第一四魔導 俺が勝つ!
五月も終わり六月が今日から始まる。そう、今日から。故に俺たちは今第二グラウンドの周りにいる。
「さて、今日は月初めの実技テストだな。お前も少しは頑張れよ?」
何て事を隣で第二グラウンドを眺めながら直登が言って来た。
そう、今日は月に一回の実技テストの日である。
現に今も第二グラウンドでは二年と三年が魔導の応酬をしている。
ちなみに実技テストは総合的なものを見るため接近戦もあり。故に召喚魔導で武器を取り出すこともありだ。勝敗の付け方は相手が参った、と言うか気絶させる。審判として見ている教師が止めたときである。
何て事をおさらいしているうちに試合が終わった。二年の方が魔導で頑張っていたが接近されてノックアウト、である。終わった試合から隣の戦闘に目を向ける。
グラウンド内は授業の時と同じく透明の結界でいくつかに区切られている。だからあっちこっちで試合中である。
「二年B組の鋪原 直登。同じく、二年B組の鞘魏 剣呉、空いたグラウンドに入りなさい」
今さっき試験が終わった場所で教師が試験結果をメモし終えると持っていた拡声器を使って二人の名前を呼ぶ。それに反応するように殆どの生徒が響めきを上げた。それもそうだな。二年のトップクラスが戦うんだから。
「へっ! 負けても文句言うなよ剣呉」
「そんなことが言えるのは今だけだぞ……直登」
俺の両隣に居た二人は互いの顔を睨みながら言う。それも見えない火花を散らして。
結界内に入ると二人は一定の距離を開けて身体を軽く動かす。それを中央で見た教師は後ろに下がり、手を掲げ
「始め!!」
の合図で振り下ろした。
刹那、直登は右に、剣呉は左に弾け跳んだ。
「「我、契約図を描き、此処に招来す───」」
三秒と掛からずに二人は魔方陣を空中に描き───詠唱した。
「紅」
「雷現」
互いの魔方陣から放たれた雷撃と炎撃が中央で衝突すると、爆音とともに土煙が舞い二人の姿を隠した。
ここで少し二人の戦い方を思い出してみるか。
まず、直登の方だが魔力は6580と二学年で一番の魔力の保有者。契約精霊は確か……炎と風。契約精霊も同じ属性ってこともあって美緒と戦闘タイプが似ているな。
「へっ! 最初っから飛ばしていくぜ? 剣呉!」
俺があの時の美緒の事を思い出している間に直登の奴が土煙の中から跳び出してきた。それも普通じゃありえないほど速く。
「来い! 直登!!」
剣呉の方も右手で横に魔方陣を描き、完成すると魔方陣の中に右手をぶち込んだ。
さて、さっきの続きだが今度は剣呉の方のだな。あいつは五精霊の内、一番契約が難しい雷と契約している。
俺や直登達と違って剣呉は契約精霊は一体だけ。さらに俺たちと比べると遥かに魔力が低い。数値にして3240である。だが、二学年では俺の次に魔力が少ない。
それでも二学年トップクラスと呼ばれるのはあの接近に長けた戦闘能力があるためだ。
「創具───雷電」
魔方陣から引き抜いた右手には一本の刀が握られていた。雷を象るような鍔に、刃先に向かうにつれて紫から銀に代わっていく刀身。
あれが剣呉の持つ創具───雷電。
創具とは言ってみれば精神魔力と契約精霊で創った自分だけの武器である。その威力は通常の武器なぞ目ではなく、魔導師同士の戦闘では同じ実力なら創具を持っている方が勝つ、と言える。
今は簡単に言ったが創具はそう簡単に創れる物ではない。契約精霊とどれだけ心を通わせているか、創具を扱うだけの技量があるか、など例を挙げたらきりがない。
まぁ、俺に直登。それに菜月と美緒も創具は持っている。美緒が以前使った短剣も実は創具だったり。
「しかし……いきなり創具を出すとは剣呉も大マジだな。直登もだが」
剣呉に異常な速さで迫る直登に目を向ける。
直登はその速さを保ったまま空中で人差し指を踊らせる。その指はあっという間に魔方陣を描き終え、再び“紅”を放つ。
一直線で迫ってきた炎を雷電で一閃し、お返しとばかりに剣呉は“雷現”を放つ。地面を抉る雷を跳躍で避けると、空中で逆さになりながら跳躍した時に描いた召喚魔導で取り出した手裏剣を両手に指の隙間に挟み剣呉を狙って──────素早く投げ放った。
シュン、と幾つもの手裏剣が風を斬って剣呉に牙を剥くが、それを全て斬り払うと次は剣呉の方が走り出した。目指すは直登の落下地点。それは直登の方も気づいたようで真下に向かって魔方陣を描く。
「我、契約図を描き、此処に招来す───炎弾」
完成した魔方陣から真下に向かって放たれた無数の炎の玉は落下地点に向かって走っている剣呉の頭上から落ちてくる。ステップを刻みながら落ちてくる炎弾を避け、真上──────直線状に直登を入れ、頭上に左人差し指で描く。
「雷現っ! ───くっ!」
真下から迫ってくる雷を避けるため空中……それも逆さまの状態で直登は自分の両足に魔方陣が当たる所で描く。
「我、契約図を描き、此処に招来───翼足っ!」
完成した魔方陣が緑に光ると直登の両足も風を纏い、空を蹴る。まるで壁を蹴ったかのように直登はその場から右にジャンプし、雷を避けると足の光が消え、重力に引かれて地面に落ちていく。
「ちょこまかと動くな」
「てめぇだけには負けたくないんでな」
「流石は親友と言っておこう。俺も同じだ」
スタン、と綺麗に着地する直登とそれを待っていたかのように笑う剣呉。どーもこれで決着を付けるようだが……お前らそんなに負けず嫌いだっけ?
なんてことを悩んでいたら答えが聞こえてきた。
「てめぇに」
「おまえに」
「「勝って勝ち越す!!」」
言って、二人は地面を蹴った。どーやらこの前のトランプとチェスの勝負の勝敗についてらしい。たしか一勝一敗だったからな。
「我、召喚図を描き、彼の者を召喚す───」
走りながら描いた魔方陣に直登は右手を入れ、パリン、とガラスの様に砕けた魔方陣から出てきたのは指出しグローブを付けた直登の右手。
あれが直登の創具である。名前は……しらねぇ。ただ、能力は知っている。たしか──────って、それどころじゃないな。
俺は見逃さないように二人がぶつかるであろう結界内の中央を眺める。実際、ほかの生徒たちも見逃さないように目を大きく見開いている。まぁ、一部の女子は直登様、や、剣呉×直登……ぶっ、と鼻血を出す者もいるがな。
「俺が勝ったら」
「明日の昼飯を」
「「奢れ(ってもらう)!!」」
直登は指だしグローブを付けた右手を拳にし、剣呉は右手で持った雷電を左肩の上で構えて、いつでも振り下ろせるようにして直登に突撃する。
「──────てーか、そんなに金使いたくないなら食堂行けばいいじゃん」
と、勝負の賭け品を否定するような発言をしたことはここだけの秘密だ。
予想した通り結界内の中央で互いに射程圏に入る事を確認すると、直登は右ストレートを。剣呉は左肩から振り下ろす。
その結果は──────
「「……」」
「ふっ……残念だったな。直登」
剣呉の勝ちであった。右ストレートと雷電が交差する瞬間に剣呉は剣筋を変え、右ストレートに刃の腹を当て、直登の拳の軌道をずらし右ストレートを回避。そのまま刃の部分を直登の首筋に当てる。
この動作が全て見えた生徒はどれくらいいるのか気になるな。
俺は周りを見ながらそんなことを思い、二人に視線を戻す。その時にはすでに直登がしゃがみ込んで頭を抱えていたが。




