第五魔導 夜の日課?
食堂から自室に戻ると俺は部屋のテレビを付ける。大型ディスプレイにはここ最近起きている連続事件の新しい情報だ。
『被害者はここで倒れていたようです』
女性レポーターが現場で中継している。
この連続事件と言うのは不思議な事件である。死者が出た訳でも金を盗られたわけでもない。ならなぜ不思議な事件かと言うと襲われた被害者は皆、契約精霊が居なくなってしまう。さらに被害者が目を覚ますのにも最低でも二日かかり、やっと目を覚ましたら襲われたことに関する記憶が無くなっている、と不思議な事件である。
「やれやれ、物騒な世の中になった物だ」
他人事のように呟いていると部屋の扉がガチャリ、と鳴り、俺は自然とそちらに顔を向けた。中に入って来たのは先ほどまでカオスな展開になっていた食堂にいた直登達であった。
「よう、早かったな」
「てめぇ……裏切り者が!」
「ざけんな! あんなカオスな場所に居られるか!!」
戻って来たばっかりの直登とギャーギャー騒いでいるうちに剣呉・美緒・菜月が椅子やベットに腰かけていた。
美緒と菜月の部屋は一階上のフロアだが毎日必ず俺らの部屋に遊びに来るのだ。
部屋に置かれている時計をふと、見ると俺はスッ、と立ち上がる。
時計には8時3分と映し出されており、俺はいつもの日課をしに部屋から出ようとしたら剣呉の何か言いたげな表情に気付いた。
「なんだよ?」
「いや、いつもの通り夜の散歩かと思ってな」
「悪いか?」
「いや、早めに戻ってこいよ」
「お前はお母んかっ」
剣呉が何を言いたかったか分からないが俺は後ろに手を振るように部屋を後にした。
◆◇◆◇◆
夜の学園と言うのはライトアップされてて意外と幻想的だなぁ、とキャラに合わないことを思いながら日課の夜の散歩をしている……実は散歩じゃなかったりして。
俺は今、第三グラウンドの土手の上にいる。
第三グラウンドは周りが土手の様に落差があるところに作られている。そのため自ずと土手を降りていきグラウンド内に入る。魔導学園のグラウンドは自主練してもいいように二四時間使えるのである。校舎の方はさすがに入れないが。
とにかく俺は第三グラウンドに入ると軽く首を回し、手首を回し、体をほぐす。
それから俺は右手左手の人差し指を立て、左右同時に自分を中心に五角形の図になるよう魔方陣を描いていく。
「我、召喚図を描き、彼の者を召喚す」
五つの魔方陣を一気に発動させる。魔方陣はそれぞれ赤、青白、緑、薄茶、黄色に光り、次の瞬間それぞれの魔方陣からそれぞれの色の光を夜空に放つが光は魔方陣の下へと返ってきた。
「我らが主、よくぞ呼んでくれました」
光が消え、目の前の魔方陣の上には可愛らしい人形───精霊が浮遊していた。
今口を開いた彼女はディーネと言い、正式な名前はウンディーネである。
足元に届く程に伸びた青い髪が特徴である。精霊と言っても女の子なので胸も微妙にあります。菜月の精霊キュオンも同じく。
「久しぶりだなディーネ。それにお前らも」
俺は他の魔方陣の上に浮遊している精霊たちに視線を回す。
赤髪ツンツンヘッドでカッコ可愛いシュラ。正式な名前はフレアート
緑髪ツインテールの大人しい雰囲気のルフ。正式な名前はシルフ
茶髪で額に一角獣の様な角を持ったムー。正式な名前はノーム
黄色髪で右耳にピアスの様な物を付けているライ。正式な名前はライボルト
どれも俺と契約した契約精霊である。
今よく見てみるとファンタジーゲームの様に耳が尖がってるな。ムーの角を見てもしかして、って思ったが。気づくの遅かったな俺。もう何年も一緒のはずなのに……
「おう、シュウ! 今日の戦闘でのあの負け方は在りえねーだろ!?」
「シュラ……いきなりダメ出しは止めてくれ」
可愛らしい手でビシッと俺を差してくるシュラだが……可愛くて許せてしまう。が、分かっての通り性別は男だ。
「シュラはいいじゃない使ってもらえるだけでも。私やディーネ、ムーなんてめったに使ってくれないのよ?」
「偶にでも呼んでくれれば良いだろ。俺なんてこんな時じゃないと呼んでくれないんだぞ」
しゅんとしたライを何とか慰めようと俺は頭をなでる。するとそれを見たディーネやルフは私も私も、と強請ってくるので大変だ。無言だがム-も構ってくださいオーラが目に見えている。
「ムーも言葉で言ってくれれば分かりやすいんだけどな」
ライ、ディーネ、ルフ、ムーの順番で頭を撫でていく。
シュラの方はいつの間にか俺の肩に乗っかってぶつぶつと魔導実習の事を掘り返しているがもちろん無視。ここで話に乗っかったら再度ダメ出しが来るからな。
そんなこんなで俺はいつもの日課を始めることにした。あいつらには散歩と言っているが先ほども言った通り散歩ではなく自主練だ。まぁ、自主練と言うほどの物でもないけどな。実際使うことなんかないし。
とりあえずグラウンドの中央で腰を下ろす。シュラも肩から降り、ほかの精霊たちの下へと駆け寄った。
「それでは……主よ。いつものように頼みます」
ディーネはこちらを見て言ってくる。それに対し俺は無言で頷くと目を閉じ、そのまま体の中に存在する精神魔力を縛っている『鍵』を解除した。
鍵を解除した瞬間、俺を中心に風───と言うより風圧が広がり第三グラウンドの周りに植えてある木々がざわついた。
「流石は俺たちの主なだけはある」
感心するようにライが呟く。それに賛同するように周りも頷いているのであろう。目を瞑っていても気配でわかる。それと、午後の授業の時に俺の魔力は『色々あって820』と言ったがあれは正しくない。
俺は生まれつき精神魔力が高く、それを隠すため『鍵』と言う形で精神魔力を封じている。実際の精神魔力は20000と言う自分で言うのもアレだが化け物だ。
まぁ、おかげでこいつ等とも出会えたし結果オーライ、ってことで。
「なにを考えてんの、柊羽?」
「ん? 精霊の事について」
「私たちの事?」
「おう」
ルフたちは小さいから見上げるようにしている。どーも可愛い過ぎて和んでしまう。
ほわぁー、としていたのが悪かったのだろうか? ディーネが俺の事を呼んだ。
「丁度良いですね。主よ、精霊の契約について説明してください」
「……はい?」
「ですから説明です。我らが主ならそれぐらいできますよね?」
「……まぁ」
良くわからないが説明すればいいんだな?
こうして精霊たちと学ぶ夜の精霊講義が始まった。