第一六魔導 さぼりすぎ
凛視点です
柊羽君の試験が始まる前に私の試験が終わったから見に来たんだけど……大房 太一君って人の言葉に私はちょっと気分を害してしまった。この学園にあんな事を言う人がいるとは知らなかったから。謹慎処分を受けた生徒が居るって事は知ってたけど理由は知らなかったから。
でも、それ以上に嬉しいことがあった。私と智香ちゃんの為に柊羽君が怒ってくれたことが何より嬉しかった。だからと言って怪我だけはしてほしくない、そんなふうに思っていたが、柊羽君の本当の実力を見て安心してしまった。
五月に聞いた魔力値だけでも魔導の実力を再認識したのに今見せた何でも無い、動きで柊羽君の総合的実力が分かったから。隣りで同じように柊羽君の実力に驚く智香ちゃん。やはり実際に目にした方が分かる物もあるわね。
「……すごい」
斜め後ろにいた柊羽君のお友達の美緒ちゃんと菜月ちゃんはもはや別人の戦いを見ているように呟いている。二人とは試験場所が同じ第一グラウンドであったため一緒に来たのだ。
あっ、柊羽君が水魔導をつか───っ!?
柊羽君が今使おうとしている水魔導は下級魔導で誰でも撃てる様な物。それなのに私が驚いたのはそっちじゃない。魔導の威力の方に驚いた。
「姉さん」
「う、うん」
智香ちゃんも気づいたらしく柊羽君から目を離さないで言ってくる。智香ちゃんも気づいた通り今の水魔導───流蒼は決して魔力を多く込めた訳でもなく、普通に撃った様に私には……いや、私たちには見えた。それなのに流蒼の威力は普通を大きく超えていた。
それはつまり相手に悟らせる事無く多く魔力を注ぎ込んだか、上位の精霊と契約しているためか、その二択。
「あいつ……今まで頑張ら無すぎだろ」
それを考えていると少し離れた場所で知っている声が聞こえ、そちらに顔を向けると柊羽君の親友である直登君と剣呉君が鋭い眼差しを向けていた。
声を掛けようかと思ったけど、邪魔しちゃ悪いかな、と、私は再び柊羽君に視線を戻す。
大房 太一がハルバードを振り回している中、柊羽君は簡単に避けてみせる。そしてお腹に一撃。浮いた身体に側面からの蹴り。
『我、契約図を描き、此処に招来す───流蒼』
止めと言わんばかりの流蒼を大房 太一に放つ。その威力は先ほどと同じく普通を超える威力で結界の壁に叩きつける。こうして柊羽君の試験が終わったのだけど……
「さぼりすぎ」
うっかり、と言うか必然的に出てしまった。




