1話~訓練所H担当教官~
アンドロイドを再起動させる理由とは?
二列縦隊の少年の列。
すべてがコピー。
同じ顔・同じ背丈・髪の色。
無表情な光の無い瞳。
あどけなさの残る顔つきがかえって不気味だ。
ざっざっという一秒の狂いも無い足音。
排水の流れる川にかかった橋を超えて、
直角に左に曲がる。
隊列が止まる。
訓練所H棟の前で腰に手を当てて待っているのは、
このH隊の担当教官。
担当教官は無言で隊列を見回してチェックする。
なにも変わりは無い。
あるはずもない。
教官は門をあけて、
隊列がビルの中に吸い込まれていくのを見届ける。
教官の仕事は毎日同じだ。
招き入れて、チェックして
個体がそれぞれのブースに繋がったのを確認したら
スイッチをいれる。
そのまま夕刻まで時々確認をして
異常がないことを確認して
スイッチを切る。
個体が帰路につくのを見送りながら、
門を施錠する。
以上。
簡単といえば簡単だが、退屈な仕事だ。
しかしセクタ・シティの安全のためには大切な仕事だ。
ここで作っているアンドロイドを決められた日までに
最高の戦士として作りあげなければいけない。
センジョウと呼ばれる隔離地域に運び込まれる日までに、
敵から受けるダメージに耐えられるよう強靭なボディに。
それにも増して精巧なブレインに。
現在のセクタ敵国は、バノンという国だ。
バノンの戦士は全て機械仕立てのロボットである。
金属のボディ。
ウデの先に小さな物でもはさめるような加工が施してあるものや、
指の先がそのまま銃口になっているものもあると噂される。
訓練所の教官は、センジョウに入る事はない。
現在の法律で、センジョウに入れるのは、
回収隊と呼ばれる一部の人間だけだ。
それもセンジョウの機能がオフとなる
ニチヨウビだけだ。
ニチヨウビはセンジョウの整備が行われる。
それぞれの国が責任を持って各自の部隊を回収する。
というよりも相手国に自国の技術や情報が漏れるのを
最小限に食い止める為に、
小さな部品も残さず集めてまわるといったとこだ。
それでもバラバラになり、ちぎれ、ちらばったもの。
相手国の部品が紛れ込むことがしばしばある。
そのためにセンジョウに入る回収部隊は
きわめてフェアな精神をもって、
まぎれたものは隠さず相手国に提出しなければならない。
壊れたものはメンテナンスし、
使い物にならなくなったものは解体して
リサイクルする。
それはどの国も同じ方針だ。
セクタ・シティでは、まだ使えると判断されたアンドロイドは
回収隊から整備隊に移されたのち
再起動と称して訓練所にやってくる。
ずっと昔のことだ。
人間と人間は血を流し合うことをやめた。
ある種の平和協定とその時は思えた。
発展的改革である、と。
世界はひとつだと唱え、傷つけあうのはやめましょうと
叫んだ裏には、
世界規模の戦争や災害で
ことごとく起きる国民のバッシングに
これ以上翻弄されたくないという、
ピラミッドの頂点にいる人間から
こぼれた本音がまじっていた。
けれども世界はひとつだといいながら、
そのひとつの主導権を握るのはわが国だと
それぞれの国がが思っていたから、
やはり争いは避けられなかった。
しかし世界規模で決めてしまった規則を
先走って破るわけにはいかなかった主導者たちは考えた。
わが身が傷つくのも、痛いのも、面倒くさいと思った彼らは、
戦いを全て機械にゆだねた。
国の行く末もすべて機械にゆだねてしまった。
センジョウでのみバトルは繰り広げられる。
戦う機械の、より高度な構成の勝負。
白旗を揚げたほうの国は勝利国の管轄下におかれる。
とはいえ今の世界は公用語はひとつに統一されているし、
通貨の単位も価値も同じ。
ただ都市の名称が変わり、国旗の色が変わるだけで
市民の暮らしには大きな変化は起こらない。
愛国心という名の執着が無い限り。
その結果かつては無数にあった都市も、
今では合併され吸収され、
数えるほどになってしまっている。
まさに世界はひとつになろうとしている。
毎年のように塗り替えられる地図。
セクタ・シティの国色・赤は
いまや広大な面積を占めている。
教官は壁に貼られた地図から目をそらし、
タメイキをついた。
そろそろH隊のアンドロイドにも、
色を認識させるプログラムを
インプットしなければならない。
敵と味方を認識する手段として、
赤色だけを認識させるプログラムだ。
美しいとか
明るいとか暗いとか
寒色とか暖色とか、
そんなことはどうでもいい。
味方は、赤。それ以外は敵。




