第15章「森を抜ける旅人たち」
森の木漏れ日の中、ひときわ大きな影が現れた。
背丈よりも大きなリュックを背負った熊の獣人──バルグだった。丸い耳がぴょこんと揺れ、厚い体毛は赤茶色に輝き、まるで森そのものを背負って歩いているかのように見える。リュックの上には、小さな猫の獣人の少女がちょこんと腰掛けていた。
「うわぁ……おっきい」
綺羅が目を丸くする。
バルグはのんびりとした笑みを浮かべ、大きな掌をひらりと振った。
「やぁやぁ、こんにちはー。俺はバルグ、旅の商人やってるんだよー」
「……で、その子は?」
翠が煙草を咥えたまま顎をしゃくる。
「こっちはフィオ。猫の子でね、ちょっと前に保護したんだよー」
背中からひょこりと顔を出したフィオは、人懐っこい瞳でにこりと笑った。猫耳がぴくぴく動き、ふさふさの尻尾が嬉しそうに揺れる。
「はじめまして! センセイ!」
「……誰がセンセイだ」
翠は額を押さえるが、その口元はわずかに緩んでいた。
アズラもバルグを見やり、薄く笑う。
「相変わらず、森から荷物ごと出てきたみたいな男だな」
「ははー、昔と変わらず元気そうでなによりだよー」
バルグは腰を下ろし、リュックの中身をごそごそと探り始める。薬草、乾燥肉、小瓶に入った墨の材料。さらには、布に包んだ小さな武器まで。
「どうだい? 今回はいい薬草が採れたんだよー。ちょっと高いけど、アズラには特別価格でねー」
その時、袋から顔を出した干し肉がシバの鼻をくすぐった。
「……これ、売ってくれ」
思わず口にしていた。
バルグが笑いながら差し出すと、シバは小袋を受け取る。
耳がぴくりと動き、嬉しそうに揺れた。
綺羅がその仕草に気づき、口元を緩める。
「ふふっ……やっぱり犬なんだね」
「……放っとけ」
シバはそっぽを向いた。
その日の夜、森を抜ける前に野営することになった。
女性陣はテントの中へ。綺羅はフィオの隣で眠り、翠は「うるせぇ子守歌だな」と愚痴を零しながらも、寝顔に布を掛け直してやった。
外では、シバとアズラが火を囲んでいた。
「……のんびりした奴だな」シバが呟く。
「のんびり、というか鈍いというか。だが、ああいう奴がいなきゃ旅は続かん」
アズラは筆を弄びながら苦笑する。
バルグはリュックを枕に、ごろりと横になっていた。
「怖いなー……って思うけどさ。だから力を振るうんだよー」
ぼそりと呟いた声は、森の夜に溶けていった。
シバは赤布を握りしめ、無言のまま火を見つめる。
明日からの旅路に何が待っていようとも、この仲間と共に進むしかないのだ。




