表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/45

第24章「聖域の門」




岩場を抜けた先、丘陵の谷間にそれはあった。

黒ずんだ岩肌に埋もれるように立つ、巨大な石門。片側は崩れかけ、苔と蔦に覆われている。だが、その表面には今も淡く光を放つ刻印が散っていた。冷たい風が門の奥から吹き出し、血の気を奪う。


「……これが、聖域の門か」

アズラが震える声でつぶやいた。手にした筆を握る指先は汗で湿っている。


シバは赤布に無意識に指をやった。だが布は沈黙したまま、ただの布切れのように冷たい。頼れるのは己の脚と牙だけだ。


「仕掛けがあるはずだ」アズラは石面に顔を近づけ、刻印を指でなぞる。「碑文の断片……“声・光・影”。三つ揃えば門は応じる。だが順序は……」


「順序を間違えたらどうなるんだ?」ライカが眉をひそめる。

「……門そのものが敵になるかもしれん」アズラの喉が鳴った。


張り詰めた空気の中、翠が口を開いた。「立ち話はいい。追っ手が背後にいることを忘れるな」

皮肉混じりの声に、緊張が少しだけ緩む。


「まずは声、だろうな」シバが低く言った。

「吠えるのは得意分野だしね」ライカが牙を覗かせる。


二人が同時に咆哮した。狼と柴犬の声が重なり、岩壁に響く。

だが、刻印は半分しか光らなかった。


「足りねぇ。長く吠えすぎだ」

翠が即座に指摘する。「短く区切って合わせろ」

ライカは息を切らしつつ笑った。「あたしはまだ平気だよ」

「平気な顔ほど危ういんだよ。無駄吠えするな」


二度目の咆哮。今度は刻印の一つが鮮やかに輝いた。


「次は光だ」アズラが前へ出る。

綺羅が影を繰り出し、黒い糸で門面を覆う。その隙間をアズラの光の碑文が満たすと、光と闇が複雑に絡み、刻印が走った。


翠は綺羅の手元を観察しながら低く言った。「指先が痺れてるな。抑えろ、倒れるぞ」

「問題ないって」綺羅は短く返す。

「問題ある。加減をしろ。医者の忠告は高いぞ」

吐き捨てるように言いつつも、翠の眼差しは真剣だった。


やがて、門全体の刻印が脈動を始める。

アズラが息を荒げながら叫んだ。「最後は……全員の意志だ!」


「意志?」シバが首を傾げる。

「門は試している。俺たちが本当にここに入る覚悟があるかを」


沈黙が落ちた。

シバは赤布を握り、仲間たちを見回す。ライカは牙を見せ、綺羅は無言で頷き、翠は煙草を咥え直すだけだった。


「行くぞ」

シバの一言で、全員の視線が門へと注がれる。


刻印が一斉に輝き、地を震わせる轟音が谷を満たした。石の扉がゆっくりと開いていく。


冷たい風が吹きつけ、奥からは底知れぬ闇の匂いが漂った。

シバは拳を握りしめ、低くつぶやいた。


「俺たちの脚で、聖域へ」


仲間たちは無言で頷き、開かれた口の奥へと歩みを進めた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ