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第9.5章「灰の夜に灯る影」




月が中天に昇り、村の広場には三つの焚き火が燃えていた。

それぞれに十人ほどが身を寄せ合い、夜風に白い息を吐きながら小さな火を囲んでいる。

崩れた家屋の影が月光で長く伸び、冷気が肌を刺した。


「わしの孫は隣村におる……守れるじゃろうか」

震える声の老人、ハルじい。皺だらけの手が杖を握りしめる。


「畑を荒らされたら、来年は何を食えばいいんだ」

農夫ゲンが土にまみれた掌を擦り合わせ、眉をひそめる。


「農具でも武器にしてみせる」

鍛冶屋の息子リョウは削った鎌を握り、決意を込めて火にかざした。


村人たちの言葉には、不安と小さな希望が入り混じっていた。



---



火の近くでは、子供たちが眠れずに座り込んでいた。

その中の一人、五歳のタロウがシバの尻尾を掴む。


「ふわふわだ……」


「こ、こら……!」

シバは耳を伏せ、困った顔で振り返る。


「へぇ、人気者じゃん。赤布の犬様も、子供には弱いんだね」

綺羅が茶化すように笑う。


「感情が尻尾に出る……やはり獣人は面白いな」

アズラは眼鏡を押し上げ、真面目に観察を続ける。


翠は口の端でタバコを噛み直し、煙を吐き出した。

「戦場に行くってのに……ほんと、のんきなもんだ」

だがその口元には、僅かな笑みが浮かんでいた。



---



夜も更けた頃、シバの耳がピクリと動いた。

広場のざわめきが凍りつく。


「……十数人はいる。足音が重い……重装備だな」


翠が素早く周囲を見渡し、声を低く落とす。

「子供と女はすぐ洞窟に避難させろ。ゲン、リョウ、罠の準備を急げ」


「了解だ、センセイ!」


綺羅が唇を噛む。

「ねぇ、シバ……本当に勝てるの?」


シバは短く息を吐き、赤布を握りしめた。

「……分からない。でも、やるしかない」


翠が鋭く言い切る。

「なら死ぬな。生きたいなら、私が必ず助けてやる」


アズラは眼鏡を押し上げ、低く呟いた。

「光で影を裂く……我らが役割は明確だ」



---



遠くの森から、不気味な気配。

枝を踏みしめる音、鎧の擦れる音。

焚き火がはぜる音に混じり、確かな脅威が迫っていた。


シバの尾がわずかに震え、声が低く漏れる。

「……来るな」


夜の闇に、影が揺れた。

それは――決戦の始まりを告げる合図だった。






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