第三十九魔導 曇天に太陽
さてさて、なんか長く感じた夏休みが終わったと思ったら、すでに10月に突入していた。で、月初めと言うわけで学園恒例の実技テストだ。めんどくさいことこの上ない。で、今回は第一グラウンドが俺たちの会場らしい。
「どうせなら上級生……それもめっちゃ強ぇ奴とやりあいてぇな」
「そうだな、いつかの様に貴様では相手にならんしな」
バシッ、と身体の前で右手の拳を左掌に当てていた直登がそれを聞いた瞬間、その動きを止め、ギギギ、とどこかのブリキ人形の様に右側にいる剣呉へと顔が向く。
あーあ、剣呉も本人目の前でンなこと言うなっての……
二人で言い合いになったので俺は一人、前に進みグラウンド内で必死に戦ってる生徒たちを見た。どいつも様々な魔導を使っているが、結局皆同じような魔導ばっかりだな。
特にこれと言って……ん?
グラウンドの右端で戦闘している生徒に視線が行った。片方は隣のクラスの……何とか君。ごめん、名前しらねぇんだ。何度か見かけたぐらいだし。じゃなくて、相手の方が……なんていうか動きが滑らかすぎる。そう、夏休みで戦った雪奈先生の様に。
あれは先輩か?
そいつは男で当然だが俺らと同じ制服を着ている。俺はその先輩の動きをじーっと眺めていると一瞬先輩と目があった。そして先輩は微かに笑った。まるで俺が見ていることに気づいていたかのように。
◆◇◆◇◆
「結局、あの先輩の圧勝か」
「先輩? なんだ柊羽、強ぇ奴みつけたのか?」
「あ、いや、強いかどうかは別だが少し興味があるだけさ」
そこで剣呉は驚いた表情を俺に向けた。それはもうこれ以上ない程の表情で。
お前なぁ、俺をどんな風に認識してんだよ、と言いたくもなったが寸前のところで流し込んだ。
「しかし万年やる気なしの柊羽がそんな事を言う何てな……どんな奴なんだ?」
「あー……」
……あれ? 動きばっか見てたから特徴覚えてねぇぞ!? えーっと、確か男で……男で……
「男」
「……それ以外は?」
「見てなかった」
頭の後ろに手を当てて笑って答えると二人の表情からバカじゃねーの、と無言の攻撃が!
この空気には耐えられんので話を変えるか。
「そ、そういえばお前たちはもう呼ばれたのか?」
チラッとグラウンド内に視線を向けながら聞くと直登は首を横に振った。剣呉も同じように首を横に振った。
……おい、これはまた以前の様に俺らの中で誰か戦うんじゃねぇだろうな?
そんな事を思い、グラウンド内にいる教師を見ると丁度拡声器を口元に持っていくタイミングだった。が、そこですぐに声を出さなかった。代わりに空を見上げた。俺も釣られて空を見上げると先ほどまで晴れていた空がいつの間に雲に覆われていたのだ。
「一雨来るか?」
「来そうだな。直登、天気予報を……見てる訳ないか」
「悪かったな!」
まぁ、大したことない雨なら続行だろうし、俺は曇った空から先生に視線を戻すと先生も視線を戻し、手に持った名簿を見ながら拡声器から声が聞こえてきた。
「二年B組如月 柊羽。もう一人は一年C組藤原 智香。空いた結界内に入りなさい。繰り返す──────」
再び繰り返されるアナウンスに俺はため息をつく。
うげっ、智香か……適当に流して負けるか、と打算していると後ろからポンッ、と背中に何かを当てられ振り向く。
「柊羽、手加減なんかしないでよ?」
智香だった。めっちゃやる気なんですけど。無い胸の前でグッと拳を握りしめないでくれ。俺は今まさにどう負けるかを考えてるんだよ。
とは口に出せる訳も無く、ため息一つ。そんな俺を見た智香はニカッ、と笑って俺の手を引く。
……今曇ってて太陽は見えないはずなんだがなぁ。
智香に引かれるまま、曇天の空を見上げてそんな事を思っていた。




