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第2.5章「影を背負う者」
夜風が冷たい。
廃都の外縁に近い岩場を、綺羅はひとり駆けていた。
背後から灯りの群れが迫る。
「くそ……やっぱり気付かれたか」
盗賊流の仲間たちが残した拠点跡を探っていたのが裏目に出た。
瓦礫の陰に潜んでいた追手の兵に見咎められ、今や十数人の追撃を受けている。
綺羅は影墨を染み込ませた布切れを取り出し、地面に素早く符を刻む。
――《影縫》。
足元の影が伸び、先頭の兵士の動きを絡め取る。
悲鳴。後続が押し潰すように突っ込む。
「はい、ひとりダウン……でも多すぎるね」
綺羅は舌打ちし、短剣を構え直した。
廃墟の瓦礫を飛び越えながら、ふと脳裏に浮かぶのは――赤い布をなびかせて走る影。
「……あの赤布、まだ生きてるかな」
思わず口元が緩む。
彼と別れたばかりなのに、結局また同じ方向へ逃げ込んでいる自分に気付く。
利害が一致すれば……組むのも悪くない。
夜の闇に影が揺れた。
綺羅は短剣を翻し、廃都へ向けて再び駆け出した。
第2.5章 いかがでしたでしょうか?
ここでは綺羅のお話を少し。
次回はシバとの合流から新しい展開を迎えます。