第四十二魔導 赤面
10月も二週間目となり、俺たちのクラスは……いや、学園全体が活気づいていた。
なぜなら──────
「さて、うちらの出し物をさっさと決めて準備に取り掛かるわよ!」
教卓の後ろに立ち、盛り上げる様に右手を上げるクラス委員の女子。それに続く様に俺と剣呉意外のクラスメートも、おぉー! と一緒になって叫ぶ。一部の男子生徒たちは席から立ち上がる程だ。
まったく、つかれないのかね。
なぜここまで盛り上がっているかと言うと、魔導学園三大行事と呼ばれる『文化祭』が迫っているからである。ちなみに残りの三大行事とは『修学旅行』と『卒業式』である。普通は体育祭あたりが入ってきそうだが……。
で、文化祭は一般の学校なら数日の準備期間と三日間の本番だろうが、魔導学園の文化祭は凄い……を通り越して俺的には疲れる。なぜなら、まず準備期間だけで一週間(土日は任意だが)。そして開催期間も5日間。まぁ、文化祭終了後に四連休貰えるから休みの心配はない。これだけ長くやるんだ、中途半端な出し物にならない様に熱が入るって訳だ。
「俺としてはめんどうなだけだよ」
机に頬杖付きながら、次々に出される案を書記が黒板に記していく。俺はそれをボーッと眺めるだけ。すると後ろの美緒がツンツンと背中を突いてきた。
「なんだ?」
体を横向きにして背もたれに右腕を乗っける。美緒は楽しそうに笑顔で文化祭の出し物について俺に話を振って来た。と言っても、ただ美緒の案を聞いてるだけなんだがな。その時、微妙に開けた窓の隙間から入ってくる風がポニーテイルを微かに揺らした。
こーして見てみるとやっぱり美緒は──────
「──────可愛いんだな」
「えっ!?」
「ん?」
「しゅ、柊羽……今、な、な、な、な、なんて」
ほんの数秒前まで楽しそうに文化祭への出し物……と言う名の願望を飽きることなく口にしてたのが一瞬にして真っ赤に顔を染め、俯いた。それはもう耳まで真っ赤にして。
「あー、口に出てた? わるい、わるい。でも嘘じゃないし、お前なら他の奴に何度も言われて慣れてるだろ?」
「な……」
「な?」
わなわなと俯きながら体を震わせる美緒の次の台詞を待つ。
「慣れてる訳ないだろばかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うぉっ!」
全開とも思える美緒の一言は俺の右耳から左耳へと貫いて行き、そのまま教室内に響いた。教壇の後ろに立っていたクラス委員の女子も、黒板にメモを取っていた書記も、俺たちから一番遠い扉側の少年も、つまりは教室にいた全ての生徒が一斉に驚いた顔でこちらに振り向いた。
「ちょっ! 美緒、声がでかいって。あはは、気にしないでくれ。さっ、文化祭の出し物を決めようぜ!」
叫び終えた美緒は再び俯く。俺は慌ててクラス委員に話を戻すよう促す。が、あれだけ大きな声を聞いた後だ。はい、そうですね、とは行くわけがない。
「そうは言ってもねぇ……天城さんがあれほど大きな声を出すなんて、初めてだし……如月君、なにをしたの?」
「なにもしてないわ!」
「本当に?」
ギロッと目を細め睨んでくるクラス委員に周りの生徒たち。その中に菜月の視線もあった。半分心配した顔。もう半分は俺が何かしたのではないか、と言う疑いの顔だった。
「いや、その……美緒助けてくれ」
右に左に視線を彷徨わせて、俺は俯く美緒に助けを求めた。するとゆっくりと顔を上げ、いつもの何気ない顔でこう言った。
「ごめんね、みんな。柊羽がちょっとエッチな事言って来たからどなっちゃったわ」
てへっ、とちょっと似合わない仕草をした。
「そうそう、俺がエッチな……ん? おい! ちょっと待て!」
「なに?」
「……はい、そうです。すいません」
なぜかわからんがめっちゃ怒っとる。ここは素直にしたがっとくか。
こうして俺がセクハラをした、と言う結果で騒動が収まった。
まぁ、分かってると思うが後で直登と剣呉に事情を説明したら盛大に笑われた。それはもう、直登はベッドの上でのたうち回るほどにな。このやろう。
菜月にも説明したら
『如月君はもう少し乙女心を勉強した方が良いですよ』
と真顔で言われたよ。菜月も若干怖かったな。
こうして文化祭準備期間の一日目が終わりを告げた。




