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神話は荒唐無稽か

作者: 林泰寧

 例えば一般に「土地神話」と謂えば、「土地」に関する「根拠なしに長く信じられてきた話」という意味となります。この文脈に於いて神話という語は「根拠なしに長く信じられてきた話」を示すのです。

 しかし、なぜ神話という語に斯かる意味が附せられたのでしょうか。その理由は西洋での近代化に由来すると云われています。それまでの西洋ではキリスト教的価値観が重んじられ、皆これを信じてきました。しかし十六世紀頃より始まった科学技術の進歩のため、物事を聖書で見るのではなく実験で見ること、即ち従来の「非合理的思考」を棄て「合理的思考」に移行することが課題となりました。それが十八世紀の産業革命以降さらに加速していったのは皆さまもご存じでしょう。日本でいえば室町時代末期から江戸時代頃の話です。

 ここで「神話」の語義に戻ります。先の如く革新に革新を重ねてきた当時の西洋人にとって、これまで信じられてきた聖書の内容や神話、伝承等は新発見の数々に適さなくなり「古代人の考えた荒唐無稽な物語」、はたまた「合理的理由もない古臭い因習」に過ぎなくなっていたのです。こうして「神話」という語は、先に述べたように「根拠なしに長く信じられてきた話」という意味を附せられたのです。最初キリスト教の教義を指していた「ドグマ」という語も、元が似た意味故に似た転じ方をした語と謂えるでしょう。

 それなら、なぜ以前は「古代人の考えた荒唐無稽な物語」や「合理的な理由もない古臭い因習」が信じられてきたのでしょうか。それを説明するために、一つ例え話をさせてください。

 ここで皆さまと倶に伝言ゲームを行うとしましょう。この時に当たり、二人だけでは伝言でも何でもありません。故に三人以上必要です。仮に三人で行うとすれば、まだ単語も意味も十分保存されたままです。しかし人数が増えるとどうでしょう。十人でも若干雲行きが怪しくなり、百人、千人と来ればもう意味も何も残りません。ですが言葉の「響き」は意外と残っているでしょう。最初「伝言」と伝えていたものが「レンコン」「年号」等と変化することはあっても、誰かがイタズラしない限り「チョコレート」となることはまずあり得ません。

 これと同様に現代人からすれば神話は「荒唐無稽な物語」であっても、それは絶間ない伝承の中で主語や述語に於ける「ガワ」だけの変化、又は当時の人々の解釈によりそうなっただけなのかもしれません。今となっては「荒唐無稽」に見える出来事も、太古の人々がそれを確実に目撃し、さらに伝える必要性を感じてからこそ現在まで伝わっているのです。仮にどこかで「ガセ」とわかれば、現代人もそれを途端に信じなくなるのと同様かなり早い段階で断絶・散佚していたでしょう。即ち神話とは、過去実際に起きた出来事や事象を当時の解釈で伝えたものであると私は謂いたいのです。

 ではかくて生じた「神話」を否定し、完全に断絶させるとしたらどうでしょうか。先の私見を踏まえた上で現代で例えれば、それこそコペルニクスやニュートンの発見を全否定し全く新しい説を立てるようなものです。近代化により生じた現代社会の基盤を突然叩き壊す訳ですから、極端な話この社会は混乱の末崩壊するでしょう。その「近代化により生じた基盤」すら「神話により生じた基盤」の上に立ったものですので、どうなるかは言うまでもありません。

 例えば平成の大合併と云い、従来分けられたを大いに合併し地名を変えるという政策がありました。ですがこの時図ってか否か、恐ろしい意味の含まれる地名まで当り障りのないものに変えてしまったのです。その結果、地名の新しくなった土地に住む人々が東日本大震災により家を失うという被害が相次いで発生してしまいました。事実これ以降「災害地名」というものも注目され始めています。地名は本来その土地の特徴を簡潔に言い表したものであり、全く違うものに変えては意味がありません。それすら不動産業者からすれば知ったことではないのでしょうが、そこに住む側からすれば堪ったものではありません。家を買うに古地図を見よとよく謂うのは、このためなのです。

 ところで、中世以前「人間は自然と共に生きている」と考えられてきたものが近代以降「人間は自然を支配する」と考えられるようになったと云われています。しかし後者の考え方こそ、また一種の「神話」ではないのでしょうか。


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