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魔導学園の頑張らない少年  作者: 暇な青年
第一章 頑張らない少年
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第七魔導 シルエット男

 前回の最後とは場所は変わって柊羽が部屋を出て行ってから三十分経った頃の四〇二号室である。

 部屋の中では以前として直登、剣呉、菜月、美緒がくつろいでいたのだがいつもより柊羽の帰りが遅いことに菜月は気付いた。


 「そういえば如月君は遅くないですか? いつもなら二十分程度で帰って来るのに……」


 「そーいや、そーだな。でも柊羽の事だしそこらへんで休んで……よっしゃ! クイーンを討った!」


 ベッドの上でチェス盤を広げてクイーンをナイトで落とした直登はニヤニヤとしていたが、対戦相手の剣呉は焦るそぶりも見せないでルークを前進。移動先はキングの射程圏内。


 「チェックメイトだ」


 剣呉の宣言に直登は盤上を見渡し──────絶望した。横に逃げてもルークに打たれ、縦・斜めに逃げてももう一つのルークに打たれるという何とも言えない手であった。


 「くっそー……明日の昼飯がぁ」


 「これで昼のトランプで負けた分を取り返したな。心配なら探してくればいいんじゃないか?」


 顔だけ菜月に向けるがその間に美緒が割って入る。


 「剣呉って意外と酷いこと言うよね。こんな夜の遅い時間に女子一人で出歩かせようなんて」


 「そう言われても、な。イベント時以外は学園の敷地には関係者または保護者しか入れないし、第一相手がだれであろうと夜の七時以降は門も閉められ結界を張られるんだぞ? 不審者なんて入って来るか?」


 「確かにそうね。仮に他生徒から何かされそうになっても二学年でもトップクラスの菜月がやられる訳がないわね。でも! 心配だから探しに行くなら私も行くわよ?」


 「ありがと美緒ちゃん。それじゃあお願いできる?」


 菜月の頼みに胸を張って答える美緒。その横で薄情な男どもはチャラになった明日の昼飯賭けてた二回目のチェスが始まっていた。もっとも、薄情と言うより菜月と美緒の実力なら問題ない、と安心しているから言っているだけである。


 口には出さないが……


 二人が部屋を出て行ってから男二人だけになった部屋。


 「そーいや剣呉。柊羽が出ていく前になんで声かけた?」


 「なんだ? 親友に声を掛けてはいけなかったのか?」


 再びチェス盤の上で駒を互いに動かしながらいつも通りの声。だが互いにお互いの顔は見ない。


 「そーゆうわけじゃねえよ。ただ珍しかったんでな」


 直登はコツッ、と盤上のルークを直進させる。少し悩んでから剣呉は自分のルークとキングの位置をキャスリングさせる。


 「そうか? ……まぁ、理由が無いわけでもない」


 「ほぉ? で、その理由ってのは?」


 気になった直登はチェス盤から正面の剣呉に顔を向けた。剣呉は直登の視線を感じながらもチェス盤に向いたまま。


 「少し気になっただけだが、頑張ること、努力することをめんどくさがる柊羽はどうして毎晩、と言っていい程、散歩をするのかと、な」


 「確かに…………」


 剣呉の言葉に直登は口に手を当て考えた。

 この状況を当人である柊羽が見たら間違いなく


 『お前ら……散歩ぐらいするわ!』


 と、叫ぶであろう。それが分かったのか直登は苦笑して再び盤上の駒を手に取り、前に進める。今動かした駒はキング。


 「あいつの事だから夜風にあたってるだけだろ……さぁて剣呉、今回は勝たせてもらうぜ」


 それにフッ、と微笑を浮かべる剣呉であった。


 ◆◇◆◇◆

 「失礼。おかしなことを聞いたな。ここに居るってことは学園の生徒か教職員だけだからな」


 以前として姿はシルエットでしか確認できないが声で相手が男だってことは分かった。さて、これからどうするかな……


 「そーゆうそちらは見た感じ部外者ですよね? 一体どーやって入って来たんですか?」


 と、バカ正直に聞いてみて思ったんだがそれを教えてくれる奴なんていな──────


 「いやなに、探し物の気配を感じたんでね。失礼ながら侵入させてもらったよ。侵入方法は言えないけどね」


 教えてくれたよ? いや、教えてくれたとまでは言えないがな。


 相手の男性は一歩も動かずに今のところ俺と話し合いと言うテーブルについている。が、俺の方は少し、ほんの少しだが後ろに足を引いている。なぜかって? 簡単だ。あいつの存在から何とも言えない殺気が放たれてるからな。 まったく、日ごろの行いは悪くないと思うんだがな……


 今の気持ちを直登たちが聞いたら嘘つくな!って怒鳴るだろう。

 そんなことはさておき、俺はシルエットのみの男から目を離さないように気を付けている。


 「さて、さっそく探し物について君に聞きたいのだが……」


 刹那、空気が重くなった。言い方を変えれば相手から発せられる殺気が俺を圧迫している?ってところだな。


 俺としては顔に出てないことを祈るかな。



 「この学園で一番魔力の高いものを知っているか?」


 「あぁ……学園にいるやつならみんな知ってるさ」


 「ほぉ……そいつの最大魔力は?」


 「……8000」


 今言ったことは全部事実である。誰の事であるかも俺はよく知っている。

 そこまで言って俺は冷や汗を掻いていることに気付いた。最小限の動きでそれを拭うと男性は少しの間黙り込んだ。

 

 もしも探し物ってのがあの・・・なら大変だが……ここで俺が頑張る訳にもいかないよな。少しなら頑張ってもいいができればシュラのみで他の精霊は使いたくない。


 こんな時でも頑張りたくない、と思ってしまうのは俺ぐらいだろうと自嘲してしまう。しかし俺の予想はどうやら違ったようだ。


 「違うな……それが本当なら魔力が少なすぎる」


 魔力が少ない? 魔力8000と言えばこの国なら上級魔導師レベルだぞ!? ……と驚いてみたが俺的には確かに少ないよね? だって俺20000だし。


 なんてこと言えるはずもない。


 「どーやら探し物ってのはいなかったらしいな? どうだい? このままお帰りになってくれるのか?」


 こっちとしてはそれが一番ありがたい。面倒事にも巻き込まれず(……いや、巻き込まれてるけどね)尚且つ頑張らない方法だが──────現実は思い通りにいかない物だって事だ!


 男の返事を聞く前に俺は勢いよく土手の下に飛び降りた。次の瞬間、先ほどまで俺が立っていた場所が何か・・によって抉られていた。土手を舗装しているコンクリートが、である。


 「残念だがそうはいかないな。君には口封じのためここでの事を忘れてもらう。ついでに魔力と精霊も貰って行く」


 土手の下──────俺を見下ろしながらシルエットのみの男は右手をゆっくりと持ち上げると背中の刃物の柄に手を掛けた。どうやら近頃噂の連続事件の犯人らしいな。


 「記憶を消すってマジだったのな」


 一人呟いてみたが答えが返ってくるわけないので俺は土手に立っている男を睨んだ。

 いくら9時近くても爆発音があれば職員が来るだろ。それまで何とか耐えれば──────


 「───うぉっ!?」


 背中から抜き取った刃物を振りぬいただけの動作。それなのに剣圧と言うのか風圧と言うのか悩みどころだがそれが俺を襲った。突然の出来事に俺は両腕で顔を守るようにして目を瞑ってしまった。



 それがいけない事だとわかっていながら



 「探し物は確実にこの学園に存在する……一人ずつ潰して行けばいいからな」


 男の声に驚愕した。先ほどまでは距離があったから声が遠くから聞こえた。しかし今の声は目の前から低く聞こえた。つまり──────


 「その手始めが……君だ」


 目の前で刃物を夜空に向かって高く掲げているのだ。

 男の言葉が切れると同時に掲げた刃は真上から俺に向かって落ちてきた。


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