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そして純血が足りていない場合でも能力を解放するのは禁じられているというのもある。今の雪刃の状態が回復するには治癒力の所為でもあと1日くらいはかかるだろう。
「雪刃、寝てろ」
「ちょっとっ、なんでよ!?いきなり寝てろだなんて!!」
「お前が今の状態だと足手まといになる。それなら行くのは俺だけでいい。」
「でも…っ」
「いいから!」
俺はこのとき初めて雪刃に怒鳴ったと思う。今まで一緒にいて怒鳴ると言うことをしなかった。彼女を壊してしまうんじゃないかと怖くて言えなかった自分がいたから。けれど違った。長く月日が流れるにつれ、何を言っても大丈夫だという信頼が出てきたのだ。
「俺はっ…お前に倒れてほしくない!そこまで無理をして国を守られても嬉しくないんだよ!」
「……っ」
「……治癒力が高いからお前の身体はすぐ治るだろうが、治っても無茶はするな。それじゃ」
俺はそれだけ言い残すと窓から飛び去った。
悠兎が飛び去ってから、あたしは突っ立ったまま涙を流した。自分を本当に大事にしてくれる人がずっと傍に居たんだと思うと胸に染みた。愛おしくて時折切なくなるけれど悠兎に会ってあたしは変わったと思う。今までにない感情を抱くことも会わなかったらきっとこんな感情は生まれなかっただろう。
「悠兎…無事に帰ってきて」
そんな言葉が無意識のうちに出て、呟いていた。