表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/45

第14.8章「残された村と翠の決意」




朝の光が村を洗っても、空気の重さは消えなかった。

黒く焦げた柵、崩れ落ちた屋根、踏み荒らされた畑。勝利はした——だが、代償は小さくない。


「……三人、駄目だった」

村長の低い報せに、広場が静まり返る。

名を呼ばれた遺族が声を殺して泣き崩れ、幼い子が母の胸で嗚咽した。


「だけど……」若い男が、握った鍬を見つめて言う。

「もっと多くの命が奪われてたはずだ。みんなが踏ん張ったから、生き残れた」


誰かが「ありがとう」と言い、別の誰かがそれに続く。

泣き顔に、それでも小さな笑みが灯る。


シバは耳を伏せて立ち、綺羅は視線を斜めに落としながら拳を握る。

アズラは筆を胸に抱え、封じた黒い欠片の方角へ短く目をやった。


「今後のことだ」

村長が顔を上げる。「見張りを強める。東の畑道に見張り台を立てる。罠の位置は記し直して、夜になったら火種の藁束を補充しよう」

「裏山の洞窟は当面の避難所だな」「橋の補修は明日からやる」

ハルじいが剣の鞘を叩いて笑う。「わしの腕も、まだ鈍っちゃおらん。若いの、稽古つけてやるぞ」


アズラが頷く。「念のため、結界符を三枚置いていく。完全じゃないが、影の気配が濃くなれば鳴く仕掛けだ」

村人たちは真剣に頷き、符の扱いを教わった。


その輪から一歩抜け、翠が前に出る。

白衣の裾は煤に汚れ、指には包帯の白。だが瞳は澄んでいた。


「私も、行く。あんたたちだけじゃ無茶ばかりだ。医者が必要になる」


「センセイ……行っちゃうの?」

涙目の子が裾をつかむ。翠はかがみ、目線を合わせた。


「……約束する。だから行ってくる」


ぶっきらぼうで短いが、揺るぎない言葉。

子は唇を噛み、力いっぱい頷いた。


「センセイ、気をつけて」「必ず戻ってきておくれ」

村人たちの声に、翠は一度だけ軽く会釈した。


シバが1歩を踏み出す。

「行こう」

綺羅が肩を回し、アズラが筆袋を正す。翠は無言でシバの隣へ並んだ。赤布が朝風に揺れ、四人の影が地面に長く伸びる。


彼らは北へ——灰徴兵団の拠点へと続く道を、静かに歩き出した。

背後には、失ったものの大きさと、それでも生きるために立ち上がろうとする村の姿があった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ