表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/50

31. 南蛮交渉

 天正二年、盛夏。岐阜城の一室。


 「南蛮船、今期も平戸に寄港。火薬、香料、絵画、書物、多数持ち込みあり――」


 南蛮貿易に詳しい間者からの報告を受け、信長は地図に視線を落とした。

 描かれていたのは、若狭湾に面した敦賀の港。越前の西端に位置する小さな港町である。


 「堺でもない、博多でもない。……この国の“新しい入口”は、ここでいい」


 光秀が訝しむように尋ねた。


 「敦賀は辺境。兵站の確保が難しゅうございます」


 信長は微笑した。


 「港は、“国と世界をつなぐ門”だ。いずれ、天下の中枢は“内陸”ではなく、“海上”になる」



◆ 南蛮商人との接触


 信長は独自に派遣していた貿易使節を通じ、南蛮船との交渉を取りつけた。

 来日したのは、ポルトガル人の青年商人と、若き宣教師・ルイス・ソテロ。


 織田軍の出迎えに驚きつつも、彼らは珍しい道具のいくつかを岐阜へ持参していた。


 「コチラ、ニホン人喜ブ、遊ビ道具ネ。水ヲ熱スル、羽回ル」


 信長の前に置かれたのは、奇妙な金属製の球体だった。

 小さな穴から蒸気が噴き出すと、取り付けられた羽が回転を始める。


 「これは……動くのか?」


 「ハイ。湯気デ、回リマス。昔ノギリシャニ、似タ物、アル」



◆ 蒸気の“芽”を見る眼


 信長はその玩具――古代ギリシャの**“ヘロンの蒸気球”**によく似た代物――を興味深そうに見つめた。


 「火と水で、力が生まれる。……なるほど、“力を生む道具”か」


 光秀が控えめに言う。


 「殿、これは所詮、子供の遊びでございましょう」


 信長はかすかに首を振った。


 「いや――これは“未来”だ。

 今は玩具でも、工夫し、応用し、仕組みを活かせば――いつか“動力”になる」


 そして静かに続けた。


 「火薬で戦を変えた。ならば、次は……“力”で国の形を変える時だ」



◆ 港町・敦賀の整備


 敦賀には、すでに仮の交易港が築かれつつあった。

 物見櫓と蔵、交易商館、通訳詰所、そして港湾警護の常設兵。

 信長はこれを「南蛮門ナンバンゲート」と名付けた。


 「ただの港ではない。ここは、“世界と国をつなぐ道具”になる」



◆ 南蛮との貿易項目


 信長が望んだのは、ただの鉄砲や硝石ではなかった。


 - 医薬書と南蛮薬(蒸留酒・水銀・香薬)

 - 西洋の数学書(特に十進法と幾何)

 - 印刷機と活字

 - 蒸気模型と構造図(未来の参考資料)

 - 物価の帳簿(世界との経済比較)


 光秀が苦笑した。


 「軍備ではなく、“文明”そのものを取ろうとされるお方は、殿以外におらぬでしょうな」



◆ 信長の構想


 岐阜へ戻った信長は、蒸気模型の羽を指で押しながら呟いた。


 「火と水で動く玩具。それは今、笑い話に過ぎぬ」


 「だが、人が仕組みを解き、工夫を加えれば、

  それは“国を動かす道具”になる」


 「必要なのは――見抜く眼と、変える意志だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヘロンの蒸気機関は実験中に爆発してしまって工場を失いパトロネス(パトロン)も離れてしまったけど研究が進んだらどこまで行けたか夢があります スチームパンク・ローマ帝国なんて世界があったりして
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ