔入ったほむらぶに、好奇心で目をキラキラさせているヒルネル。

「実際、クラーケンってどのくらい凄いわけ?」

「そうね。あいつらにとって空気中は宇宙空間みたいなものだから、そっちに出ない事前提だけど」

「うんうん」

「ヒルネル、あなたメインクエストのラスボスと戦った事ある?」

「あー……『伝説(エンシェント)古代竜(オールド・グレイ・ドラゴン)?』

「うん」

「ない。知ってるでしょ、『ひるねる』の方も錬金術師だったし?」

「そっか、そうね。まぁ仔細はともかく、ラスボスの古代竜を単独討伐した奴ですら、襲ってきたクラーケンのうち一匹も倒せなかったって。なんなんだあれって泣いてたそうよ」

「うへ……」

「だけど、そもそも戦いを挑む前に挫折したほうが多いはずだけどね」

「どういうこと?」

 不思議そうにヒルネルは首をかしげた。

「そこまで強敵なら、攻略組とか狩りの好きな連中なら、挑みがいのある標的だと思うけど?」

「そうね。でもねヒルネル、敵は海の中よ?」

「攻撃手段がないって事かな。でも水中にむけて攻撃する方法あるよね?威力はともかく」

「いいえ、それ以前の問題なの」

「?」

「現場にいく船はどうするの?クラーケン相手に戦うとなれば、そんじょそこらの船では無理よね?それに船乗りも」

「あ」

 そこまでほむらぶが言ったところで、さすがにヒルネルも気づいたようだ。

「船が確保できなかったって事?」

「船乗りもね。船を確保したところでツンダーク人の船乗りが応じると思う?」

「……無理のような気がする」

「ええ、そうよ」

 ほむらぶは小さくクスッと笑った。

「攻略組の人たちは怒ったそうだけどね。運営ふざけんなよって。でも」

「そりゃ無理だよ。プレイヤーには遊びでもツンダークの人にとっちゃ、たったひとつの命なんだもの」

「ええ。何億って積み上げて募集したバカもいるらしいけど、命知らずが数名集まったくらいじゃ船は出せないでしょう?結局、運行に最低限必要な人員が集められなかったそうよ」

 ふう、とほむらぶはためいきをついた。

「一時期、わたしの所にずいぶんと問い合わせがきてね。彼らにはこう答えたわ。もしクラーケンと戦いたいなら、自分たちで造船し、自分たちでそれを操縦して挑むしかないって。ツンダーク人、それから彼らに敬意を表する漁師や釣り師プレイヤーは決してこれに近づかないからって。そんな馬鹿なって吠えてたチームもいたわねえ」

「なんだかなぁ」

「ふふ」

 ヒルネルが小さく肩をすくめたのを見て、ほむらぶはうふふと笑った。

「でもね、それでも挑んだ者達はいたのよ?生産職の人と組んで船からこしらえて、自分たちの力だけで海原に出てね」

「へぇ」

「彼らは彼らで凄いところまでいったって聞いてるわ。確か、水中を攻撃するってテーマに挑んだあげく、最終的に原始的とはいえ魚雷まで作成したって話よ。それでも倒すには足りなかったみたいだけどね」

「おお」

 そんな話をしているうちにも、グリディアは進んでいく。戦いもないので平和なものだ。

 念のために言えば、このあたりはモンスターの巣である。先刻のツンドラオオカミの群れのようなのはさすがに少ないが、単体でいえばもっと厄介なモンスターも多数徘徊している。この地域の危険は寒さだけではない。

 だが、そんな者たちもグリディアには決して近づかない。勝てないと知っているからだ。ゆっくりと、しかし着実に前進していく巨大なマンモスを彼らは遠目に見、おこぼれ等がないかを慎重に確認する。そして、決してグリディアそのものには近づかない。逆鱗に触れたら最後、生半可な肉食獣では踏み潰されるだけだから。

 ゆらり、ゆらり。

 ぬくぬくと毛皮、そして不可視の保温結界のようなものに守られ、そして適度にゆったりと揺れる背中の上。おもわず眠ってしまいそうなほどに快適。

 見上げれば、そこには冷たい快晴。

 と、そのときだった。

「ん、減速?」

「何かしら」

 グリディアが突然に減速をはじめ、そして停止した。そして、頭のところにじっと座っていたピンからの声が脳裏に響いた。

『モンダイ、ハッセイ。コッチニキテ』

 ふたりは顔を見合わせ、ぽかぽかと暖かい巨大な背中を、頭に向かって移動した。


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