第二十八魔導 全力
空中で静止している闇の精霊の顔には驚きと焦りが見て取れる。驚きは目当ての五大精霊が目の前にいること。で、焦りの方も五大精霊なんだろうが、それだけじゃなく多分俺の事も入ってるんだろうな。
事実、凛姉……いや、凛姉たちの表情が見てなくても手に取るように分かる。
おそらく俺に対して恐怖感を顔に出してるだろうな。
なぜ見てないのに分かるかって? だって、前に味わったからな。
魔力とは精霊と契約。魔導を撃つ。創具を創る。程度しか使わない。いや、それぐらいしか役に立たない。ただし、保持する魔力が10000を超えると話が別になる。魔力だけで相手に対してプレッシャー───つまり圧力をかけることができ、圧倒的な力の差を相手に教える。それが例え精霊でも。
人間でも、な。
過去の思い出したくない記憶が俺の頭の中に映し出される寸前、シュラの声によって頭の中に記憶が映し出されることは無かった。同時に闇の精霊へと意識を向ける。
「おらおらおら」
横に腕を薙ぐだけで炎が闇の精霊に牙を剥く。それも一つ一つではなく同時に何発もだ。相変わらずシュラの炎は厄介だよな。
シュラを横目に翼足の速度を使って空中でシュラの炎を切り裂いている闇の精霊の後ろを捕る。今までの速度を遥かに超えた翼足の能力に闇の精霊は目を見開く。
当たり前だろ。なんたって今までの翼足は言って魔力200ぐらいで発動してたんだ。それを1000の魔力を注いだんだ。翼足の能力も5倍だっての。
「落ちとけ!」
んっ! と夜空に向かって振り上げた左足を一気に首筋に叩き落とす。真っ逆さまに落ちる闇の精霊は体勢を立て直すことなく一気に地面に叩きつけられバウンドする。地面からバウンドした瞬間を狙ってシュラの奴、魔方陣を展開して紅蓮を放つ。
「グギャ!?」
紅蓮によって横に吹き飛ばされる闇の精霊の真上を取る。そのまま俺は魔方陣を描く。まずは緑色の魔方陣。完成したらいつものように撃つことなく、今描いた魔方陣の上に新たに黄色の魔方陣を描く。
「我、契約図を描き、此処に二重の招来す──────」
二つの魔方陣は互いに引かれるように一つの魔方陣となり六芒星の魔方陣と姿を変えると黄緑色の光を強く放つ。
「──────旋迅槍破」
強く光る魔方陣から現れたのは槍。召喚魔導で召喚した普通の槍でもなければ創具でもない。正真正銘、魔導による槍である。槍は雷で出来た様に雷を帯び、穂先はギザギザとして先端に向かうにつれて細くなっている。さらに穂先から柄に向かって風が何重にも螺旋の様に唸っている。
パンッ、と雷の柄を握り、紅蓮で燃やされている闇の精霊に向かって真上からそれを放つ。風を螺旋に切り裂きながら真上から肉を貫き、風によって抉られる音と闇の精霊の悲鳴にも似た雄叫びが耳を劈く。
悲鳴を無視して空中から一瞬でシュラの横に移動する。まるでどっかの漫画のようだな、なんてことを思ったのは俺だけじゃないはず。
「やったか?」
「バカ言え、二極精霊があの程度でやられるかよ」
は!? ちょっと待て! さっきの旋迅槍破はマジで放ったんだぞ? それを直撃してやられないって言ったらどんだけタフな化物だよ!?
口には出さないが多分顔に出てるんだろうな。シュラが俺の顔を見て面白そうに口に笑みを浮かべてる。
「さっきも思ったんだが二極精霊ってなんだよ? 大体“闇”なんて属性すら聞いたことないし──────」
「そりゃそうだろうな。なんたって元から“闇”なんて属性は存在してないんだから」
「は!?」
シュラは俺の驚く顔を見るとそのまま話し続けた。きちんと意識は向こうの闇の精霊に向けてな。
「闇の精霊ってのは本来は──────」
「っ!」
シュラの言葉を遮るように見えない何かが俺とシュラの間を通り抜けた。見えない何かは後ろに植えたえった木々に衝突し、木を何本かなぎ倒した。さっきの衝撃波だよな? マジでやれるのね。タフな奴。
「……ケケ、キサマノカオシッカリトオボエタ。ツギハコロス……ゴダイセイレイ、キサマラハイズレオレラノアルジガアイニクルソノトキヲタノシミニシテイロ」
闇の精霊は胸と背中に大きな穴が開いており、それを中心に螺旋に肉が抉られている。当然そこからは真っ黒な血が絶えず流れ出ている。それなのに闇の精霊は痛みを感じないようにやはり片言で喋っていた。
「どうせテメェらの主ってのはあいつの事だろ? だったら言っとけ。俺たち五大精霊の意思は変わらねぇ、ってな」
俺には分からないがシュラは明らかに相手が誰だかわかってる。そいつに向かって五大の意思を伝えた。闇の精霊もそれを聞くとケケケ、と気味の悪い声を上げて闇に溶けて行った。
残されたのは五大精霊とそれに守られた凛姉たちと俺。そして地面に残っている真っ黒な血だけだった。




