表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターといこう  作者: hachikun
サトルとテイマーとウサギの章
10/106

危機そして交差(2)

 ツンダークにINすると、それはベッドでの目覚めとなる。まぁガラムさんちの居候ベッドで寝たんだから当たり前だが。

 それはいい。いいんだが、目覚めがいきなりうさぎのドアップというのは、個人的にいかがなものか。

「……」

「……」

 いや、だから、フスッとドヤ顔で鼻息叩きつけるのはいいけどさ。重いんだけど?

 なんたって人間サイズのウサギなのだ。体重はそんなにないけど重量感はそれなりにある。つーか重たい。

「あいたたたたっ!痛いいたいいたい!」

 なんでいきなり耳に噛み付くんだか。まさか「重い」って考えたのを読み取ったんじゃないだろうな?

「あああわかったわかった、もう噛むなって」

 畜生すげえな野生。どんなカンしてんだか。

 とりあえず起き上がり、そして棚のブラシを手にとる。

「!」

 俺がブラシを手にとった瞬間、フラッシュはピクッと反応する。なぜか急におとなしくなり、俺の顔を手のブラシをチラチラと見ている。

(いやまぁその……ブラシでなでてって全身が主張してるんだが……)

 やれやれとためいきをつき、むんずとフラッシュをつかまえてブラシをかけはじめる。

 フラッシュは大人しくされるままだ。だが部屋の奥にある小さな鏡には、気持よさそうに目を細め、たまに上機嫌の『プッ』ていう鳴き声をあげそうになり、それをなぜか必死に押さえている姿がバッチリ見えている。

 まったく。どこのツンデレお嬢様だよこいつは。

 ともあれ、フラッシュの手触りは悪くない。INした直後の、まだリアルのささくれだった気持ちにとっては最高の癒やしだろう。ここで気を落ち着けて、それからツンダークの世界をのんびり楽しめる。

(俺は、いつまでここに来られるんだろう?)

 昨夜にリアルで起きた出来事は、ちょっと笑えないものだった。今までの俺の生活を完全に破壊しかねないもので、それは俺の唯一の楽しみとも言えるゲームの時間をも奪ってしまう可能性を秘めていた。

(いやだ。俺はここにいたい)

 そんなことを考えていたら、いつのまにか手が止まっていたらしい。フラッシュが俺の顔をじっと見ていた。

 しまった、怒らせたか?

 だけど俺を覗きこむフラッシュのそれは、怒りや不快とは程遠いものだった。

「……」

 なんだろう?この、不思議なくらいに澄んだ瞳は?

 わからない。

 わからないが。何がわからないのかも全くわからないんだが。

 だけど、これは?

 まるで……フラッシュの目の奥から、何か途方も無いものが覗きこんでいるような気がして。

 だけど。

「フラッシュ?」

「!」

 フラッシュは突然に頭をふり、フスッと鼻息を吐いた。さっさと続けろって事らしい。

 うむ。そうだな。

 ああ悪かったよフラッシュ。ここはツンダークだ。異世界じゃないもんな。

 もちろん、心ゆくまで堪能しまくった。

 

 

 もふもふなブラッシングを堪能しまくり、なんとなく上機嫌になった俺だったが、忘れちゃいけない事がある。

 そう、俺はガラムさんちの居候なのだ。

 野郎同士で気を使うわけでなし、ガラムさんはメシ時以外は普通に仕事してるしでうまくやれていると思うのだけど、迷惑をかけている事には変わりない。ここはひとつ、お手伝いのひとつでもしたいところだけど。

 そんなわけでガラムさんに声をかけた。

「何か手伝う事あります?」

 ガラムさんはちょうど、錬金台で何かを調合している最中だった。

「とりあえずはないな。そういやサトル、おまえ魔法の鍛錬はどうなってる?」

「フラッシュに少し習ったんですが、自分の喉でどう発音するかがひっかかってますね」

 問題はそこだ。俺はウサギじゃないから同じ声は出せないし、無理やり出しても意味はない。俺なりの方法が必要なんだと思う。

 まぁ、こういうのは悩んでもすぐにはできまい。そう思ってる。

 ガラムさんはそれを聞いて、うんうんと頷いた。

「実は昨夜、魔法屋のじいさんとちょっと話したんだが、じいさんも似たような事言ってたな。なんでも、テイマーの魔法の最大の目玉は、人間用じゃない魔法を扱える事なんだそうだ」

 へえ。やっぱりそうなのか。

 だがしかし。

「それじゃガラムさん、わざわざ調べてくれたんですか?」

「そんな大げさなもんじゃないさ。こんな小さい町だろ?みんな知り合いでな、おまえさんの修行はどうなってるかって向こうから聞かれるのさ。ま、そんなわけだ」

「そうですか……」

 それって、ガラムさんを経由して町中の人にお世話になってるって事ですよね?

 うわぁ、みんな本当にいい人なんだなぁ。

 ありがたい。

 ありがたいけど、どうやって恩返ししたもんかな。

「なぁサトル」

「なんです?」

 ふと気づくと、ガラムさんが優しげな目で俺を見ていた。

「おまえはたぶん、何か気を使おうとしているんだろう。そいつはありがたい事だが、そんな事よりおまえにはやるべき事がある。おそらくな」

「おそらく?」

 うむ、とガラムさんは頷いた。

「その時がくれば自然とわかる。それよりもだ、今はテイマーの修行を続けるんだ。いいな?」

「あ、はい」

 なんだかわからないけど、俺に大切なのは修行らしい。まぁ確かに望むところではあるけど。

 それにしても。

(その時がくると自然とわかる、ねえ?)

 何かクエストでも来るんだろうか?

 そんな事を考えて、ふと、そういえば今日はまだメニューを開いてなかったなと気づいた。

 うむ、何しろフラッシュのモフモフに没頭してたからな。モフモフだから仕方ないよね?

 そんなアホな事を考えつつメニューを開いたんだが。

(あれ?クエスト欄が増えてる)

 未解決クエストに知らないものが追加されていた。何?この『神殿参り』て。

 それに、このログメッセージって何?

 

 

(ログメッセージ: ラーマ神があなたに強い興味を抱きました。

 隠しクエスト『神殿参り』が開始しました。

 ラーマ神じきじきの補正により、モンスターハートがLv4(同胞:カンスト)に到達しました)

 

 

 か、カンスト?何で?

 俺、まだツンダークはじめて一週間とたってないんですけど?

 てーか、神様じきじきの補正って何?何やってくれちゃってんですか神様?

 やばいよ。チートとか言われて変な疑いかけられたらどうすんの。

「……」

 いや、いやいや待て俺、ちょっと待て。まず情報を整理しよう。

 まず、現時点の俺のスキル構成。メインスキルが『隠密行動』でこれはもちろん第一級だ。むしろピンポイントでこいつが上がりすぎてて何が何やらって感じなんだけど、Lv70そこそこで安定したこれが、間違いなく俺の最大の武器だ。

 なんたってねえ。これだけ高いと、とりあえず森や暗いとこに逃げ込めばそう簡単には見つからない。これは心強いね。

 では、これに対する攻撃スキルが……ないんだよなこれが。ものの見事に。

 まぁ予想はついてた事だけど、テイマーって本当に仲間頼りなんだよね。現状からいうと、幻惑魔法すらロクに使えない俺は、フィールドでは逃げ足が達者なだけの役立たずにすぎない。もし戦闘になったら、そっちは全部フラッシュ頼りになるしかない。

 ウサギの陰に隠れるプレイヤーって……。いや、もう何もいうまい orz

 ねえ神様。じきじきに補正してくださるんなら、せめてもうちょっとこう、戦闘スキルみたいなのもくださいよ。いやマジで。

 しかもだ。今回カンストしたモンスターハートスキルって、結局は「魔物と仲良し」ってやつなんだよね。これもまた戦闘スキルとは全然関係ない。ないよね、やっぱり。

 うーん。自分でいうのもなんだが、なんだろうこの破滅的なバランスの悪さは?

 それとも、こんな異様な構成であるべき理由っていうのが何かあるのか?うーむ。

(それに、なぁ)

 神殿てなんだ?

 うん。こっちもわからない。神殿参りと言われても、そもそもツンダークに神殿、ないんだよね。

 ツンダークでは政治に宗教が絡むのが好まれないらしい。だから歴史的にも、せいぜいが礼拝所がある程度で、他は道祖神のように道端なんかにシンボルが置かれてるだけの方が多い。で、そこにお供え物してお参りする、それがツンダークでのスタイルなんだ。

 だから、神殿っていうほどの立派なものなんか……?

 いや、まてよ?

(神殿……そういえば)

 俺は、だいぶ前に見たツンダークのPV、プロモーションビデオってやつを思い出していた。

(たしか、あのPVには神殿もあったし巫女や神官もいたっけ)

 実際のツンダーク世界ではまだ発見されていない。

 だけど確かにPVには存在した。なんか世界に光が溢れて、太陽の輝きから浮かび上がるように荘厳な神殿が立っていたと思う。で、主人公と思われるプレイヤーが巫女の祝福を受けるんだ。

 メニューからネットを開き、wikiを見てみた。

 ああそうだ、やっぱり間違いない。

 PVの謎って項目のひとつに神殿と巫女がある。運営の回答では……実在するって書いてある。つまり、未発見なだけで実装はされていると。

 これを探せって事か?

 ふむ。しかし、戦闘力のない俺にどうやって世界を回れと?

「……散歩でもしてくるか」

 うん。とりあえずペンディング。いきなり、こんな無茶ぶりされても知らんがな。

「フラッシュ、ちょっと外いかねえか?」

 フラッシュは俺の言葉にいつものように、フスッと肯定の鼻息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ