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使用人が出て行ったあと再び部屋が静かになった。聞こえるのは雪刃の規則正しい寝息だけだ。
「雪刃…ごめんな…颯真を殺せなかった。あいつを殺すことでこの国を守れたかもしれないのに…俺は」
そう言った瞬間、頭になにかが触れた。目線を上にあげると雪刃の手だった。一体いつの間に起きたのだろうか。
「悠兎、そんなに自分を責めないで。あなたはあたしを助けてくれた。支えてる。颯真を倒す為の能力はちゃんと宿っているはずよ…」
手を握って、ね?と言う雪刃に俺はそれ以上何も言えなかった。今回の颯真を逃がした過ちはそうするしかない故にしてしまったこと。それを今更悔いていても国が救えるという保証はない。
「…悠兎」
「んー?」
雪刃は手を伸ばして俺の頬にそっと触れた。目は潤んでいて今にも泣きそうになっている。口には出さないが、国の姫としての自分を叱責しているのだろう。
「颯真たちのこと、追いかけて?悠兎だけでもなにか掴んできて…」
「…そんなこと出来ねぇ。雪刃、俺はお前と一緒にあいつを倒しに行きたいんだよ…そうじゃなきゃ、約束が意味ない」
「…約束…」
「言ったろ?二人で倒すって」
「…そうだったね…悠兎」
雪刃はふわっと微笑むと俺を抱き寄せる。抱きしめようとして彼女が震えていることに気づいた。
雪刃も怖い。俺と雪刃自身の能力を映して(コピー)して手に入れた颯真はその能力を変換し、国を再生させようとしている。颯真たち魔血鬼の一族は元々、国を持っていたものの、魅血鬼の出現によって国を無くしてしまった。結果的に滅びの一途を辿って今に至る。魔血鬼一族は魅血鬼を同等だが異様な存在と捉え、憎んでいても可笑しくはないのだ。
「……能力を解放する」
「雪刃!!」
「いいの、悠兎。颯真に勝つ為だから。…もし、万が一あたしが消えても悠兎にはこの国を継いでもらいたい」
雪刃は愛用の蒼剣にそっと触れると愛しそうに目を細めた。