表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/50

29. 銭の革命


 岐阜城の政庁、夜更け。

 信長は一枚の紙を手に、じっと見つめていた。


 それは、南蛮からもたらされた“紙幣”の見本だった。


 「銭は、重すぎる。価値とは、“信”だ。

 であれば、それは金属である必要すらない――」


 ついに、戦国の支配者は「通貨の本質」に手をかけ始めた。



◆ 鋳造所、設立


 信長はまず、美濃の旧・六角領に眠っていた小規模な銅山を接収し、

 そこに新たな“鋳造所”を設けることを命じた。


 「銭を鋳るには、“秤”が要だ。純度を管理し、重さを均一にせよ。

 見た目ではなく、“測れる価値”こそが信用となる」


 筒井貞次郎がその役に就いた。

 彼は“算鬼”の異名を得て、測定・帳簿・鋳型に至るまで、すべてを数で管理し始めた。



◆ 新銭“織銭おりせん”、流通開始


 その年の秋、ついに発表された。


 「織田家が保証する“共通通貨”として、新銭“織銭”を発行する。

 一文・五文・十文・百文――これを、商いと年貢納付に用いよ」


 町の商人たちは驚いた。


 「京の銭じゃねぇのか? 寺の裏銭より信用できんのか……?」


 だが、信長はすでに“織銭”を納税手段として公認し、

 さらに“織銭なら米と交換できる”という制度を同時に導入していた。


 「価値を保証するのは、“国そのもの”だ。信じさせる必要はない。使わせれば、信は自然と生まれる」



◆ 紙幣の構想、動き出す


 「では殿、この“紙”の通貨は、鋳銭の代わりとなるのですか?」


 光秀の問いに、信長は静かに頷いた。


 「最初は無理だ。だが、“倉に銀一貫あり”と証す証文を紙にすれば、それは“銀と同等の価値”となる」


 彼が机の上に置いたのは、一枚の試作書――

 表には「織田蔵印」と銘打たれ、「此の証、銀一貫に値す」と記されていた。


 「“紙”で価値が動けば、重い銭を運ぶ必要はなくなる。

 それは、商人にとっても兵にとっても、“命の革新”だ」



◆ 尾張・商人たちの反応


 信長は、尾張の名うての商人たちを城に集めた。


 「汝らに問う。“織銭”と“紙の証”、どちらが好ましいか?」


 年老いた商人が答えた。


 「……最初は戸惑いましたが、秤と帳簿がある今なら、“紙”の方が取引が早い。

 織銭も確かに信用できる。“蔵にある”という証が残るなら、使って損はありません」


 信長は微笑んだ。


 「よし。ならば、試しに尾張で“銀札”を限定発行する。

 まずは少額から始めよ。民が使い、数字が残るようになれば、それが次の“経済”になる」



◆ 影で蠢く者たち


 一方、京では公家たちが眉をひそめていた。


 「貨幣を……紙で? まるで南蛮の“異国の掟”ではないか!」


 「織田という男、兵だけでなく“銭”まで支配するつもりか。

 もはや、天下人ではなく、――“国主”だ」


 だが、そう呟いた老公卿の声には、もはや諦めすらにじんでいた。



◆ 経済という“戦”のはじまり


 金ではなく“信用”を、力ではなく“制度”を――。


 信長の支配は、今まさに「経済」という見えぬ戦場に足を踏み入れていた。


 そして、それはやがて世界をも巻き込む、新たな“戦国”の幕開けであった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ