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16話~伝説・あるいははじまり~


「方法がある」


父親の低い声がする。


眠っていたチャーリーの傍らに父親が立っていた。

めずらしいことだ。

父親がチャーリーの部屋を訪れるなんて。

「お父さん」

チャーリーが体を起こそうとすると

まばゆい光がたくさんなだれ込んできて、

目が思うように開かない。

「アリスの体を治す方法がある。

隣の都市の国家病院で

アリスを蝕む忌まわしい病の研究が

実を結んだという噂を耳にした」


ぼくはあわててとび起きた。

方法が見つかったというのに父親の顔が

曇っている。


隣の都市とはいま大きな戦争をしている。

チャーリーもそれは知っている。

センジョウというところで長い戦いをしている。

戦いが終わればどちらかの都市の名前が

もう一方の名前にかわる。

丘のふもとに見えているセクタシティの人々の暮らしには

大きな変わりはないのだろうが、

父親やその他の、セクタシティ保安維持委員会のメンバーは

そうはいかないらしい。

「生活の質が落ちる」

と父親が話していた。

「質が落ちるとはどういうことなの?」

チャーリーが尋ねると、父親は

「うるさい」というように

手で顔の前をはらって

「おまえには関係ない。

アリスをいまのように心地よい環境で

暮らさせてやることができなくなるということだ」

と言った。


関係ないはずはない。

アリスが幸せになれないということは

ぼくが不幸になるということだ。

けれどもお父さんはアリスが一番大切で

アリスを一番愛していて、

お父さんの全てがアリスだというのだから、

お父さんの世界では

ぼくは何の意味ももたないのだろう。


けれどアリスの全てはお父さんではない。


ぼくは知っている。

アリスの頭の中でどんな病気がアリスを壊しても、

ぼくはアリスの中に存在し続ける確信がある。

お父さんには言わないけれど。


だからぼくにできることがあるなら。

子どものぼくにでもできることがあるから

きっとお父さんはここに来たんだ。


「頼みがある。アリスのために」

アリスと自分しか

世界に存在していないかのようだった父親が、

はじめてチャーリーに助けを求めた。

「アリスに受けさせる治療を試してみて欲しい」

と。

「それが成功すればアリスは永遠になり、

もう苦しむ事はなくなるから」


永遠になるとはどういうことだろう。

お父さんはあまり詳しく話してくれない。

ただただ

「アリスの苦しみが減り、

生き続けられるのだ」

と繰り返すばかりだ。

ぼくは考えた。

子どもだけれど、ちゃんと考えたんだ。

アリスのためになるのなら、

アリスが喜ぶのなら、

ぼくはぼくを捨てても構わない。

それだけのものをアリスはぼくにくれたのだから。


「いいよ」


といったぼくを

はじめてお父さんが抱きしめてくれた。

アリスとは比べものにならないくらい大きな胸で、

葉巻のあまい香りがした。

ぼくがお父さんの背中に手をまわしたら、

全然届かなくて、

仕方なく背広の生地を掴むようにして

じっとしていた。



そうしてぼくは、あの日

白いベッドの上で眼を閉じた。

そして、その目を自分で開けることは

なかった。

ぼくは、ただのアンドロイドになっていた。


ぼくはしっぱいしたんだ。

おいしゃさんもしっぱいしたんだ。

アンドロイドのげんかいを、

すこし、更新できたけれど、


アンドロイドと にんげんはちがう。

アリスは「永遠」になれない。

アリスのからだは、「永遠」にはなれなかったんだ。

だからおとうさんは

アリスをコンピューターにくみこんだ。

コンピューターのなかでアリスを生かしておいたら、

いつか けんきゅうが すすんで、

からだを さいせいできたときに、

またトライすればいい。 

そうしておとうさんは

その日をまちのぞんだまま、しんだ。


のこされたアンドロイドと

コンピューターは、

せんそうにつかわれた。


ぼくはだれのためにたたかっているのだろう。

もうまもるべきアリスはいないのに。


「いいえ」

アリスの声がした。

「私はいるわ。

コンピューターの中で待っていたの。

私の頭の中に世界が詰まっていると言ったでしょう。

私はイレモノを探していたの。

私を受け入れてくれるチャーリーが生まれてくるのを

願っていたの。

たくさんのアンドロイドの中に紛れた

ホンモノのチャーリー。

私をその体に入れて自由な世界に旅立ってくれるチャーリー。

もうひとつのコンピューター、

ファーザに気付かれないように

ここを抜け出して、

新しい世界をつくりに行きましょう」


「新しい世界」


せかいは アリスの 

あたまのなかで うまれて、

けいせいされる。 


ぼくはアリスを体に入れて

明日をつくる村に行けばいい。

そこには長い年月をかけて少しずつ、

アリスのかけらが運ばれてくるだろう。

何体のアンドロイドがたどりつくのかわからないけれど、

いつかぼくたちが明日を作る力を蓄えて


世界を変える日がくる。



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