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追放

「リック。お前はもういらない。俺達のパーティから出ていけ。」


そう俺に言い放ったのは、S級冒険者で勇者の称号を持つアレクだった。


パーティから出ていけ?

まさか...聞き間違いじゃないよな?


「えっと....。アレク、今なんて言った?」

「俺達のパーティから出ていけって言ったんだ!お前みたいなヤツ、一緒にいるだけでイライラするんだよ!」


聞き間違いじゃなかった。

俺は、パーティから追い出されるのか。



....よっしゃあ!!


やっとだ。

ようやくこのパーティから抜けることができる!

俺はガッツポーズをしたくなる気持ちをおさえて、アレクの話の続きを聞いた。


「毎回毎回、モンスターが出てきても一切戦わないし、襲われそうになったら一目散に逃げる。かといって戦えるようになろうと鍛える様子もない。そのくせ報酬だけは俺達と同じ額を要求する。そんなお前の存在が、前から不愉快だった!」


そりゃそうだ。

お前らに追い出してもらうために、あえて嫌がられる行動を取っていたんだからな。

むしろこの数ヶ月間、よく我慢した方だ。


「ま、待ってくれ!考え直してくれよ、アレク。このパーティを追い出されたら、俺はどうすればいいんだ?!」

ここで素直に受け入れたら、かえって怪しまれる。

本当は今すぐにでも追い出して欲しいが、あえてゴネてみた。


「そうですよ、アレクさん。いきなり追い出したら、リックさんが可哀想です。」

まさかの擁護をしたのは、聖女の称号を持つ回復魔導士のクラリスだった。


お前は余計なことを言わなくていいんだよ!

せっかく追い出す流れになったのに、気が変わったらどうするんだ!


「それにリックさんは、王女殿下の推薦で私達のパーティにいるのですよ?王女殿下の許可なく追い出したら、不敬罪で罰せられるのではないのでしょうか?」


余計なことをする女、といえば王女殿下もそうだ。

王女殿下が推薦なんかしたせいで、こんなパーティに縛られることになったんだからな。

推薦したのが王女殿下でなければ、こんなパーティ、入れと言われても断っていたさ。

勝手にパーティを抜けたら不敬罪で極刑になる。

だからわざわざアレク達が追い出したくなるように仕向ける必要があった。


「王女殿下には既に許可を得ている。リックの素行の悪さを何度も報告したら、渋々了承してくださったよ。」


ナイスだ、アレク!

これでスムーズにパーティから抜けれる!

クラリスも王女殿下の許可が下りているからか、それ以上俺をフォローすることはなかった。


「そ、そんなぁ....。」

俺はその場で膝をついて項垂れて、ショックを受けた演技を続ける。

するとアレクは俺の前に、金貨の入った袋を置いた。


「これは手切れ金だ。これだけあれば、しばらくは生きていくのに困らないだろう。お前が何と言おうが俺達の気は変わらない。さっさと、この金を持って出ていけ!」


えっ、いいの?!

手切れ金までくれるなんて、ラッキーだ!

だけどここですんなり金を受け取ったら、怪しまれる可能性もゼロではない。


「嫌だ、俺はまだパーティを抜けたくない!お願いだ、アレク。そこを何とか、頼む!」

俺はアレク達の目の前で土下座をした。


「言っただろ。俺達の気は変わらないって。だから諦めろ。」

アレク達はそんな俺に見向きもせず、俺の前から去った。


アレク達の足音が聞こえなくなったタイミングで、俺は手切れ金を受け取って、ワルツ王国(この国)から出た。



◆◆◆



「あぁ〜!やっと解放された!」

今まで生きた心地がしなかった。

ワルツ王国から無事に出ることができた安堵で、何もないのに笑いが込み上げる。


俺は今まで服の下に隠していた尻尾を出す。

ワルツ王国にいた時は隠さざるを得なかったから、解放感が半端ない。

なんせ、ワルツ王国は人間以外の種族に対する扱いが酷い。

もし俺が人間()の国で魔族との混血だとバレていたら、良くて奴隷、最悪死刑もあり得た。

バレることなく脱出できたのは奇跡に近い。


逃亡先に選んだヨウメイ国は、世界で唯一、混血が奴隷にされない国だ。

ヨウメイ国以外だと俺みたいな混血(半端者)はまともな扱いを受けないから、必然的に逃亡先はこの国になる。


やっと念願のヨウメイ国に辿り着けたんだ。

もう二度と他の国になんか行くものか。

とりあえず、この国で生活していけるように手に職をつけよう。


アレク達が律儀に報酬を折半にしてくれていたお陰で、先立つものは沢山ある。

パーティを抜ける時に手切れ金までくれたし、アイツら、何だかんだでいい奴らだったな。


手っ取り早く仕事を見つけるには、ギルドに行って冒険者登録をするのが一番だ。

俺はヨウメイ国に着いて、すぐにギルドへ向かおうとした。


しかしギルドへ向かう道中、ならず者達に目をつけられ囲まれてしまった。


ならず者達はニヤニヤしながら、俺を強引に路地裏へと連れて行った。


「へへっ。お前、知ってるぞ?勇者パーティにいた、雑魚のボンクラだろ?」

「ってことは、コイツ結構金持ってんじゃねーか?」

「オラァ!殺されたくなけりゃ、有金全部出せや!」


絵に描いたような典型的なクズ共だな。

来て早々、こんなクズ共に絡まれるなんて幸先が悪い。


「なぁ。アンタらをギルドに突き出せば報酬が貰えたりすんのか?」

「はぁ?」

想像だにしない質問に、ならず者達は腹を抱えて大笑いした。


「雑魚のお前が、俺らに勝てると思ってんのかぁ?」

「B級冒険者ですら俺らに太刀打ちできねぇのに、テメェが俺らに勝てるわけねーだろ!」


「で、結局アンタらを倒したら報奨金が貰えるの?」

「さあな。テメェには意味のない質問だ。っつーか、さっさと金出せやオラァ!」


ならず者の一人が俺の胸ぐらを掴んで、殴りかかろうとした。

が、俺は振りかざされた拳を右手で受け止め、その拳をボキボキとへし折った。


「痛ぇぇ!!」

「テメェ、やりやがったな!」

ならず者達は激昂してナイフを取り出し、一斉に俺に襲い掛かった。


だが遅い。

体術を極めていなくとも、せめて魔術で身体強化を施すくらいはしないと俺には触れられないぞ?

この程度の力量で、本当にB級冒険者に勝てたのか?

....いや、アレク達ですらS級冒険者だと言われていたくらいだ。

高ランクの冒険者達は案外、俺が思っている以上に強くないのかもしれない。


あまりにも弱い相手だったので、俺は尻尾の運動も兼ねて尻尾を鞭のようにしならせて、ならず者達を一瞬で伸した。


「て、テメェ...!雑魚じゃ、なかったのか...?」

「はぁ?」


さっきから、コイツらは何か勘違いをしている。

確かに俺はボンクラを演じていた。



だが、俺は一言も『自分は雑魚だ』と言った覚えはないぞ?

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