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モンスターといこう  作者: hachikun
サトルとテイマーとウサギの章
16/106

撤退(1)

短いです。全体の話。


 さて。

 各人の個人的な物語はそろそろ収束に向かっているが、ここで今回の事件の結末について述べよう。

 サトルとミミを襲った者たちだが、死に戻りさせられた実行犯たちは、たったひとりを除く全員がアカウント凍結となった。彼らはβ時代のペット狩りの疑惑もあり、叩いて出た埃はまさに山の如しであった。閉めだされたのは当然といえば当然であろう。

 彼らはツンダークに居られなくなったとはいえ、ネットでその事を騒ぐ可能性もあった。だが結果からいうと彼らはそういう真似をしなかった。別のネットゲームで彼らの一人を見かけた者によると、まるで熱病から醒めたかのように穏やかな性格の者になっていたというが、詳しい事は不明である。

 ところで、ひとりだけ生き残った女。そう、ヒルネルの手にかかった者だが、この女は実に面白い経過を辿った。

 あの事件の翌日にも彼女は普通にログインしてきたのだが、その後の行動がおかしかった。その日一日、ほとんど行方不明だったかと思うと、なぜか猫の仔らしきものを連れて帰ってきたのだ。ただし本物の猫でなくミニサーベルキャットと呼ばれているが、本当のサーベルキャットのような猛獣でなく、文字通り単に大きめの牙をもつヤマネコと思えばいい。仔猫の雰囲気からして、おそらくこのミニサーベルキャットの子だと思われた。非常に弱っていたが。

 死にかけていたその仔を、彼女はせっせと介抱して助けた。さらに元気になった仔猫に名前をつけると、どこにでも連れ歩くようになったのである。

 否定急進派のトップの、まさかのペット支持派への転向だった。

 これは当然騒ぎになるかと思われた。だが、ツンダークの猫だから野生種で立派な猛獣とはいえ、慣れてしまえばやっぱり猫。プレイヤーたちは魔法職でもヤマネコくらいなら対応できるし、そして彼女の仲間たちは皆、かわいいものに弱い女性ばかり。

 そう。最も急進派だった彼女のグループが、まとめて籠絡されてしまったのである。

 最も先鋭で過激な連中ほど、短絡的かつ決定論的なだけに、完全に意見を翻してしまうと転身も早いものだ。半ば日和見な連中も混じっている穏健派がジタバタしている間に、彼らはドミノ倒しのようにみるみる意見を変えていった。

 だがもちろん、それでもテイマーの、ペットの危険を訴え続ける者は当然いた。

 しかしそれらの声は、さらなる大事件によりかき消されてしまったのだ。

 まさかの新職業『巫女』の発見。そして同時に、プレイヤー初の巫女誕生。

 さらに、はじまりの町がラーマ神殿の一部であり、巫女は隠されているそれを発現できるという事実の発見。

 転職条件として『神に選ばれる事、そして、長く連れ添ったペットがいる事』という条件が巫女本人によって提示されたのも話題を呼んだ。つまり、生き物を大切にする優しさが巫女には必須なのではないか、という憶測を呼んだのである。

 当人がもともと生産職であった事、彼女にはβ時代から飼い続けたうさぎがおり、今や巫女となった彼女の相棒となっているのも目をひいた。つまり、今までペットマニアの遊びとしか思われてなかったペットシステムが、実は『攻略組とは違う、もうひとつのツンダークの顔』なのではないかと、そう人々に思わせる事になったわけだ。

 ふと、もと穏健派の誰かが振り返った時。テイマー問題をとりあげる者は、もういなかった。

 テイマーの問題は巫女の特殊性と同列に考えられ、ついに危険はないと見なされるようになったのだった。

 

 

 さらに、この事件はそれだけにとどまらなかった。

 巫女となった娘、つまりミミが『テイマー指南書』の存在について現物つきで公表したのである。

 指南書の中身はβ時代のテイマーが自ら集めた情報に満ちていた。中にはおそらく勘違いだろう、ここはおかしいというものもあったのだが、一般プレイヤーと全く異質の観点からまとめられた情報は、項目によってはwikiの中身をすっかり置き換えてしまうほどの濃い内容が書かれていたのである。

 この本を読み、テイマーになろうとする者が爆発的に増えた。

 もっとも本来のテイマーになる資質を満たしていないのでテイムする事はもちろんできない。だが、本来のテイマーになれなくとも二次職にテイマーを選ぶ者はやたらと増えた。なぜか?

 簡単である。テイムに関するデータはほとんどそのまま、ペットにも使えたからだ。しかも二次職テイマーであってもペットとのコミュニケーション改善には大いに役立った。だから、特に成長株のモンスターをペットにして信頼関係を築き、共に戦いたいと思っている種類のプレイヤーには充分に朗報だったのだ。さらに、特定のモンスターと遊ぶ事で特定スキルをアップできるという法則性も次々に研究され、ペット愛好者だけでなく一般ユーザーが広く知るところにもなった。

 こうして、謎の職種だったテイマーはとうとう、モンスターを連れて戦う種類のプレイヤーがよく選ぶ、サブ職の選択肢のひとつにもなった。そればかりか、やりこみ好きなプレイヤーたちがこれらの情報を元にさまざまなモンスターをペットにする挑戦を続けた結果、なんと、竜騎士(ドラグナイト)をはじめとする特殊な戦闘系の職業まで発見され、ついにはペット関係に冷ややかな目を向けていたプレイヤーたちまで驚かせたのである。

 たちまちツンダーク世界には、モンスターを相棒に歩きまわる冒険者が激増した。

 これで終わり?いや、まだある。

 指南書に収められた情報の中には、これまでプレイヤーが存在すら知らなかった情報が2つ含まれていた。そう、旧帝国こと旧アマルトリア帝国の事と、吸血鬼についての情報である。

 リッチ以降まったく発見されていなかった新種のアンデッド。そして、旧帝国という年表にない国の存在。これらは大きな話題になった。何とかして実態を調べようと、特にやりこみ系のプレイヤーが手を尽くし始めた。

 もっともこれらの話題はツンダーク土着の民にはもともとタブーであり、なかなか情報が集まらない。それゆえに、いつまでもいつまでも、都市伝説として扱われ続けるのだが……それはまた別の話である。


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