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レイン流星群

作者: けん

 夏休みに入って一週間くらいが経った。最初の方は友達と遊んだりしていたけれどもだんだんとやることが無くなってきて遊ぶことも少なくなってきた。最近ではもっぱら家でゴロゴロしているだけになってしまった。そんな中で流星群観測会というのは何とも魅力的なイベントに見えてしまった。

両親のいない昼間に回ってきた回覧板には数日後に私の小学校でペルセウス流星群の観測会を行うと書いてあった。私はすぐに参加を決意する。たとえ友達が参加しなかったとしても楽しいに決まっていると思っていた。

その日の夜にたっくんから電話がかかってきた。内容は流星群観測会についてだった。なんだかたっくんと電話で話すのは久しぶりな気がする。

長電話をしていては怒られるので明日の午前中に会って話そうということになり電話を切る。

翌日は天気予報で今年最高の気温になると言っていたのが嘘じゃないなと思えるほど暑かった。

自転車で待ち合わせの公園に行く。

ただ自転車を漕いでいるだけなのに汗がいっぱい出てくる。けれどそのおかげか、風が凄く気持ちよく感じる。

公園に着くとたっくんはもういた。

自転車を停めてたっくんに近づく。

木陰のベンチに座りながらアイスを食べているたっくんが私に気付いて手を振る。

「おはよー。今日も暑いね」

 私は小さく手を振ってからそう言いたっくんの隣に座る。

「おはよ。これ食べる?」

 たっくんがカップのアイスを袋から取り出す。

「いいの?」

 たっくんが頷く。

「じゃ、いただきます」

 そう言って一口食べる。

 アイスは少し溶けていたけれどもまだ冷たくて暑さが体から引いていくような気がした。

「それでどうする? ミサは行くの?」

 何のことだろうと一瞬思ったが、すぐに今日会う目的を思い出す。

「うん。流星群とかはあんまり興味ないんだけど楽しそうじゃない?」

「ミサは昔からイベント事は好きだったもんね」

 たっくんは何かを思い出しているような顔をして少し笑う。

「いま何か変なこと思い出してたでしょ?」

「いやいや、そんなことないよ。ただミサは変わらないなって」

 そう言って私を見て微笑む。そう言うたっくんだって全然変わってない。

「それでたっくんは行くの?」

「僕は流星群に興味あるからね。行くよ」

「じゃあ一緒に行こっか」

 私は笑顔でそう言う。

それからお昼くらいまでたっくんと観測会のことについて話した。蝉の鳴き声が煩かったはずなのに、お互いの声しか耳に入ってきていなかった気がする。やっぱりたっくんといると安心するなと私は思っていた。

観測会当日の天気予報は晴れだった。とは言ってもここ数日晴れ以外の天気予報を聞かない気もしたけれども。

私はショルダーバッグにお菓子とか水筒とかを入れて家を出た。

私の家から学校に行く途中にたっくんの家があるので寄って合流することにしていた。

たっくんの家のチャイムを押して少し待つとたっくんが出てくる。リュックを背負っているたっくんがなんだか可愛く見えた。

「お待たせ。じゃあ行こうか」

 そう言って私たちは学校に行く。

家を出たのは夕方だったのに学校に着くころには完全に夜になっていた。

夜の学校は本当に異様な雰囲気を纏っていて中に入るのには勇気がいるなと思った。

私が少したじろいでいるとたっくんが手を取って、大丈夫だよ、と言って引っ張ってくれた。

校舎の中に入って屋上に行く途中も私たちは手を解こうとはしなかった。二人とも汗でしっとりと濡れていたのにそんなことは全く嫌じゃなかった。それよりも手を離してしまうことのほうが、もっと、ずっと嫌だった。

いつもだったらカギがかかっている屋上のドアを開けると、すでに数人の人がいた。

私たちに気付いたおじさんが寄ってきて名前を聞いてくる。私たちはそれに答えると、適当な場所に行く。

「私たちの学年は他に参加した人いないみたいだね」

 屋上のドアの入口近くに座ってそう言う。

「だね。なんか僕たちよりも小さい子たちが参加するイベントみたいだったね」

 そう言ってたっくんは苦笑いする。

「でも望遠鏡が三台に双眼鏡も少しあるみたいだし僕としては楽しめそうな気がするよ。ミサはどう? 楽しめそう?」

「うーん。わかんないかな。たっくん以外知ってる人いないし、もともと流星群も興味ないしね」

 私は上を見ながら言う。

「そっか……。じゃあ僕が目一杯ミサを楽しませてあげるよ」

 たっくんはそう言ってからにっと笑う。

「ありがとう」

 そう言いながらも私は少し寂しかった。知り合いがいないからではなく、さっき座るときに手を離してしまったからだ。

「それじゃあ全員集まったみたいだからこっちに集まって」

 おじさんがそう言い、私たちは立ち上がりおじさんの方に行く。

おじさんが注意事項とか今回の流星群についての説明とかをすると観測会が始まった。だからと言ってすぐに流れ星が降り始めるわけでもない。私とたっくんはさっき座っていたところに行って上を見上げる。

「たっくんあっちの望遠鏡とかある方に行かなくていいの?」

 上を見上げたまま私は言う。

「うん。さっき言ったじゃん。ミサを楽しませるって」

 その心遣いは本当にありがたい。

「ありがとう。でもねたっくんが楽しめないんじゃ私も楽しめないよ」

「僕はミサと一緒で楽しいよ。それにさっき集まったときに望遠鏡しっかり見たけど、あれはお遊び用でそんなにいいものじゃなかったしね」

 たぶん嘘なんだろう。たっくんは優しいからそうやって自分を犠牲にするんだ。そう思うとなんだかとても切なくなった。

「なんだかあっちの方雲出てきたみたいだね」

 そう言ってたっくんは西の方を指差す。

たしかにそっちのほうの星は見えない。しかも雲があるところが光っている。いままでの経験上あれが雨雲であることは私にも分かった。

「あっちに雲があるってことはそのうちここにくるね。降らないといいんだけどな」

 そう言ってたっくんはふぅとため息をつく。

私もまた同じことを思っていた。折角楽しめそうなのにそれが雨で終わってしまったら悲しいしつまらない。

なのに天気は無情だった。

雲はみるみる空を覆っていき、しまいには雨がぽつりぽつりと降り出してきた。

「雨が降ってきたので一旦校舎の中に入ってください」

 さっき色々説明してくれたおじさんがそう言うので私たちは校舎の中に入る。

全員が校舎に入って少し経つと一気に雨と雷が激しくなった。

「まだ流れ星見てないのに終わっちゃうのかな」

 窓の外を眺めながら言う。

「通り雨だから大丈夫だと思うけど、あのおじさんが中止って判断したら終わっちゃうだろうね」

 私は早く雨雲どこかに行ってくださいと天に祈るがそれは叶えられずにおじさんが中止の決断をしてしまった。

私たちは残念がりながらも仕方ないのでみんなと一緒に昇降口まで向かう。

靴を履きかえて、外に出ようとするが傘を持ってきていないことに気付く。

「たっくん傘ある?」

 たっくんが首を横に振る。

みんな外に出ていく中、私たちだけそこから動くことができなかった。そうして少しすると昇降口には私たち以外誰もいなくなってしまった。そうなるとまた異様な空気に飲まれそうになる。

「ねえたっくんお願い聞いてもらっていいかな?」

「ん、何?」

「手……繋いでもいい?」

「いいよ。夜の学校は怖いもんね」

 そう言ってたっくんが私の手を握る。通り雨が持ってきた冷たい空気のおかげかたっくんの手がとても温かく感じた。

「ちょっと思ったんだけどさ」

「どうしたの?」

「何となく雨粒って流れ星っぽいよね」

 たっくんが私の方をみて笑う。

「なにそれ。全然違うよー」

 私がふふふと笑いながらそう言う。

「そっか違うか……」

 そう言ってもたっくんは雨が当たらない場所で雨が降り出している上の方を眺めていた。私も口では否定しながらも何となくたっくんの気持ちは分かっていたから上を眺める。

私たちは雨が止むまでの間、手を繋ぎながらずっとかりそめの流星群を見続けていた。

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