番外魔導 最悪なバレンタイン?
時系列は柊羽がまだ進級する前。
バレンタイン⇒1話、的な?
そーいやチョコ食うのも久しぶりだな。
ふと、部屋の冷蔵庫の中にあった一口サイズの紙に包まれているのチョコを取り出し、顔の高さまで持ってくる。俺としては甘いものが嫌い、とかではない。むしろ大好き? かも知れない。
だがあの日は……あの日だけは好きに慣れないなぁ。
チョコをパクッと口に含みながら部屋に飾られているカレンダーを見る。と言ってもカレンダーの6月と書かれた月ではなく、俺はその下にある2月を見るように。
◆◇◆◇◆
2月14日。この日はある者たちにとってはかなり重要な日である。特に男子か? 俺には関係ないけどね。
ため息交じりの表情で俺は隣で現在進行形でチョコを貰っている2名の男子を見る。
「ありがとよ」
「すまないな」
一つ、また一つと増えていくチョコを落とさないように器用に持つ直登と剣呉。周りの奴からは殺意と諦め、羨望の眼差しが二人に突き刺さる。いや、突き刺さってるんだろうが……ガン無視だよな。自分の為にも。相手の為にも。
「柊羽は誰からも貰って無いの?」
後ろの席の美緒が直登と剣呉を見ながら聞いてくる。それも分かっていて聞いてくるのだろう。明らかにニヤニヤした表情だもんな。
「貰ってねーよ。てーか、俺にくれる奴が居たら見てみたいものだ」
自嘲気味に言ってみる。
まぁ、もらえるなら嬉しいが貰えない物を強請ってもな。
教室の天井を仰いでそんなことを思っているとポイッ、と擬音が聞こえた……たぶん。
それは大きく弧を描いてポトッと俺の膝の上に着地。俺は何事かと思い膝の上を見てみるとリボンでラッピングした箱。
「なにこれ?」
「あたしからのバレンタインだよ。ありがたく貰っておくんだね」
俺が美緒に向く前に美緒は席を立ち、教室から出て行ってしまった。
これは何か? 俺を憐れんで作ってきてくれた?
「それなら投げるなって」
苦笑。そして──────
「さんきゅ」
お礼の言葉を小さく言う俺だった。
その日の夜。
菜月もほんのりと頬を紅め、遠慮がちにラッピングした袋をくれた。中身は手作りのチョコクッキー。
美緒の時と同じく、お礼を言うのは……当たり前だよな。
これでバレンタインが終わると思ったが部屋にはこれまたラッピングされた小さな箱が置かれていた。箱の中にはカードが入っており、内容はこうだった。
『柊羽君へ
本当は直接渡すつもりだったけど家に帰っていたら時間が無くなっちゃた。そんなわけで失礼かもしれないけど部屋に置いておくね。
あ、智香ちゃんと一緒に作ったチョコだからしっかり味わってね。
凛より』
凛姉……どうやって部屋に入った? 浮かんできた疑問は極力考えないようにして、さっそく貰ったチョコを口に入れた。
「あまにが」
ビターな大人の味に子供の味覚である俺はうっかり零すのであった。
うん。ここまでなら充実した1日なんだが問題は次の日だ。どこから漏れたのか凛姉・菜月・美緒からチョコを貰ったことがバレ、その日1日中追い回される事となった。
◆◇◆◇◆
ちなみにこれが嫌な思い出の一つであることは言うまでも無かった。
あの日だけは好きに慣れないなぁ⇒バレンタインの次の日の事であった。




