49. 陰謀と火種
越前・一乗谷。
月明かりが細く差す中、城下の裏通りに集う影があった。
「――民の怒りは、いつ火が点いてもおかしくはない」
「朝倉の政は“声なき民”に、耳を貸す素振りすらない」
声を潜めて語るのは、三好残党の首領、松永久秀の密使。
彼らは、かつて足利義輝を殺め、京の混乱を演出した旧勢力の亡霊だった。
「民を動かし、城を揺るがせば、越前もまた“京”と化す」
「将軍義昭の権威も、朝倉の名も……その座を揺るがすことができる」
密かに送り込まれた策士たちが、今、越前を混沌へ導こうとしていた。
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◆ 義景の迷い
「農民たちが要求しているのは、米と、休息と、そして……言葉だ」
朝倉義景の側近である藤原玄宰は、再び進言する。
「信長の政は、民と“問答”を通じて変革を促している。
越前も、時代の風に耳を傾けねば、時を止めたまま、沈みます」
義景は静かに盃を傾けた。
「信長のやり方は、見事だ。だが、我ら朝倉は武家だ。民と同じ目線には……立てぬ」
「立てぬのではなく、“立とうとしない”だけです」
玄宰の言葉に、義景はただ黙し、外を見つめた。
そこでは、貧しい村娘たちが年貢米を背に、城下に並んでいた。
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◆ 信長の打算
岐阜では、信長が「越前動乱」の情報を得ていた。
「民の不満、三好の残党、朝倉の迷い……すべてが混ざれば、越前は崩れる」
「では攻め時か?」と木下藤吉郎が問う。
「まだだ。俺たちは“炎”ではなく、“風”になる」
信長は、越前に向けて使者を出すよう命じた。
目的は――“義景の試練”を誘い出すこと。
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◆ 影の接触
その頃、一乗谷の城下では、密かに動くもう一人の影がいた。
黒装束の青年――“伊賀忍”朧。
彼は信長から密命を受け、越前の混乱の“真の火種”を探っていた。
「……三好残党の影、確かにあり。しかも、“義昭の名”を利用しようとしているとはな」
朧は夜の闇に紛れ、密書を岐阜に送った。




