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無能軍人令嬢アリシアの話

作者: 山田 勝
掲載日:2026/09/05

「殿下、大攻勢の機会ですわ。是非、陣頭に出て指揮を執って下さいませ」


 私は殿下に上奏する。作戦計画書をうやうやしく渡す。

 義妹のデイジーを横に殿下は書類を見ているわね。



「何だ。この書類は!書式にあっていないではないか?それに時期ではない!守りを固めろ!」


 バンと書類を突き返された。

 私は困ったそぶりを見せてそのまま退室した。


「殿下ぁ、本当にお義姉様は無能ですわね」

「本当だ。子供に作らせた方がまだマシなレベルだ」


 背中から聞こえるわ。


 そのまま将軍たちの元に行く。

 却下の伝達をするわ。



「攻勢計画は却下されましたわ」


「な、何だと!今が好機なのに!」

「フォルク公爵令嬢!本当に正しく殿下にお伝えしましたか?」


 黙って微笑みで返した。



(全く、無能だ)



 そんな声が聞こえるわ。



 私は23歳で少将の地位にある。結婚適齢期ギリギリだが王太子殿下の婚約者のままだわ。

 何故か私は貴族学園卒業後、軍学校の幹部過程に入学を命じられた。


 王国では王に統帥権があり。王太子のゲオハルト殿下が軍事を学ぶはずであるが、国外留学に行きやがって将来の王族である私が学べば良いだろうとのことだ。

 陛下は離宮で愛妾たちと遊んでいるわ。殿下が宰相を兼ねている。



 謂わば、私の地位は王族の七光りどころではない、百光か?

 将軍達から小娘少将と渾名されている。まあいいわ。



 私はそのまま参謀本部に向かう。大佐級がいる部屋だ。



「アリシア様、攻勢作戦は中止に?」

「ええそうよ。殿下は私の言う事は全て反対しますの」

「良かった。なら、プラン1?」

「ええ、でも守りが一番難しいのよね・・」


 戦線を維持するために模索する。敵は能動的に攻撃をしかけられるがこちらは受動的に敵の出方を予想するしかない。



「騎兵部隊を基幹とした遊軍が必要ね。一番、死傷者がでるわ・・・」

「その栄誉はこのオルトにお任せ下さい」

「細部、任せるわ」



 このダキハ王国は小国、ザルツ帝国の侵略に悩まされている。

 敵は一方面軍に10万を出せる。我が王国は全力で3万・・・

 大軍は踏破不可能と思われた山脈を越えてやってきた。


大軍が通れる道を作ったのだろうと推察される。


 将軍が7人もいるが国情に見合っていないわね。大将軍の役職まであるわ。

 大佐級で軍が動いていると言っても過言ではない。



「あの、アリシア様、相談がございます。野戦病院建設の許可が中々おりません」

「あら、どうして?」

「将軍から書式があっていないから却下とされています・・言いにくいのですが、私達がアリシア様と親しいからだと推察します」



「そう・・・嫉妬かしらね。老人なのに」


 野戦病院は緊急案件ね。


「なら、作っちゃいなさい。細部は任せるわ」

「よろしいのですか?」

「ええ、策はあります」



 公爵家のメイドを呼び。野戦病院計画書を渡した。


「いい?病院よ。お義母様にデイジーから上奏するように言って手柄になるって」

「よろしいのですか?」


「ええ、ケリー、貴方も優遇されるわよ」

「ご冗談を、私はアリシアお嬢様派ですよ」

「なら、なおのことやってお願いだわ」



 後出しで許可をもらった。



「さすが、慈愛の令嬢デイジーだ」

「フフフフフフ、お義姉様はそこまで気が回りませんわ」



 フウ、これで良かったが心が痛む。だが、王宮の貴公子たちが騒いでいた。


「殿下!私達も戦場に行かせて下さい」

「そうです。大国ザルツを3年間押しとどめているのです」

「そうか・・・そろそろか・・」




 王宮では嫌な空気が蔓延している。


 そして、遂に将軍の麾下の部隊が手柄を立てた。


「王太子殿下!ザルツの軍旗を奪取しました」


 軍旗を取られることは著しく不名誉な行為だ・・・

 これは、偽旗?もしかして、将軍が偽造した?

 旗を見ると偽物だわ。微妙にデザインが違う。


「敵は退却しています。国へ帰るようです」

「アルファ山脈まで交代しています。殿しんがりが1万残っています」



 ・・・これは敵の偽装退却かもしれない。私が何を言っても無駄であろう。


「ようし!大攻勢だ!ザルツ帝国の帝都攻略も夢ではない」


 夢だわ。



 無茶苦茶な計画案が出された。

 補給無しで帝国の都市を一つ攻略してそこで物資を奪えか・・。



 殿下とデイジーも前線に出た。


 殿の軍は王太子の旗を見たら簡単に後退したわ。

 そのまま殿下は攻勢に出ると思ったけども。



 殿下達は贅沢三昧に暮らす。小都市に留まった。ここで指揮を執るらしいわ。

 一番良いホテルを貸し切り。そこを本営とした。


 遠征軍が編成された。

 総勢1万の大攻勢だ。


 だから、私は遠征軍の指揮官を希望したわ。簡単に承認された。

 なぜなら将軍達は前線に出るのを拒んだからだ。

 私の前でもあからさまに不満を漏らす。



「チィ、小賢しい。手柄を独占する気か?」


「なら、将軍閣下、前線に出て下さいませ。もっとも前線には娼婦もいません。高級ワインもございませんけど」


「な、何を言う・・やはり王太子殿下の婚約者として焦っておられるのか・・デイジー嬢に取られそうだからな」



 嫌みで返してうやむやにされたわ。愚痴は言うものではないわね。



 私に側近としてついて来てくれたのは、戦闘メイドのベッキーだ。彼女は軍学校の幹部だ。


 王太子は私を軍学校に行かせるために婦人幹部過程を設けた。

 ここでの同期だわ。8人、令嬢が入った。いずれも飾りと思われていた。

 王太子はどうしても自分は行きたくなかったようね。



「グスン、アリシア様、懐かしいのです」

「私もよ」


 抱擁した。


 ベッキーは少尉待遇だ。私の副官にした。


「グスン、グスン、同期の皆様、ミリア様、ソシリア様からワインを頂きました。その他、賄賂になりそうな物を頂きました」


「ベッキー、賄賂ではないわ。使者をねぎらうのよ」


 行軍が始まって一日目で千人を分離した。



「ここに集結地を作りなさい。補給は受けられるわね」

「そ、そんな。私はアリシア様とともに行きたいです」


 残すのは信頼できる将校だ。


 兵に命令を下してもどれだけ指示が徹底されるかは分からない。

 使者は王太子殿下の命令書を持ってくる。

 ワインを飲ませて1日でも命令書を持ってくるのを遅らせる。


 王太子殿下の命令書、どうせ碌な物ではない。


 更に二日目、また千人を分離した。


「ここで補給隊の中継をしなさい」

「はい!」





 橋も壊されていない。道もそのままだ。

 舐められているわね。


 行軍は苛烈を極めた。

 泥まみれで湯浴みも出来ない。こんな臭い女に兵士は女を感じない。生理の処理に苦労する。



「アリシア少将閣下、更に兵を置いておくのですか?」

「ええ、補給が必要だわ。使者が来たら丁重にもてなすのよ。そのためのワインよ」

「はい!」


 信頼できる将校がいなくなり。


 遂に千人、大隊規模になった。


 これで良い。これで山脈を渡ってザルツ領土に攻め込む。


 残ったのは老兵ばかりだ。


「ゴホン、まあ、ワシらは死ぬのが仕事ですな」

「ええ、申訳ありませんわ。山脈で敵の待ち伏せにあい軍団は壊滅、ベッキーは使者で殿下に全滅と伝ええるのよ。向かいなさい」

「グスン、私も行くのです・・・」



 その時、兵の歓喜の声が聞こえた。



「アリシア少将閣下、敵が残していった物資があります」

「干し肉にワインに・・・あれ、ドレスまであります?」


 ドレス、嫌な予感がする。



 立派な天幕の一つに、ドレスや宝石が置いてある。


「あれ、手紙があります・・・これは司令官殿宛てです!」


 手紙を見た。


 私宛のラブレターのようだった。


 >ダキハの魔女殿へ。それを着て国へ戻って欲しい。君に戦場は似合わない。

 ザルツ帝国ダキハ方面軍アルバート・フレンチ


 魔女?私の二つ名?

 捕捉されていた。いつから・・指示を下す。


【命令!ここの物資に手をつけずに戦闘体制をとれ!】


 もう、既に囲まれている。


 だが、敵はいない。


「アリシア様、兵が飢えております。干し肉を食べた者がおりますぞ!」

「そう・・・」

「無事です。毒は仕込まれておりません・・・」



 私も食べたが、毒はない。敵はご丁寧に物資を置いていく。まるで私達のために?

 それよりも、こんな地にこれだけの物資を持ってくる国力の差を思い知る。

 やはり山脈に街道を作ったのね。



「アリシア様、使者が来ました。我が軍です」


 えっ、使者の到達まで20日はかかると予想したけども行軍10日目で来た事になるわ。

 将校達が機能してなかったのかしら・・・



「アリシア少将閣下、王太子殿下より帰還命令です!」



 私は半信半疑で軍を帰した。食料は沢山ある。

 途中に置いておいた兵は既にいなかった。

 撤収命令が出たようだ。



 作戦司令部の小都市に戻ったら、すでにザルツの軍旗がはためいていた。

 やられた。全く気がつかなかった。

 大軍を大回りで回して、殿下達を捕まえたそうだ。


 赤毛の司令官に出むかえられた。


「やあ、ダキハの魔女殿、全く以てけしからん。これで大ザルツ主義が10年遅れたと皇帝陛下はカンカンだ」


「責任は全て・・・私にございます」


 こいつがアルバートか・・・


 大ザルツ主義、同じ言語、文化圏の民でまとまる政策だわ。


 私のせいとされたのは。

 とっくに王宮にカゲが潜り込んでいたようね。

 王太子殿下達は降伏。



「陛下は大変怒っていらっしゃる。だから・・・ゴホン」


「罰は謹んで受けますわ」


 辱めを受けてから、恥辱刑を受けるのだろう。敗戦国の女は悲惨だ。更に女将軍など良い見世物になる。



「ゴホン・・・だから、我の妻になれ!」


「はい、兵達には・・・はい?」



 私は戦利品妻になった。

 ダキハは公国になり。アルバートは公爵になったわ。


「あの元王太子殿下達は・・・」

「ああ、帝都に連れて行くと言ったら大喜びだ。帝都で平民に落される詔が出されるだろう・・ところで君の母と妹もついていったが良かったのか?」


「いえ、あれは義母と義妹です。父は亡くなりました」

「そうか、義父上殿のお墓に参りたい」

「ええ・・・」


 苛烈な占領は免れた。



 この男・・・


「おお、フルートを演練されていたのか?何歳からか?」


「はい、6歳の頃からです。元々、フォルク公爵家は音楽を愛する家門です。しかし、王太子の婚約者に指定されてからは、まるで楽士のようだから辞めよと王命まで下りました。それから隠れて練習をしておりました・・・」



「ほお、なら10年に以上訓練をしていたのか?帝都から教師を呼ぼう」



 古風だが、違う視線から男女の関係を見る。

 これが幸せなのか分からない。

 しかし、これで軍人は終わった。あれほど嫌だったが寂しい気持もある。

少し安らぎを感じている自分もいる。この感情が分からない。


 もしかして、これが幸せなのかもしれない。




最後までお読み頂き有難うございました。

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