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18話~終章・あるいは別の伝説のはじまり~

町外れの廃棄物回収場。



H棟教官は、傍らに立っている

チャーリーの胸につけられたタグに手をのばした。


「う?」

チャーリーが一歩後ずさる。

「ああ、タグをはずして、

あっちに捨てられているアンドロイドのタグと

付け替える。

調べられたときの時間かせぎになる」

彼は少し大げさな手ぶりを交えて、

子どもに言い聞かせるように説明した。

チャーリーは素直に胸を差し出した。


「おかしいな。なんだか可愛らしく思えてきた」

彼は苦笑いする。

それから持ってきたバッグから

シャツを取り出して、着せた。

アンドロイド特有の制服よりはましだろう。

着替えに置いていた

紺色のシャツ。

大人サイズだから少し大きめだが仕方ない。


「いずれちょうどよくなるだろう。

いや、アンドロイドの体は成長しなかったな。

成長するのは脳の中身だけだ」

チャーリーはこちらを見上げている。

私は肩口をすこしつまむようにして

安全ピンで留めてやった。

一歩離れて、眺める。

もう、アンドロイドには見えない。


裏門の鉄の扉のカギを開ける。

こちら側から出れば、今は使われていない

産業廃棄物処理場跡地へ出る。



いいのだろうか。

彼の中では、まだ空中ブランコのように

決心が揺れている。

カギを開ける事で人間の未来が

根底から変わってしまうかもしれない。

人間にとって都合が良くなるのか

それとも悪くなるのかは全くわからない。

それでも奥底から、進め!と声がする。

祖父の声のようでもあり、

あったことのない神様の声のようでもある。


それにしたがってみよう。

絶滅危惧種動物の最後に立ち会う

ハンターとなる意識と覚悟を持って

このカギを開こう。


「私が手を貸せるのはここまでだ」

彼が言うと、チャーリーは腕をすこし広げた。

「ああ、そうだね」

彼はチャーリーの背中に手を回し、

ゆっくりと抱き寄せた。

なんの香りもしない体。

なんの鼓動も

ぬくもりもない体だった。

それでも彼は、ぽんぽん、と背中を叩いて、

「さあ、行くんだ。チャーリー」

と言った。




ぼくのからだにあの感覚がまたよみがえった。

お父さん。

ぼくのからだを包み込んでいる。

ぼくは手をのばして

お父さんの背中に触れた。

こんどはちゃんと手がまわったよ。

ぼくが大きくなったからだね。

今日のお父さんの匂いは

葉巻ではなくてコーヒーの香りだ。

覚えておこう。


「いってきます、おとうさん」


ぼくはそう言って、

分厚い鉄製の扉を押し開けた。

びょうびょうと夜明けの風が

向こうの山から吹き下りてくる。


背後で鉄の扉が閉まる音がした。

ぼくは空を見上げた。


空が、赤い。


赤。

セクタシティ。


守るべきものの色。


山の向こうから、

「こっちよ、こっちだよ」

と呼ぶ声が頭の中にこだまする。


ぼくは山の向こうに広がる赤を目指して、

ただひたすら駆けて行く。


あしたの世界を作るために。

新しい世界を目覚めさせるために。


朝焼けが色を変える。

世界の色が変わる。





「もう、朝なの?」

どこからか女の子の眠たそうな声がきこえた。



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