第二十六魔導 闇の精霊
夜の学園と言うのはやはり怖いものだな。明かりを付けずに星と月の光だけで進む廊下程怖いものは無い。いや、見様によっては自然だけの美しい景色なのかもな。
「さて、と。そろそろ離れてくれると歩きやすくなるんだが……無理だよな」
俺は答えが返ってくる前に答えが分かったので何とも言えない顔をする。現在、俺は菜月・智香・凛姉と一緒に夜の学園にいる。時刻は10時を回っており、当然他には誰もいない。
で、右腕には菜月が。左腕には智香が。背中には俺を盾にするようにしがみつく凛姉。どこも胸がね。まぁ、智香の場合はぺったん──────
「今失礼なこと思ったでしょ」
「……んなわけないじゃん」
ぺったん……もとい、貴重なステータスだが。
「たしか噂の幽霊が出るってのは」
「さ、三階の、お、音楽室」
場所の確認をしようとした俺の言葉は背中にしがみつく凛姉によって遮られた。そんなに怖いなら俺らだけで行けばよかったんじゃね?
なんて今さら遅いことを考えていると両腕にしがみついている二人がビクッと体を震わせた。
「どうした?」
「い、い、い、い、い」
「い?」
「今! そ、そ、そ、そこを何かが通り過ぎた」
動揺した二人の声に俺は前方を睨む。それでも見えるのは真っ暗な廊下。まるでこっから先は闇によって遮られているような。闇、と言えばあのシルエット男だが……あいつ今何してんだ?
五大を狙っている男が一瞬を頭をよぎったが三人のガシッと力強く掴むことによって目の前の要件に意識が戻った。
「んじゃ、見に行きますか」
「ふぇ!?」
「しゅ、柊羽」
「柊羽君!?」
皆さん、そんな可愛らしい声を出さないで。お願いだから。いくら万年やる気なし頑張る気なしの俺でも一般男子学生ですよ!? 下手すりゃ襲っちゃいますよ!?
「わ、分かった! 凛姉たちはここで待ってて。俺が一人で見に行くから」
「柊羽、私たちを見捨てるの?」
「智香……言い方ってものがあるだろ」
結局三人が見た、と言うものを四人で後を追うことにした。だが、先ほどと一つ違うことがあり、それは俺が解放された、と言うことだ。残りの三人は身を寄せ合いながら俺の後ろを付いてきている。
ほかの生徒が見たら鼻血だして失神ものだな。
心配なので後ろの三人に声を掛けようと後ろに振り向こうとした瞬間だった。目的の教室である音楽室を目の前にして“それ”が居た。
「「「──────っ!!!???」」」」
そんな言葉にならない三人を無視して俺は目の前の“それ”を見た。“それ”は廊下を覆っている夜闇より暗く、逆に分かりやすかった。“それ”は言ってみれば人間ではなく、化物と言った方があってるのかもな。
「……まさか幽霊じゃなくて化物が出てくるとはな」
そう漏らしながら化物を睨む。暗い、暗い化物は背中から羽が生えておりまるで悪魔の羽じゃないか? と思える。
「ミツケタ」
「見つけた?」
化物は小さくそう言って来た。だが後ろの三人は震えるだけでどうやら聞こえてないみたいだな。こうなったら俺一人でもやるか。あー、このごろ頑張らないで過ごせたのになぁ。
苦笑。そして俺は聞く。喋れたんだから返事が来るかもしれないだろ?
「一応聞いてみるがあんたは“幽霊”か? それとも“化物”か?」
「ケケケ。オレハ──────ヤミノセイレイ。コノガクエンニイル“ゴダイ”ヲサガシニキタ」
「っ!?」
「ケケ。オマエナニカシッテル……ハイテモラウ」
そう片言で喋った化物───もとい、闇の精霊は羽を大きく広げる。俺としてはそれどころじゃないんだがな。
「闇の精霊? こっちは何の事か分からないが五大を探してるって事は、あのシルエット男の仲間か!?」
だが俺の問いに答えることなく闇の精霊は廊下を低空飛行しながらこちらに突っ込んでくる。後ろにいる三人に避けろ、と言おうとしたがどうやら必要なかったな。
三人は各々に回避行動を起こしていた。もっとも若干ビビッてるけど。
「凛姉たちは魔導で援護よろしく!」
低空飛行で迫ってくる闇の精霊を避けて飛んで行った方に視線を向ける。
「わ、分かった! 柊羽君無理しないでね」
魔方陣を展開しながら心配してくれる凛姉に一瞬ほほ笑んでから旋回してくる闇の精霊に向かって走る。走りながら空中に魔方陣を描く。
「我、召喚図を描き、彼の者を召喚す」
完成した魔方陣から取り出した刀を振るう。刀は当然真剣である。戻ってくる闇の精霊に向かって振り抜くがそれをヒラリと避ける。
「さすがに空飛んでる奴には当たんないか。でもな」
「こっちはどうかしら?」
ヒュン、と風を斬る音に闇の精霊は翼で体を覆うようにして美緒の鎌鼬を弾く。しかしそれに続けて凛姉と智香の紅が合わさって闇の精霊を襲う。
ここが校舎内だってこと分かってるのかね?
「夏休みだってのに怒られるのは勘弁してほしいな」
紅が消えると同時に煙を上げている闇の精霊に向かて力いっぱい刀を横に一閃する。
が、パキンと逆に刀の刃が折れてしまった。
「マジ?」
「ケケケ……ソノテイドノマドウトエモノデオレニキズヲツケラレルト?」
俺らが驚いている間に守るために身体を覆っていた羽を再び広げ、何かを含むようにしてから口をガバッと広げる。口から放たれたのは予想したいた液体物のような物ではなく、衝撃波だった。
「うおっ!?」
「キャッ!」
衝撃波は俺の体を弾き飛ばした。そう───窓の外に。ここは廊下であり同時に三階。高さ的に落ちたらやばいって問題じゃない。慌てて空中で魔方陣を展開、詠唱。
「我、契約図を描き、此処に招来す──────翼足」
両足に備わった風によって空中で踏みとどまる。同時に俺と同じように校舎の外に弾き飛ばされた三人に向かって空を蹴る。俺が三人に詰め寄った時には凛姉と菜月は自分で翼足を纏い、体勢を整えていた。ただ一人、智香だけは別。あいつは風の精霊と契約してないんで落下する智香を空中で抱きとめる。
「「あ!」」
地面に落ちる前にキャッチした途端、凛姉と菜月が声を上げた。
「ん? どうした二人とも?」
そういってから俺は気づくのであった。偶然だが智香を抱きとめた体勢がいわゆる“お姫様抱っこ”だったことに。そしてまた偶然に智香と目があった。そして顔を真っ赤にして俺の顔めがけてグーパンが飛んできたのであった。
助けたのに殴られるってどーよ?




