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三年後、私と妹の穏やかな日々は、ある日突然、終わりを告げた。
理由は単純だ。私が中学校に上がることになったからだ。
成績が優秀だった私は、父が基礎教育にこれ以上時間をかけることを惜しんだのだ。ちょうど中学からも打診があり、こうして12歳の私は、小学校の残りの時間を飛び越え、一足先に中学生となった。
その頃には、背も少し伸びていた。紫色の髪が、まだ幼さの残る顔立ちを引き立てている。自惚れではないが、私の容姿は、中学で多くの追いかけっこを生むだろうと予感させた。
中学に通い始めると、私はまた妹よりも早く起きるようになった。生活のリズムは、まるで昔に戻ったかのようだ。
しかし、それも一日だけのことだった。次の日から、妹は私より先に目を覚ますようになった。朝の別れを、どうしても交わしたかったからだ。
あの頃の私は、まだ幼かった。同じ屋根の下で暮らす、妹の秘めた想いに気づくことはなかった。それは後々まで、妹にからかわれる、笑い話の種の一つである。
中学という場所に、私はさほどの好感を抱いていなかった。小学校の友人たちは、まるでベルトコンベアーに乗せられた玩具のように、バラバラに分解され、それぞれ違う教室へと運ばれていったからだ。
「俺は、みんなより先に進んじゃったんだな……」
そう思うたび、私は自嘲気味に呟く。それが不満なのか、感謝なのか、自分でもわからなかった。
何よりも、そこに妹がいないことが辛かった。妹がいなければ、やることが見つからず、手持ち無沙汰になってしまう。
だが、中学に行かないわけにはいかない。一週間と経たないうちに、私は何人かの友人を得ていた。
彼らは、どうやら変化に対応することに長けているらしい。だからこそ、中学という環境の中で、私よりもたくましく成長していくのだろう。
友情は友情だ。恋愛は、また別の話だ。
なぜ、インドアな気質が芽生え始めたばかりの私が、女生徒たちの目に留まるのか、当時の私には理解できなかった。
あの目立つ紫の髪のせいだろうか。
理由はどうあれ、私に降りかかる困難は、孤独だけではなかった。恋愛に目覚め始めた、多感な少女たちもまた、私にとっては困難の種だった。
中学に上がる頃になると、誰もが何かしらの自意識に目覚めるらしい。彼女たちは、自分は物事をはっきりと見通せると信じ、自分に逆らうものは決して許せないと考える。
しかし、大人になってから振り返ると、その浅はかさに、思わず手を当てて苦笑いしてしまうのだ。
それもまた、成長の過程というものだろう。中学の女の子たちは、身体も徐々に成長し、クラスの人気者はグループを作ったりもする。私は、そんな彼女たちの行動を、ただ「非主流」と片付けていた。
一方、私はというと、後にどんなに遡って考えてみても、自分の人生に「反抗期」と呼べるようなものは存在しなかった。
両親のおかげだろうか。もちろん、それだけではない。迷い悩む私を、いつも妹がそばで見守っていてくれたからだ。それも、私が歩みを止めずに済んだ理由の一つだ。
それはさておき、あの頃の私は、無意識のうちに、憂いを帯びた雰囲気を漂わせていた。それは、言ってみれば、一種の「陰キャ」の香りであり、「近寄るな」という無言のサインだった。
しかし、その厄介な性質が、なぜか女の子たちには魅力的に映ったらしい。彼女たちは、私を、手に入れるべき獲物のように見なしていた。
今でも、ふと思い出すことがある。それは、いつも私の脳裏に焼き付いて離れない、ある出来事だ。後に妹に尋ねてみると、彼女もまた、目を細めながら覚えていると答えた。
そう、あれは、私と妹にとって、初めての危機だったのだから。
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あの日のことを、今ここで話そう。それは、ほんの些細な出来事に過ぎなかった。
解放を告げるチャイムが、校舎中に美しく響き渡る。
頭上では、渡り鳥が翼を広げ、まるでこの地に留まるつもりはないとでも言うかのように、空高く舞い上がっていく。
あの白い翼は、自由の証のようにも思えた。
私は自転車を押しながら、校舎を後にしようとしていた。手は自転車を押しているのに、頭の中は、いつの間にか妹のことでいっぱいになっていた。
「ああ、長い一日が、ようやく終わったな」
空を見上げ、大きく息を吐く。吐き出した濁った息は、まるで自分自身を浄化してくれるかのようだ。
「今日の妹は、昨日より少しは成長してるかな」
そんな、何の意味もない問いを心の中で繰り返しながら、私は校門へと歩を進める。意味がなくても、それは、愛しい妹のことだ。それで十分だった。
「あの……」
背後から風が吹き、それに乗せて、声が聞こえてきた。
少し緊張した、硬い声。甘く柔らかな声音で紡がれているのに、なんだかぎこちない。
「何か御用ですか?」
現実に引き戻された私は、振り返り、声の主を見た。
高い位置で一つに結ばれた髪。潤んだ大きな瞳。制服は、成長途中の身体の線にぴたりと沿っている。一見すると、なかなかの美人だった。
一年A組の後輩か。学校でも、ちょくちょく見かける顔だ。
「先輩、今、お時間よろしいですか……」
後輩の質問に答えようと口を開きかけたその時、私の背後から、先に声が飛んできた。
「ダメ!」
えっ?! この声は……
妹だ。
慌てて振り返ると、頬を膨らませ、両手を腰に当てて仁王立ちする妹の姿があった。まだ小学生だというのに、すでに大人の女性のような風格さえ漂っている。
「えっ?!」
後輩も、さぞ驚いたことだろう。突然の展開に、思春期の入り口に立つ少女が、ありとあらゆる想像を巡らせたとしても、無理はない。
「先輩、この方、彼女ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、私は全身が凍りつくような感覚に襲われた。
なんだって?! 後輩よ、君にはこれが妹にしか見えないのか! 同じ髪色だし、それに……
そう考えた瞬間、私の目は、無意識に妹の方へと向けられていた。
それに、何だって?
その先を考えようとして、私は言葉を失った。妹は、隣に立つ中学生と、体格がほとんど変わらなかったからだ。
ダメだ。また、ろくでもないことを考えてしまう。
無理やり思考を打ち切り、事情を説明しようとした。だが、またしても、妹が先に口を開いた。
「そうだよ! 私、彼の彼女だもん!」
断言するような答えが、耳を通り越して脳にまで届き、私の中枢神経は、完全に機能停止に陥った。
「そうだったんですね……失礼しました、先輩。用は、もう終わりましたので」
後輩は、妹の答えを聞くと、項垂れながら、機能停止に陥った私の横を、静かに通り過ぎていった。
こうして、騒動は幕を閉じた。時間を浪費したせいで、広い校門の前には、私と妹の二人だけが残された。
「お兄ちゃん、帰ろう」
その言葉で、私はようやく我に返った。いつの間にか、妹は自転車の後ろの席に座っていた。
「一緒に帰ろう、お兄ちゃん。久しぶりだね」
妹を見つめ、かつて、一緒に小学校に通っていた日々を思い出し、私は安堵と共に、かすかな笑みを浮かべた。
「ああ、帰ろう」
頭の中を、すべて空っぽにする。残された時間は、ただ、二人で過ごす帰り道だけだ。
その日から、妹は毎日、私が放課になる前に、校門の前で待つようになった。小学校と中学校の、下校時間の差を利用してのことだ。
かつては、私が妹を待っていたのに。今では、妹が私を待つ側になったのか……
校内では、私に関する噂が流れていた。あの日の光景は、どうやら複数の生徒の目に留まっていたらしい。
こうして、私は、いわゆる「既婚者」のレッテルを貼られることになった。
噂の真偽を確かめるべく、私は、比較的親しくしている同級生に尋ねてみたことがある。
「おいおい、兄弟で何やってんだよ。なんであんな可愛い子と一緒にいられるんだよ!」
「そうそう、しかも、あの子、お前を独り占めしたいって感じだしな。あれが独占欲ってやつか?」
「まさに、お似合いのカップルだな。で、いつから付き合ってるんだ?」
矢継ぎ早に飛び出す質問の数々に、私の気分は急速に沈んでいった。しかし、怒りを抑え、ただ黙っていることしかできなかった。
誰が、あの時、何も言い返せなかったんだ? それに、妹は今や毎日、私を待っている。こんな一瞬で崩せるような噂なら、放っておくのが一番だろう。
何て言ったっけ、こういう時は。
「風が吹こうが、雨が降ろうが、我が道を行く」
そうは思っていても、誰よりもわかっている。それは、噂が崩れるのを、心のどこかで望んでいないからだ。現状を変えたくない、このままでいたい。ただ、それだけなのだ。
だから、私と妹が一緒に帰るたびに、必ず一人や二人の中学生が、私たちに聞こえないように、ひそひそと何かを囁いている。
しかし、私にはわかっていた。それは間違いなく、私と「私の愛する彼女」についての話なのだろう。
私は、そんな陰口を気にしなかった。いや、何度も繰り返されるうちに、むしろ慣れてしまったのだ。
それは、すべて自分に言い聞かせている言い訳に過ぎない。実際には、彼らがどんなに感嘆し、どんなに羨ましがっているかを耳にするたび、私の心の中には、ぽっと小さな陽だまりが生まれていた。
外見はどんなに取り繕っても、心が踊る感覚を偽ることはできない。
後に、妹と一緒にいるときに、私は素直に認めた。彼らの言葉を聞くたび、私は嬉しくなるのだと。
こうして、幸福という名の風が、私たちの人生に、ゆっくりと吹き始めた。その風は、私たちが成長していく道のりを、どこまでも寄り添いながら、きっと、人生の終着点まで、一緒に吹き続けていくのだろう。
その時、私は十二歳で、妹は九歳だった。




