38. 三好残党と影の手
京・堀川館――。
夜の帳が下りる中、その古びた屋敷には武装した男たちが集まっていた。
かつて畿内を支配した三好政権の残党、三好義継の私兵である。
「信長が“金”で国を取るだと? 舐められたものだ」
男は静かに盃を置いた。
「奴が築いた岐阜の“市”など、火ひとつで灰になる」
だが、その場にいたもう一人が言った。
「……それだけでは済まん。あれは、“民の意識”すら変えようとしている」
「ならば、心ごと焼き払うだけだ――我らが、もう一度この京を取り戻す」
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暗躍する影の男
同じ夜、洛外の離れ屋敷にて。
黒衣の男が、三好の一人に小さな包みを渡していた。
中には、鋳造前の銀インゴットと、岐阜通用銀の刻印型の模倣品。
「……これを使って“偽貨”を流通させるのですか?」
「偽りは民の心を最も早く揺るがす。
通貨の信用を崩せば、制度も信長も瓦解する」
その声に、薄ら笑いが返った。
「“理”に頼った統治など、瓦一枚と同じよ。下から崩せば、すぐに落ちる」
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岐阜に偽銀、現る
「殿、問題が……。岐阜通用銀と同刻印の銭が、尾鷲と堺で同時に出回っております」
明智光秀が険しい表情で報告する。
「質は粗悪。重量も微妙に軽く、真贋判別には経験が要ります。が、民には判別が難しい……」
信長はしばし黙したあと、低く呟いた。
「通貨に偽が出るということは、“制度が機能してきた”証拠でもある。
だが、ここで崩れれば“未来”も潰える」
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“理”への対抗、始まる
偽銀の流通によって、尾鷲の市では商人同士の混乱が生じ、信用取引が一時停止。
堺では一部の商家が旧銭への回帰を宣言した。
「岐阜銀は危うい」との噂が、巧妙にばらまかれていた。
「見えぬ敵がいるな……」
柴田勝家が拳を握りしめる。
信長は静かに頷いた。
「三好だけではあるまい。……これは、“旧秩序”そのものの反撃だ」
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信長、反撃を決意す
信長は即座に命じた。
「岐阜銀の真贋鑑定書を発行する。“手形”に検印を追加。
鑑定所を市ごとに設け、偽造を排除する制度を作る」
さらに、南蛮商館へも使者を送り、
「外銀との交換制度」――つまり、為替取引の布石を打った。
「偽りが出るなら、“真の信頼”でねじ伏せろ。
これは、制度の“洗礼”だ。耐えきれば、本物になる」
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岐阜日報 第十号:危機と誇り
・偽造銀の出回りに対し、対策本部設立
・岐阜銀の鑑定機関、「銀信所」設立決定
・通貨の信用を守るための連載特集「貨幣と未来」開始
新聞は混乱を隠さず、それでも“立ち向かう姿勢”を打ち出した。
民は怯え、だが同時に――初めて、“制度を信じる”という行動を選び始めていた。




