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黒猫は宿敵と出会う

「いたぞ!怪盗シルバーだー!!」

 いつもの様に、怪盗シルバーと警察たちのやりとりが繰り広げられていた。

「一ヶ月で、三軒もの宝石を盗まれてしまうとは…!」

 轟警部の横に、一条が歩いてくる。

「申し訳ありません。彼の居場所を、特定できているのに…。」

「いえ、あなたのせいではありませんよ。あなたのおかげで、ヤツを追い詰めはじめているのですから!」

 轟の言う通りだった。怪盗シルバーは、いつもの手口や居場所など予想されてしまっていて、毎回何度も出現場所や得物の盗み方を模索しなくてはいけなかった。一条探偵の推理は、確実なものだった。

ボックスカーに入り、月夜は汗だくになっている。ドアが閉まると同時に、フューがアクセルをふかす。

「おい、大丈夫か月夜!?」

 月夜は、装備を外しながら、高笑いしている。

「いやぁ〜、怖い怖い!先回りされてて、冷や汗かくぜぇ!」

 息が上がっているわりに、いつになく楽しんでいる月夜を見て、フューがため息を吐く。

「あの探偵さん、マジで強敵じゃねぇの?よく、そんな余裕だなぁ。」

「余裕なわけないだろ?めっちゃ焦ってるってぇ〜の!甘く見れないねぇ、名探偵さんは。」

 言っている割に、月夜は満面の笑みを浮かべていた。

「まったく、困った奴だなぁ。いつか、足元すくわれるぞ?」

 フューは、月夜に忠告した。

 いつもの花屋で、李が微笑んでいた。

「最近、調子が良いみたいじゃない。おじさまも、喜んでいるんじゃない?」

「いつもと変わらないよ。それより、青い薔薇をくれよ!」

 その言葉に、李は驚く。

「今回も、青い薔薇にするの!?たまには、赤い薔薇でも…。」

「いんや。青い薔薇が良い!」

「…そう、分かったわ。」

 李は、気乗りせずに青い封筒を手渡した。

「今回は、十夜が失敗した依頼よ。気は抜かないでね!」

「…ブラックエンド?」

 月夜は、黒いダイアモンドが散らばっているネックレスの写真を見る。

「これが、十夜が最後にやり残した依頼よ。それだけ、難易度が高いと思ってちょうだい!」

「…成る程ね。なら、尚更成功させてやるさ!」

 月夜は、手紙をヒラヒラさせて店を出て行った。

 フューたちに見せると、暗い顔をしていた。

「ブラックエンド…。佐久間彰彦(さくまあきひこ)か。因縁の相手だな。」

「どんな相手なんだ?」

「とんでもない資産家だが、AIにとても力を入れているプログラマーだ。世紀の異端児なんて言われているほどの変わり者って言われている。十夜は、佐久間に雇われたハンターに命を奪われた。だから、油断ならない男だ!」

 細長い顔をした、そばかすだらけの男を見て、月夜は眉を細める。

『こいつのせいで、兄さんが…!』

 宿敵とも言える男に、月夜は挑もうとしていた。

「十夜の時の件もある。すまないが、1日だけ時間をくれ。辺りをリサーチしてみる!」

 フューが、珍しく慎重になる。

「構わないよ。俺も、準備しておく!」

「僕ちんも、装備を強化しておく〜!」

 ジェリーが、ブーツを持って言う。

「おう。頼んだぜ、ジェリー!」

「任せとけぃ!」

 月夜は、探偵事務所に戻る事にした。

            ※

 事務所に行くと、一条が古い新聞記事を見ていた。

「一条さん。なんなんですか、その古びた記事?」

「これは、怪盗シルバーが活動しなくなった時の事件だよ。明日で、調子十年目になる。また、彼がこのブラックエンドを狙ってくる気がしてねぇ。久々に、この記事を読んでいたんだ。」

「へぇ~、そうなんですね。」

『なんという、ジャストタイミングなんだ!』

 一条は、外を見る。

「今でも覚えているよ。怪盗シルバーが、銃撃を受けてバランスを崩し、屋根から落ちていくところを…。」

 一条は、拳を握り締める。

「あの男、姿を(くら)ましているが、まだ佐久間に雇われているだろうか…。」

「あの男っていうのは、一体誰なんです?」

谷田正俊(たにだまさとし)だ。ヤツも、十年前から行方不明になっている。」

 一条は、写真を見せた。

「谷田…正俊。」

『こいつが、兄さんを…!』

 月夜は、心を燃やした。(かたき)である男の顔をしっかりと覚えた。


 一晩経ち、その時は来た。月夜は、装備をして準備を整える。フューたちは、一日をかけてドローンで周囲を偵察スキャンしていた。

「おかしな事に、この屋敷のからは熱反応が無かった。どうも、周りを取り囲んでいる見張りは、アンドロイド。AIで動いているロボットだ。」

「なるほどね。なら、逆に楽なんじゃねえ?あの機械を使って透明になれば、姿が見えないだろ。」

「その事を祈るが、相手はAIだ。姿が見えなくても、熱反応でバレたら意味がない。」

 問題は、そこにあった。ジェリーの作った機械は、とても優秀だが、熱反応まで隠すことは出来ない。

「AIは、熱に反応して襲ってくるんだろ?じゃあ、警察の連中はあの屋敷に近づけないじゃないか。それだけでも利点だろ?」

 月夜の意見に、フューはため息をつく。

「その分、奴らの包囲網がでかくなったんだよ!メリットどころか、デメリットしかないじゃんかよ!」

「あ…、確かに。」

 月夜は、頰をかく。

「だから、俺らのサポートも、いつもより遠くなる。いいか、絶対に気を抜くなよ!十夜は、ここでやられたんだからな!」

「分かってるよ!そのために、ジェリーが装備を強化しておいてくれたんだろ?」

「まあね。でも、あくまで身体の部分の強化だよ?あまり、無理はしないでね。」

 ジェリーは、心配そうに言う。

「相手は、アンドロイドだ。パワーブーツとグローブがあれば、破壊できる!まあ、人間相手じゃないから、手加減しないで済むから、その分気が楽だよ。」

 月夜は、怪盗モードに入った。

「じゃあ、いつもの様にお宝をちょうだいしてくる!」

 月夜は、外に飛び出して行った。


 フューの読み通り、警察たちは遠巻きに配置していた。一条も、もちろん同行している。

「もうそろそろ、来る時間ですね。」

 一条が、腕時計を見る。

「皆、大勢を整えておけ!」

 轟が、伝言する。すると、屋敷を取り囲んでいたアンドロイドたちが、急に騒がしくなる。周りに、姿はないが、どうやら怪盗シルバーが来たようだ。

「侵入者発見!侵入者発見!直ちに、攻撃を開始する!」

 屋敷の外に構えていたアンドロイドAIのロボットたちが、一斉に姿見えない場所に発砲する。だが、次々となぎ倒されていく。意外にも、怪盗シルバーは、なんなく屋敷の中に入っていった。

「警部、突入しますか?」

 部下の一人が言う。

「いや、待て。十年前も、怪盗シルバーは、こうやって屋敷内から出てきて、遠くから発砲された。この近辺には、狙撃手がいる可能性が高い!その時を、狙う!」

 数分後。怪盗シルバーは、手にブラックエンドを持って出てきた。轟たちは、どこからか狙っている狙撃手の存在を確かめつつ、様子を伺う。すると、怪盗シルバーが屋根に登ったと同時に、やはり銃撃してきた。怪盗シルバーは、それに反応して、身をかがめる。どうやら、狙撃手の存在を分かっていたようだ。

 そして、素早く屋根から降りようとする。だが、狙撃手の腕は確かで、間髪入れずに撃ってくる。それに、怪盗シルバーは避けていく。

『しつこい奴だな!』

 そこへ、フューたちがドローンを用意してくれていた。ジェリー特製、狙撃マシーンだ。ドローンは、弾丸が撃たれていく方へ発砲する。

「ありがたいな!」

 シルバーは、一気に屋根を駆け抜けて、茂みの方へ姿を隠そうとした。だが、ジェリーお手製のドローンは、あっけなく撃破されてしまい、シルバーの持っていたブラックエンド目掛けて撃たれる。その反動に、思わず手を放す。

「しまっ…!」

 そう思った時には、一つの弾丸がシルバーに当たり、その威力で吹き飛ばされて谷底へ落ちていった。

「シルバー!!」

 あの十年前の光景を思い出して、一条は身を乗り出していた。また、あの時の悪夢が再来してしまったのだ。

「ヤツを探せ!今度こそ、行方を見つけるのだ!」

警察たちは、シルバーが落ちていった方へ近づいて行った。一条も、後に続く。だが、まったく気配が感じられなかった。まるで、今の光景が幻ではなかったのかと思えるぐらいに、人の気配は無く、谷底には大きな黒い空間があるだけだった。

「シルバー!!」

 一条は、黒い空間の中へ大声で叫ぶ。ああ、また居なくなってしまうのかと、胸を押さえつけた。

           ※

 谷田正俊(たにだまさとし)の行方も、分からなくなっていた。あんなに近くにいたのに、警察が場所を特定した時には、一つの狙撃用の拳銃一丁と、何発かの弾劾が落ちていた。

「谷田の行動は、違法に当たる!ここは、外国ではない。日本だ!人を殺して良い理由にはならない。」

 一条は、轟に訴えた。

「そうですな。谷田の捜索もしましょう。」

 轟は、二手に分かれさせて探しはじめた。

「もう、十年前の過ちを犯しさせはしない…!」

 一条は、捜索隊と共にシルバーの行方を探した。



 目が覚めると、そこはあの嫌な部屋の天井だった。

「案外、運の良い奴だなお前は。」

 顔を覗き込んで、宇佐美が笑っている。月夜は、起きようとするが、右肩に鋭い痛みが走り顔を歪める。

「十夜は、命を落としたが、お前はまだ生きのびている。助け出してくれたチームに感謝するんだな。」

「…クソッ!」

 月夜は、ブラックエンドが手から撃ち落とされた感触を思い出して、拳を握り締める。

「全治、二ヶ月ほどだそうだ。玉が貫通していたのが良かったらしい。次の仕事まで、一ヶ月で治せ。ああ、それから、一条とか言う探偵のところには、二度と行くな。」

「え…?」

 突然、一条の名前を出されて目を見開く。

「お前、あの男に惚れているだろう?わざと手柄をたてさせて、親切心のつもりか。もともと、探偵と怪盗が結ばれることなどないのは分かっているだろ。淡い期待を持たせてやるなよ。」

 宇佐美は、ククッと笑いながら部屋を出て行った。

『あのジジイ、どこまで知っていやがる!?』

 宇佐美の言ったことは絶対だ。だが、一条のいる探偵事務所に行くなと言われて、悔しくなる。結局のところ、宇佐美の手のひらの上で踊らされているようで、生きた心地がしなかった。

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