スリザリン寮のごはんを作ってます
※二次創作ではありません!選民主義学校という意味でもありません。
ハリポタの名称をお借りしています。
わかる人にはわかってしまうので、伏せ字としてのハリポタ用語で書いております。
私の新しい職場は、スリザリン寮の厨房である。
単線ホグワーツ路線沿いのハロワで、始めに2度行った求人情報では発見できなかったのが、その日は受付の人が違った。
「初めてのご利用ですか?」
いや、3回目なのだが、なにぶん前時代から間が開きすぎて、来るたび順路で迷っていたのだ。
その人にもらったパスで職業検索すると……私の目に飛び込んできた。
『ホグワーツ高校・スリザリン男子寮の厨房』業務:調理。募集人数:1人。
ふむ。今、何人の寮生がいるのかは知らないが、寮のごはんをひとりで作る?
大鍋や鉄の大釜など、厨房はわりと体力勝負なところがある。つまり、ひとりでもできる道具が揃っているということか。いったいどんな魔法道具が使われているのだろうか。
前の職場で幾度となく冤罪をかけてくるマウント人間に、身も心も疲れていた私は、この好条件に飛びついた。
誰とも関わらずに大好きな料理の仕事ができる。パラダイスである。
このホグワーツ高校は、魔法界の人気球技・クィディッチの名門校である。
中でもスリザリン寮は、米国で初のプロのクィディッチ選手になった彼も出身者であり、わざわざ遠方の国から留学している生徒も多い。
8月中旬、私は厨房を預かるアップル・タンブリングさんに業務の説明を受けた。
スリザリン寮は現在25人、全員がクィディッチ選手である。食堂には長いテーブルが2列並んでいる。席は自由で、散らかってはいないが、片付いてもいない。魔法薬プロ・テインの袋が無造作に置かれていた。
アップルさんは、ハグリッドが少し縮んだような、一般的なマグルにしては大きな男性だ。デニムのエプロンをしていて、とにかく腰が低い。
「若い子たちだからね、食事風景はなかなかエキサイティングですよ」
8月は夏休みだったこともあり、数回の練習のあと、9月から本格的に単独で調理業務に入った。
ひと月のメニューをもらう。豚肉と鶏肉が多い。というかメニューが渋い。まるで病院食のようだ。
メインの肉料理と、副菜は、もやしとちくわの胡麻和え、厚揚げの甘辛煮、白菜のおかか和え、もやしとウインナー炒め……。それにサラダ、味噌汁が毎回である。
高校のクィディッチ選手が喜んで食べるとは正直、思えない。
幸い、というか、私は調理経験を買われて雇われたので、「メニューにとらわれず好きに作っていい」というお墨付きをアップルさんから頂いている。なので、アレンジを加える。
味噌汁は春雨スープやポトフに。醤油味のものをバター醤油や中華風に。甘辛煮をマーボーに。照り焼きには焼き目をつけるだけで美味しく見える。
ちなみに調理道具はアナログだった。食洗機と炊飯器3つを同時に使うとブレーカーが落ちる。わりと困っている。
そのアレンジを始めてから、アップルさんに教わった量だけでは足りなくなった。
「これくらい作れば余るよ」と言われていたのが、それ以上作っても余らない。全く足りない。
ある日、寮長のマルフォイ君と話す機会があったので訊いてみた。
「いつも足りなくしちゃってすみません。ちゃんと食べれてます?」
「…………フン、美味いからだ」
ぶっきらぼうに教えてくれた。
どうやら、美味しいので今まで食べてた量より全員が多く盛ってしまうらしい。
喜ばしいが、さすがスリザリン。あとの人のことなど考えていないのだ。少しは加減してほしいものである。嬉しいが。
寮監のスネイプ先生は、
「先ほど、ミーティングしたばかりだと思うが? 諸君らは野菜が足りん。野菜を食べたまえ」
と説教してるわりには、生徒にナメた態度をとられている。バターコーンをめっちゃおかわりしていった。
他に5人ほど寮監がいる。気配のない人もいる。きっと額に入ったり幽霊だったりなんだろう。
クィディッチ選手とはいえ、始終クィディッチのことばかり考えてるわけではない。
エキサイティングとはよく言ったもので、試合でスニッチを奪うごとく、とにかく食事中でもリアクションが大きい。
高校生らしく、他寮の女の子の話も活発である。どうやらレイブンクロー寮に彼女がいる子がいるらしい。
食堂のTVでプロクィディッチの試合を観ていた子は4人ほどだったが、全員がエキサイトして観ていたのは鳥人間コンテストであった。
BL知識もそれなりにあるらしい。いったいどこで仕入れたのか。
風呂上がりにストレッチしていて、キツい体勢に変な声が出るとすかさず「ゲイ声!」と反応している。
「ホグワーツってゲイ多いよな」
「お前とかな」
という会話を聴いたが、真偽は定かでない。
寝そべってゲームしてる子に、かまってほしくて十字に覆い被さる子がいたが、それを見てしまった子が「今のクサかったー!!」(おそらくゲイくさいの意)と絶叫していたが、真偽は定かではないのである。
ちなみにパンイチでうろつくのは日常茶飯時なので、もはや見慣れた。
一度だけパンなしタオルだけ巻いて尻を見せてうろついてた子がいたが、スルーしてしまった。ツッコミ入れた方がよかったのか、未だに悩んでいる。
そんな彼らだが、3年生の最後のクィディッチの試合が今月下旬にある。
私が厨房に入ったのは、夏の大会が終わったあとだったので、試合に勝った負けたのあとに食べてはもらえていない。
今月の試合のあとは、勝っても負けても私がごはんを作って待っている。
かつて覇者と呼ばれ、名前を言えない先輩たちを追う彼らを、ごはんで応援できるのは、大変幸せなのである。




