表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

黒猫は探偵に恋をする

 風の吹く真夜中。黒いコートとサングラス。黒いかぶり物をした青年が、ビルの上に立っていた。

「守備は?」

 イヤホンから、男の声がする。

「上々!」

 黒ずくめの青年が答える。

「初めての任務だ。あまり、張り切りすぎるなよ。」

「わかってるよ!それじゃ、行くぞ…!」

 黒ずくめの青年は、身体を投げ出して、ビルから落ちていった。

 パリンッという音と共に、宝石展の部屋の窓ガラスが割れる。

「来たぞー!!」

「怪盗シルバーだ!!」

 待ち構えていた警官たちが、一斉に声をあげて目に見えぬ黒い影を追う。

「クソッ!電灯が消えて、何も見えない!!」

「奴は、どこだ!?」

 途端に、ライトがつき辺りが見えるようになる。すると、守っていたはずの宝石は、姿を消していた。

「おのれ〜!!」

 それを見た警部が、怒りに顔を赤くする。辺りには、黒ずくめの青年の声が響き渡っている。宝石の代わりに、一つの書き置きが置いてあった。

"人魚の(なみだ)たしかにちょうだいいたしました。怪盗シルバー"

この時代に、新たな怪盗が姿を現した。

 昨夜の事件が、大々的に記事になっていた。それを、今時新聞で見ている煙草をふかした探偵の男が一人いた。髭は生えっぱなし、髪も後にしばっていて伸びっぱなし。そして、曇った眼鏡をしている。外にいたら、ホームレスと変わらない。

「怪盗シルバー 十年振りに現れた、か。また、久しぶりに聞くなぁ。」

 ゴミと灰だらけの探偵事務所には、唯一の助手がいて、時々生きているのかを見に来るのだが、今週は三日振りに来た。古ぼったい事務所の外階段を一人の青年が駆け上がって来ると、中の部屋が少なからず振動を響かせた。

「…来たか。」

 すると、事務所の扉がバタリと開く。

「一条さぁ〜ん。生きてますか?」

 一条と呼ばれた探偵は、手を上げる。

「やあ、月夜くん。今週は、早かったね。」

 月夜と呼ばれた青年は、ゴミの森と化している事務所を見て、ゴホゴホと口を押さえる。

「ちょっ…!たったの三日だけで、どうしたらこうなるんですかぁ!?勘弁してくださいよぉ!」

 月夜は、いつもの様にゴミ袋にゴミを放り込み、事務所の窓を開ける。

「知ってるかい、この記事?」

「んあ?なん、でしたっけ。例の、あれですよね?ネットニュースで炎上してますよ。」

 月夜は、マスクをしていつもの様に片付けを始める。

「実は、何あろうこの私も、この怪盗さんとご対面したことがあるんだよ。」

 一条は、煙草を吸いながら笑って見せる。月夜は、呆れてハタキを叩く手を一瞬止める。

「それって、いつの話です?昨日出た盗人と、どうやったらご対面できるんですか。」

「違う違う。昨日の怪盗さんは、十年前にも悪さをしていたんだよ。そこで、一度ご対面したことがある。」

 月夜は、一条の方を向く。

「へえ〜。一体、どんなヤツだったんですか?」

「印象は、全身黒ずくめだったことだ。サングラスもしていたから、顔を見ることは出来なかったけど、結構若い感じだったなぁ〜。未成年ではなかったが、あれから十年経ったんだ。今では立派な青年かもな。」

 一条は、煙草を灰皿に押さえる。

「なんで、男だって思ったんです?」

「実際に、彼と話しをしたことがあってね。まあ、一言二言だったけど、女性ではなかったよ。」

 一条は、遠くを見るように言う。そこへ、一本の電話がなる。

「はい。坂上探偵事務所。これは、お久しぶりです。轟さん!」

 坂上は、椅子から立って会話をする。それは、いつもの憂鬱そうな表情とは違って、嬉しそうに話しをしていた。

「…では、そちらに伺います。はい、では!」

 一条の様子を見ていた月夜が、話しかける。

「お仕事ですか?」

「ああ。十年振りの、大仕事だ!」

 古びたコートを着て出かけようとしていた坂上を見て、月夜が止める。

「せめて、格好を整えて行ってくださいよ。そんな姿じゃあ、見栄えが悪いですよ!」

「あ〜。そっか…。」

 坂上は、顎の髭を触って考えていた。

「じゃあ、現地で落ち合おう。先に、現場に行ってて。私も、すぐに行くと轟さんに伝えておいて。」

 月夜は、一条からメモ用紙をもらうとそれを目にする。一条は、どこかに出かけて行った。それを見計らい、月夜は電話する。

「獲物が網にかかったぞ。」

「了解。」

 月夜は、含み笑いをする。

            ※

 現場に行くと、口髭を生やした警官が、多くの部下を連れて待っていた。

「君は…?未成年には見えないが。」

「はじめまして!一条探偵の助手をしている、宇佐美月夜と言います。一条さんは、後ほど合流するとのことですので。」

「ふ〜む、そうか。なら、仕方がない。案内しよう。ああ、私は警部をしている轟だ。よろしくな!」

 轟は、月夜に手を伸ばす。その腕力が強くて、一瞬、うっ、となる。

「よ、よろしくお願いします。」

「今回、怪盗シルバーが狙っているのは、"メアリーに捧げる"という宝石だ。そこにたどり着くまで、いくつかの仕掛けがしてある。」

 轟は、月夜に丁寧に教えてくれた。下調べをするには、もってこいだった。そして、得物がある部屋の前に着く。

「ここの部屋に、宝石が保管されている。」

 轟は、暗証番号を入れると、重苦しい金庫が開く。月夜は、中央にある宝石を見て中に入ろうとするが、轟に止められる。

「この中は、非常に危険だ。」

 轟は、懐から煙草を一本取り出すと、部屋の中に放り投げる。すると、ジュッと音を立てて、加熱消滅してしまった。

『いい〜!』

 月夜は、顔を青くする。

「この中は、センサーで管理されている。入り口から、宝石までたどり着くには、このセンサーを避けなくてはならない。だから、今回はヤツも手こずるだろうよ。」

「そ、そうですね。ハハッ。なら、警備の心配はいらないのでは?」

「そうもいかんよ。怪盗シルバーは、もう何度もこういった仕掛けを突破して、数々の犯罪を犯してきた。だから、油断は禁物だ!」

 轟の言葉に、月夜は苦笑いした。一部始終を、隠しカメラで撮っていた。

「十年経ち、再び現れるとは一体何を考えておるのやら。」

「また、お宝を盗んでみたくなったとか?」

「フンッ。遊びで、人様の物を盗んで良い理由にはならん!」

 轟の意見は、もっともだった。だが、月夜にはちやんとした理由があるのだった。

『その、十年前に居なくなった十夜兄さんを探すために、止めるわけにはいかないんだよ…!』

 月夜には、五歳離れた兄がいた。だが、この怪盗稼業を始めてから十年前に、消息をたっていた。そこで、雇い主である宇佐美が命じて、月夜があとを継ぐこととなったのだ。とても不本意だが、宇佐美の言葉は絶対だ。逆らえるはずもなかった。兄の十夜は、宇佐美のお気に入りだった。だから、行方が分かるまで怪盗シルバーをやる事しか選択肢がないのだ。でなければ、厳しいバツが待っている。

「一条さんは、まだ来ないのかな?」

 轟が、疑問に思った。

「もしかしたら、もう来ているのかも。」

 月夜は、電話をかけてみようとスマホを取り出した。そこへ、一人の杖をついた老人が現れた。

「ええい!護衛など必要ないと、言っておるじゃろ!」

 その老人は、ゴホゴホと咳をしていて、立っているのも不思議なほど青白い顔をしている。原田圭吾(はらだけいご)。この男は、数々の罪を犯していた。だが、表沙汰になることはなく、裁かれることもないのだ。月夜は、ギュッと目を細める。

「原田さん。そのようなお体なのですから、ここは私共にお任せください!」

「警察など、誰が信じてっ…!」

 原田は、ゴホゴホとむせながら膝をつく。すかさず、月夜が手を差し伸ばす。

「大丈夫ですか!?」

「離せ!手など、借りずとも良いわ!」

 原田は、月夜の手を振り払う。

「あの宝石は、エミリーのために取っておいた大切な物!盗人などに、安々とくれてやる気はない!」

 言い放ち、その場を後にする。その後ろ姿は、どこか儚げだった。

            ※

 辺りは、暗い夜になっていた。

「月夜。まさか、今回はやる気がおきないとか言うんじゃないだろうな?」

 イヤホンの男が言う。

「んー。そんなんじゃないよ。それに、今まで人に触れられずにいた宝石だ。」

「それじゃあ、なんでそんなに暗いんだよ?」

 月夜は、手のひらを見る。

「あの原田って言うクソ爺に、手を払われた!」

 イヤホンの男は笑う。

「月夜は、傷つきやすいからなぁ。」

「うるせぇ!それよりも、そっちにやった情報は届いたのか?」

「今回は、探偵様々だな。あの厄介なセンサーも、ジェリーが解除できるらしい。その間、十分程度だってよ。」

 それを聞き、月夜はニヤリと笑う。

「上々!そのくらいあれば、余裕で盗める。早速、準備を始めるぞ!」

「おうっ!」


 轟の前に、ある人物が姿を現した。

「これは、待ちかねました!よく、いらしてくださいましたね。」

 二人は、握手を交わした。

 月夜は、いつもの黒ずくめの格好をして、サングラスをかけた。建物を見下ろして、得物のある建物を見下ろしている。

「今夜は、良い夜だな。」

 怪盗シルバーは、スイッチが入った。だが、一つ違う誤算があった。

「本当に、良い夜だね。」

 自分の後から、突如男の声がして、そちらに気をとられる。煙草を吸って、眼鏡をかけた顔の整った人物が、居場所をつきとめてきたのだ。

『誰だ…!?』

 シルバーは、心臓がドキッとする。

「君は、十年前にあった人とは違うのかなぁ?まったく歳を感じさせない。もしかして、世代交代でもしたのかな?」

 その男の言葉に、シルバーはニヤリと笑う。

『もしかして、この男は…?』

「まさか、居場所を突き止められるとはね。大した探偵さんだ。」

 このイケオジこそ、あのぶしょったい格好をしていた男。一条、その人だ。

『まさか、身なりを整えると、こんなに良い男だったなんてねぇ。』

 シルバーは、自然と足を向けていた。

「十年前にも、会っていたの?」

 シルバーは、笑いながら一条の前に立った。

「ああ。十年前の君も、十分魅力的だったけど、今の君も捨てがたい。」

 真っ直ぐこちらを見てくる一条に、シルバーは、ドキンッと鼓動が高鳴る。

『ああ。この男を、モノにしてみたいなぁ。』

 シルバーは、一条の頬に手を当てる。

「一つ、約束してあげる。もし、僕を捕まえることが出来たら、ご褒美をあげる。」

 一条の耳元で、囁くように言う。シルバーの言葉を聞いて、一条も微笑む。

「ご褒美か…。楽しみにしていよう。」

 一条は、シルバーの手を手に取ると、指先に軽くキスをする。一条の真っ直ぐな視線に、シルバーはゾクッとする。その余韻を残して、シルバーは建物から姿を消した。一条は、その後を見送った。

「新たに会った君に、感謝しなくちゃね。」

 探偵は、ニヤリと笑う。

「おい。一体、何をしてたんだ?一分経ったぞ!」

「なんでもない。今、向かってるよ!」

 シルバーは、姿を消して建物の中に入っていく。まだ、世の中に出ていない、透明になる装置。そのため、誰も彼の姿が分からない。思っていた通り、センサーのある部屋の中には、誰もいなかった。おかげで、簡単に宝石を取ることができた。

「後、四分。」

 ケースに触れたことで、サイレンが響き渡る。

「なっ…!いつの間に!!」

 轟が、驚いて宝石のあった部屋を見る。

「一体、どうやって中に入ったんだ!?おのれ〜!まだ、近くに居るはずだ、探せ!!」

「ははっ!」

 警官たちは、辺りを駆け回り始める。だが、後の祭り。怪盗シルバーは、一枚のメモを残してその場を去っていた。

"エミリーに捧げる たしかにちょうだいいたしました。怪盗シルバー"

 だが、そのメモ用紙も、時間が経つとセンサーが反応して燃え尽きてしまった。

 辺りには、お宝を盗んだシルバーの笑い声が響いていた。












 月夜は、事務所を掃除しながら、昨晩の一条が唇で触れた指をジッと眺めていた。

『ああ。指先が、まだ熱い…。』

 こんな体験をしたことがなかった月夜は、何故かウキウキしていた。そこへ、身なりが整った一条が現れ、ギョッとしてほうきを動かした。一条は、新聞を見ながらトイレから出てきた。その姿を、そっと横目で見る。

「一条さん。ちゃんとした格好すれば、それなりに見えるんじゃないですか!」

「ん?」

 一条は、目線を月夜のほうに向ける。昨日の鋭い目線はなかったが、ドキンッとしてしまい、思わず目をそらす。

「なんで、よそを向くんだい?月夜くん、今日はなんかいつもと違うよ?」

「そ、そそそんなことあるわけないじゃないですかぁ!いつもと変わらないですよぉ〜!」

 何故か、意識してしまっていて、手元がおぼつかない。一条は、コーヒーを飲みながら話しをする。

「そう言えば、原田さんが危篤らしいよ。」

「…え?」

 月夜は、一条のほうを見る。

「うわ言に、エミリーと何度も叫んでいるらしい。気の毒に。その宝石は、もう無いからねぇ。」

 その言葉を聞いて、月夜はほうきを捨て去り、事務所を飛び出して行った。

「月夜くん!?」

 月夜は、一条の言葉を後に自然と飛び出していた。後日、"エミリーに捧げる"は、原田圭吾の元に戻ってきたという。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ