第四十四魔導 文化祭前日
「さぁ、明日から本番よ! 今日はゆっくり休んで明日からの五日間を楽しむわよ!」
すべての準備が終わり、明日から始まる本番に向けてクラス委員の女子が教室の中央で張り切って喋っている。それに答える様にクラスメートのテンションも上がっていく。
「本番は明日だってのに」
若干、クラスメートとの温度差を感じながらも、何だかんだ言って明日からの文化祭は楽しみだ。が、出来れば楽して楽しみたいものだ。
「お前はいつにも増してやる気を感じられないな、柊羽」
教室の角に背中を預ける様にして立っていた俺の横にいた剣呉がこちらを見て言って来た。いつもならここで直登も一言二言いってきそうだが、今回はクラスメートと一緒に明日に向かって叫んでいる。
「ん? これでもやる気は十分あるし、楽しみだぞ。ま、楽したいとは思ってるがな」
「お前らしいと言えばお前らしい。さて、明日からの五日間、どう過ごすつもりだ?」
「どう、って……いや、普通にお前たちと回るつもりだけど?」
それを聞くと剣呉はやれやれ、と首を横に振り、尚且つ大きくため息を吐いた。なんだよ、その0点と言いたそうな反応は。
どうやら剣呉は俺の表情からそれを読み取ったらしく、ありがたい事に言葉にしてくれたよ。
「いいか、高校生活ってのは人生で一番青春を謳歌できる時期だ。俺たちはその内の三分の一を過ごした。残り三分の二しかないんだ。俺たちとバカやるのも良いが、『恋愛』と言う青春の一部を選ぶのもありだと思うぞ」
「……はぁ」
「お前、そこまで鈍かったか?」
「何の事だ?」
「なんでもない。まぁ、俺が何を言いたいかと言うと、天城たちや藤原姉妹と文化祭を回ってこい、とは言っても強制はしないがな」
今の自分には恋愛は関係ない、的な発言してた剣呉に恋愛関係の話を振られるとは思わなかったわ。つか、なぜその話を俺に? まるで俺にチャンスがあるような言い方するよな……あるわけないのに。
「……考えとくわ」
「出来れば実行することをお勧めする」
そう言って剣呉はバカ騒ぎしているクラスメートの群れに向かって行った。
……まぁ、誘うだけ誘っとくか。とは言えあいつらとも回りたいし、どーすっかな。
◆◇◆◇◆
その日の夜。俺は一人寮の部屋にいた。直登と剣呉はクラスメートたちと明日からの成功を願って一杯、と食堂でお楽しみ中だ。俺もさっきまで一緒にいたが先に一人戻ってきたわけだ。言っておくが酒じゃねーからな。
ベッドに仰向け倒れこみ天井を見上げ、枕元に置いておいた携帯に手を伸ばす。
「ふむ」
フリック入力で『文化祭一緒に回らない?』的なメールを完成させたのだが、友達に……それも女子に対してこの硬いメールはねぇーな。しかもなげぇ。
いつも通りのサラッとした内容のメールをちゃっちゃっと作り、送信っと。
「なんか……疲れたわ」
携帯を枕元に放り投げ、俺は目を閉じた。
『しゅ─────う───────』
「……ん」
誰かに呼ばれたような気がした。ちょっと眠るつもりだったが目を覚ましてみると部屋の電気も消え、部屋内は月明かりによって微かに見える明るさだ。隣りのベッドには直登と剣呉がぐっすり寝ている。
「シュラ?」
五大の誰かが俺を呼んだのかと思い、声を掛けてみたが返事はない。寝てるのか。
「……気のせいか、夢だったのかな?」
前髪を掻きながら、ぼやける視界で枕元に放り投げた携帯を手探りで探す。携帯はすぐに見つかり、電源を入れると、画面にロック画面と時計が映し出された。時刻は二時十三分と表示されてる。
「うぉっ!? 明日が今日になってるじゃねーか。さっさと寝るか」
再び携帯を放り投げ、夢の世界に意識を落としていく。結局、この後誰かが呼ぶ声は聞こえなかった。




