第14.5章「白き外套の影」
戦いが終わった村には、まだ血と煙の匂いが漂っていた。
瓦礫に腰を下ろす村人たちの表情は疲労に覆われながらも、どこか誇らしげでもあった。
——自分たちだけで灰徴兵団を退けたのだ、と。
だが、静けさを破るように、遠方から蹄の音が響く。
乾いた地を踏みしめ、規律正しい隊列を組んだ騎馬の一団が姿を現した。
白い制服に黒の外套。胸には秩序の紋章を刻んでいる。
「……白衛団だ」
誰かが小さく呟いた。
先頭から馬を降りたのは、副団長イレーネ。
長身の女は冷ややかな眼差しで村を一巡し、次いで村の中央に集まる者たちを見とめる。
——赤布を纏う犬。
シバは無言でその視線を受け止める。
背後には村人たち。彼らの眼差しには恐怖よりも感謝が宿っていた。
「待ってください!」
村人が声を張り上げる。
「あの子らが……シバたちが、この村を救ってくれたんです!」
「命を懸けて灰徴兵団と戦ってくれました!」
イレーネの眉がわずかに動く。
その背後で、大剣を背負ったエルドが黙然と腕を組み、若きリオンが落ち着かぬ面持ちで周囲を見回していた。
白衛団にとって赤布は禁忌。だが、ここでの現実はそれを裏切っていた。
短い沈黙の後、イレーネは息を吐き、言葉を選んで告げる。
「……白衛団の到着が遅れたこと、深く詫びる。
この村を守り抜いたのは、あなた方の勇気と……そこにいる者たちの奮闘だ」
村人の間にざわめきが広がり、安堵の表情が浮かぶ。
イレーネは赤布を纏うシバに視線を戻し、しかしそれ以上は言葉を重ねず、踵を返した。
「団は退く。残る後処理は我らが担おう」
アズラが一歩進み出て、影の残した黒い欠片を示す。
「これは危険な“座標媒体”だ。封印は施したが、長くはもたない」
イレーネは静かに頷き、同じ碑文術の符を取り出す。
アズラの術式と交わるように欠片へと重ねると、鈍い光が包み込み、深い脈動が沈静していく。
「ここから先は、団の責務だ。確かに預かった」
白衛団は整然と列を組み直し、村を後にする。
夜明けの空が薄紅に染まる中、残されたのは、肩を並べるシバたちと、守り抜いた村の姿だった。




