第三魔導 魔導とは?
さて、いきなりだが俺はどうすればいいのかね?
現在の状況を簡潔に述べると、昼休みが終わって五限目の魔導実習の時間。ここは第二グラウンドの一角で、目の前では美緒と菜月が組んで俺に魔導の雨を降らせてる、以上だ。
魔導実習や実技テストをする場合はグラウンド内は結界によっていくつかに区切られ、一斉に戦闘ができるようになっている。結界はかなり頑丈なものでハッキリ言えば結界を壊せる者がいたら相当な化け物である。
結界内では大抵一対一なのだがどうしてニ対一を許した!?
授業が始まる前にそれを許した先生を恨む俺だった。
さて、目の前の現実に目を向けるか。いつもなら美緒は魔導より接近戦で戦う事を好むがなぜか今日に限って菜月と一緒に後ろから魔導の雨を降らせてくる。
「つかれる……なぁっ!」
魔導の雨が止んだ一瞬の隙を付いて右手の人差し指を筆の様に空中に魔方陣を描いて行く。
「我、契約図を描き、此処に招来す───炎弾!」
描かれた魔方陣が赤く光りだすと無数の炎の玉が一直線に二人へと飛んでいく。だが菜月は炎弾を避ける素振りを見せず、逆に美緒の前に躍り出ると左人差し指で魔方陣を描き、あっという間に完成させる。
「水壁」
青白く光った魔方陣から勢いよく飛び出した水がその場で波の様に高くなり、水の壁となって二人の前に現れた。
勢いよく飛んでいく炎弾は水壁に衝突するとジューっと音を立てて水壁と一緒に水蒸気となって消えて行った。
そこで終わることはなく、水壁が消えたことにより二人の姿が見えたが、菜月の後ろにいた美緒はすでに次の魔方陣を完成させていた。
あー……水壁を目隠しに菜月の後ろで始めっから魔方陣を構築、完成させてたのね。で、俺の炎弾と水壁が消えたことにより射線上が空いた、と。無理だろ。
「鎌鼬」
緑色に光った美緒の魔方陣は何かを放った。その何かは目に見えず空を切り裂く音だけが聞こえ徐々に近づき─────俺を切り裂いた。
「~~~っ!」
切り裂いた、と言っても実際は頬に一閃入った程度だ。それには二つの理由がある。
一つは今着ている制服である。
この制服は対魔導制服と言って学園が独自に作り出した物で実践授業などで大怪我しないように、と防御魔導が施されているのである。これにより大抵の魔導は防げる。もっとも、魔導による衝撃、顔や首、手などは守れないが。
もう一つの理由は簡単だ。
単に美緒が外しただけだ。さらに言えば威力も弱くしてくれたため、紙で手を切った、程度の痛さである。
「ってぇ~~」
地味な痛みに顔を歪めていると菜月と美緒が近づいてきた。
どうやら終わったなぁ。
ふぅ、と小さくため息を付くとコツンと額に軽い痛みが襲った。どうやら美緒が小突いたらしい。
菜月は手のひら大の魔方陣を描くとそのまま切り裂かれた頬に当てた。
「我、契約図を描き、彼の者を癒す───回復」
魔方陣は青白く光ると切り裂かれた頬がスッキリと治っていた。
同時に菜月の横をヒラヒラ飛んでいる手のひら大の可愛らしい女の子に人形に目を向ける。
「さんきゅ、キュオン。それに菜月」
キュオンと呼ばれた人形は精霊と呼ばれ、魔導を使うために契約しないといけない物である。精霊と言っても大きく分けて五種類存在する。炎・水・風・土・雷と分けられ、契約した属性の魔導が使える。
しかし契約と言うのは簡単なものではない。
今は簡単に説明すると契約の簡単な順に炎・水・風・土そして雷である。特に雷は契約が難しく契約者は数少ない。契約内容はまた別の時に説明するとしよう。
さて、魔導とは言ってみれば精霊の力。精霊と契約し魔方陣を教えてもらい、その魔方陣を描く。
描いた魔方陣に自然エネルギーと呼ばれるマナと己の中にある魔力を使って初めて魔導を使うことができる。
しかし魔力と言うのは無限にある訳じゃない。一般的で数字にして1000。これはゲームの様に魔導を使うたびに減っていき、魔力が空になったら0となり、次の日まで使うことはできない。さらに一日ですべての魔力が回復することはない。
逆もしかり。修行をすればすぐに、とは言わないが魔力を増大させることができる。
色々あって俺の魔力820と一般の人より低いという何とも情けない数値だ。菜月は5200で美緒が4620である。これはずっと前に聞いたからあってるはず。成長してなければ。
キュオンはポッと顔を赤くすると光となって消えてしまった。
「で、なんであんたは防御魔導を使わなかったの!? あんたなら間に合ったでしょ」
「いや~、無理だって。仮に間に合ったとしても次の魔方陣を菜月が描いてたじゃん。二つ続けて守れるほど俺は強くないし、逆に俺に二回も止められるほど二人は弱くないからな……あきらめ───ンギャ!?」
「あきらめんな! まったく……」
頬に一発入れてから美緒は結界の外に出てしまった。外では今のを観戦していたのか直登と剣呉がおり、手を振っていた。俺は殴られた頬を擦りながら苦笑し、菜月と一緒に後を追いかけるのであった。




