第四十九魔導 文化祭三日目 智香と凛編 後編
くそ長くなった。
それと柊羽君ちょっとピンチ、かな?
『感謝!!!』
『魔導学園の頑張らない少年』の累計PVが1,500,000アクセス突破&累計ユニーク数が300,000人を突破しました!みなさん、本当にありがとうございます!
拘束されて、どのくらい経ったんだろう?
ベッドの近くの机に置かれた焼きそば(いつ置いたんだろ?)の匂いが俺のお腹を刺激する。あぁ~、腹減った。こんなことなら智香の教室で食べてから来るんだった。
今さら後悔しても遅いが、焼きそばの匂いを嗅ぐたびに、そう思ってしまう。
その時、
「おっまたせ~!!!」
勢いよく開けられたドア。ビックリして俺は首を浮かせてドアの方へと視線を向ける。ベッドに拘束された状態では先ほど俺を拉致監禁した先輩二人しか見えない。しかし、その二人の後ろから人の気配は感じる。
「そろそろ、解放してほしいんですけど。それとできれば拉致監禁された理由を教えてほしいんですが……」
「理由は後でわかるわ。解放の方は……まだまだ先ね」
ピンク髪を左右に揺らしながら、癒しの間“風水”で見せた営業スマイルとは別のスマイルを浮かべながら近づいてくる。その横にはメガネの先輩。二人の背後にはやはり隠れる様に付いてくる人影。
「あ、そうですか……ちなみに後ろに隠れてるのは凛姉ですよね?」
てか、他に三年生に知り合いなんていないし。
突然名前を呼ばれて焦ったのかひゃい、なんて可愛らしい声が上がって来たのは言うまでもない。壁役の先輩たちもその可愛らしい声にあちゃー、と声を漏らす。
「そうよ。後ろにいるのは凛……なんだけれど……いつまで私たちの後ろで隠れてるつもり? 目の前には如月君、それもやりたい放題の状態でベッドに寝てるのに」
……ちょっとメガネ先輩。微妙に不吉なワードを入れないでもらえますか?
メガネ先輩は後ろに振り返って後ろで隠れてる凛姉に飽きれた風に言ってる。しかし凛姉はでもでも、と何やら前に出るのを渋ってる──らしい。
珍しいな。凛姉が渋るなんて。
そんな凛姉を見て、ピンク髪の先輩が小悪魔的な笑みを浮かべたのを俺は見逃さなかった。
「そっか~、凛は如月君の前に出たくないって言うなら私が彼を誘惑しちゃおっかな?」
「ふぇっ!?」
「ううん!?」
凛姉と同じタイミングに声が出た。ニッコリと、小悪魔が一歩、また一歩とベッドに歩み寄ってくる。しかも服装がナース服だから余計に変な物を想像してしまう。
先ほどまで、でもでも、と渋ってた凛姉も今は、あわわわわ、と超! 焦ってる。でもね! 今一番焦ってるのは俺だからね?
「だいじょーぶ。痛くしないから……私と、いい事しましょ」
「いやいやいや! 何が大丈夫なの!? つか、痛くしないって何!? いい事とか、俺じゃなくて彼氏さんにでも言ってあげて!!!」
するとピタッと先輩は足を止めた。
「私ねぇ、今フリーなのよ?」
口元に手を当てて、そう言いうと再び歩み寄ってきた。
「ちょっっっとぉ!? 今のタメなに!? フリーだからってダメなものはダメでしょ!?」
それでも止まらない先輩。メガネ先輩もなぜか止めない。
ついにベッドの横まで来ると、スーッと俺の頬に手を当て、上半身を曲げて、ゆっくりと先輩が顔を近づけてくる。徐々に近づく先輩の綺麗な顔。ふっくらと柔らかそうな唇が俺の唇と重なろうとしている。慌てて俺は目を瞑った。
ちょっ、まっ──
「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
真っ暗な視界の中、凛姉から聞いた事も無いような叫びが聞こえたと思ったら、ドンッ、と微妙にベッドが揺れた。その後に凛姉のえっ、と言う小さな呟きの後に俺の唇に何かが重なった。
な、なんだ? 何が起きた? これは目を開けて確認するべきか……いや、でも……。
そーっと目を開けるとギュッ、と目を閉じた凛姉の顔が目の前に。凛姉の唇は俺の唇と……。
よし、一度目を閉じよう。そして、現状を再確認しよう。ゆっくりと目を開く。当然先ほどと変わりはなく、目の前には凛姉が。目だけを動かして左右を確認すると、どうやらベッドに手を付いてるっぽいな。再び視線を前に戻す。が、恥ずかしいので視線を逸らそうとした瞬間、パチッ、と目を開けた凛姉。
目があった。
どうやら凛姉は今の状況が理解できてないようだ。で、理解できたのか徐々に顔を赤く染めていき、恥ずかしさでベッドから飛退き、その場で立ち尽くす。これ以上ない程に赤くなった凛姉は口に手を当て、何か言おうとしてる。だが、それは声にならない様で……いや、もしかしたら俺に聞こえてないだけかもしれないが。どっちにしろ相当テンパってるな。つか、なんで凛姉もナース服? でもさっきまで渋って出てこない理由がわかったわ。それにしても流石、凛姉。なに着ても似合う事で。
っと、テンパってるって事は俺も人の事言えないけどな。
何か声を掛けようと口を開こうとしたら、凛姉の体が右に左に、前に後ろにユラユラと揺れ始め、後ろに倒れた。
「凛姉っ!」
しかし、凛姉は床に倒れることなく、メガネの先輩が後ろでキャッチしていた。てか、今の見てたよな、確実に。そーいや、もう一人の先輩は?
首から上を動かせる範囲で動かすと、斜め後ろで窓際に寄りかかる様に立っていた。それはもう、最高の笑みで。
「いやぁ、予想以上の展開になったね~。これも全てハルのおかげかな?」
「そう? 私としてはあそこまで如月君を誘惑したナオのおかげだとおもうけど?」
「いやいや、私を突き飛ばした凛を後ろから押したあんたほどではないよ」
などと二人とも楽しそうに会話してる。そして分かった。俺と凛姉に何が起こったのかが。
つまり、ナース姿で恥ずかしいくて出てこれない凛姉を俺の前におびき出すために、ピンク髪の先輩──ナオって言ってたかな? そのナオ先輩が俺を誘惑して凛姉が前に出ざるを得ない状況にした。
ちなみにどうしてナオ先輩はこの状況が凛姉の出ざるを得ない状況だと思ったのかは俺には分からないがな。
話をもどして、出てきた凛姉はナオ先輩を突き飛ばす。それで終わるはずだったが、メガネの先輩──ハル先輩が後ろから背中を押した。そのとき、えっ、って言ったんだろうな。慌てて手を出したが間に合わずキスしてしまった、と。
「つまり全て先輩たちのシナリオ通り、ってことですか」
「え? 違うよ」
「ん?」
首を横に振って否定するナオ先輩。
「最初はナース服を着せた凛を連れてきて、如月君にマッサージさせるだけだったのよ。でも予想以上に凛が恥ずかしがって出てこなかったから、こうなったってわけ」
「つまり……その場のノリ」
ハル先輩がメガネを外し、レンズを拭きながら言った。
「ノリぃ!? その前にマッサージって何?」
「それは私達のクラスの出し物がマッサージだから。本当なら凛は生徒会の仕事があるから呼び込みだけ、の予定だったのだけど君が来たから私たちは学園中で凛を探したの」
なるほどね。確かに凛姉に呼び込みされちゃ、大抵の男子は付いてくわな。
「ちなみに」
「はい?」
「VIPルームなんて物は本当は無いから」
「えっ!? でも、ここで休憩していた先輩たちは分かってるかのように行動してましたけど……」
「私達のクラス、ノリがいいのよ」
クスッ、と笑いながらメガネを掛けなおすハル先輩。
いやいやいや、ノリが良いってもんじゃねーぞあれ!?
「今まで辛かったでしょ。そろそろ解放してあげるよ」
ナオ先輩は手錠のカギをナース服のポケットから取り出し、次々と開錠してくれた。
自由になった両手の手首を擦りながらベッドから降りる。するとハル先輩が凛姉をベッドに寝かせた。その姿はまるで眠り姫の様に美しい。恰好はナースだけど。
「さて、如月君」
「今度はなんですか?」
先ほどまで横になっていたので背伸びをしながらナオ先輩に振り向く。
ニコニコしたナオ先輩は俺を見る。
「学園のマドンナ──凛の唇はどうだった?」
「ごほっ!!?」
せき込む。
その反応に満足したのかナオ先輩は始めに見せた営業スマイルを浮かべ、
「お客様、リラックスできたでしょうか? 癒しの間“風月”、クラス一同またのおこしをお待ちしています」
ハル先輩と一緒に軽く頭を下げた。
リラックスどころか緊張しかしてねーよ。
「は……ははは…………」
二度と来ないと心に誓ったのは俺だけの秘密だ。




