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第4話 真実

(騎士団長の話が本当なら、現象は解決されるはずだ!)

王宮内の警備の最中、アルケは心の中でそう呟いた。

緊急会議の内容を騎士団長が話していたのだ。

長い時がかかるが、いずれ問題は解決するから心配しないようにと。

(ルイザの予言があったとはいえ、まだ不安な人もいるかもしれない。人々の気持ちを和らげることもしなければ!)

そう心の中で決意した時、ふとどこかの部屋から話し声が聞こえた。

(なんだ……?)

声がする部屋に歩いていくと、国王の執務室にたどり着いた。

中からは国王とルイザの声がする。

盗み聞きはよくないとわかっているが、彼は部屋の前で聞き耳を立て始めた。

「やはり時は来てしまったのか?ルイザ」

「ええ……神たちが天からいなくなったことにより、今、世界の歯車は狂い始めてしまっています」

二人は深刻そうな声色で話している。

アルケには何の話をしているのか全く理解できなかった。

しかし、ルイザの口調からして、冗談や嘘ではなさそうだ。

「神たちが天から堕ちてもう1000年……いよいよ限界なのでしょう……」

彼女の話を聞いて、国王は深いため息をついた。

「ついに……お主が国を離れる日が来たのか……」

ルイザは何も言わず、ただ静かに頷いた。

(ルイザが国から離れる……!?そしたらどうなるんだ……?)

アルケは予想外の話の内容に頭が追いつかなかった。

国中が頼りにしているルイザが国を離れるということは、ユステア王国にとって大きな損失だ。

国王は苦悩の表情でルイザに言う。

「少々不安だ……」

彼女の表情は変わらない。

しかし、彼女は微笑み、どこか寂しそうな口調で言った。

「大丈夫ですよ、必ず戻ってきます。力を全て取り戻し、この世界を正常にして帰ってきます」

その言葉を聞くと、国王は安心したように笑った。

(力を取り戻す……?どういうことだ……?)

理解が追いついていないアルケは、呆然と立ち尽くした。

「何かあった時にやりとりできるようにはしておきます。そして国民を不安にしないためにも、私が国を離れることは、絶対王宮の重要人物以外には秘密にしておいてください。それでは、失礼致します」

彼女はそう言って部屋を出て行こうとしたので、アルケは急いでその場を立ち去る。そして今聞いた話を頭の中で整理していた。

(どういうことだ……ルイザはいったい何者なんだ……?神?力を取り戻すって何だ?)

「アルケじゃん、何してるの?」

背後から声がし、振り向くとルイザが立っていた。アルケは焦った表情を隠すように顔を伏せて言う。

「ルイザか……いや、ちょっと考え事をしてただけ」

彼は咄嗟に嘘をついたが、彼女はそれを見透かしたかのように笑った。

「さっきの……もしかして聞いてた?」

彼の額に汗が流れる。それが答えだった。ルイザはクスクスと笑いながら言う。

「ふふっ、情報を漏らさなきゃいいよ。アルケなら信用はできるし」

ルイザは優しく彼の肩に手を置いた。アルケは背筋が凍るような恐怖を覚えた。

彼はこの奇妙な女に本能的な恐怖を抱いた。だがそれと同時に、どこか神秘的で美しいとも感じた。

アルケは緊張しながらも口を開く。

「ルイザ……国を離れるってどういうことだよ……」

ルイザは微笑みを浮かべたまま口を開いた。

「知りたい?」

アルケは頷く。

「場所を移動しよっか。聞かれるとまずいから」




人気のない場所に来ると、ルイザは話し始めた。

「今ユステアで……世界で変な出来事が起きてるのはもちろん知ってるよね?」

「ああ……」

「あれを止めるために旅に出るんだ」

「ど、どうやって……?」

アルケは恐る恐る尋ねる。ルイザは笑みを浮かべたまま言った。

「神話のメテンの話は知ってる?」

「あ、ああ……!」

リンネに散々聞かされた話なので、アルケは頷いた。

ルイザはその反応を見て満足したように頷いてから再び口を開いた。

「今世界で奇妙な現象が起きてるのは、神たちが天から堕ち、神の力の加護がなくなってしまったからなんだ」

アルケは驚いた。

まさかずっとおとぎ話にしか思えなかった神話が現実のことだとは思いもしなかったからだ。

ルイザは話を続ける。

「世界を安定させるためには、神の転生者であるメテンたちが力を取り戻し、天に力を戻すしかないんだ」

アルケは彼女の話を黙って聞いていた。

「だから私がメテンを探し出し、力を取り戻すために大陸中を旅するんだ。全て終わったらユステアに戻る。それだけだよ」

アルケは彼女の話を必死に理解しようとした。しかし、まだ疑問は多い。

「なんでルイザが行くんだよ……たしかにルイザはすごい魔法使いだけど、メテンって神様の生まれ変わりだろ?人間一人じゃどうにもならねえよ」

アルケがそう言うと、ルイザはキョトンとした顔を浮かべた。そしておかしそうに笑い出す。

その反応に、彼はムッとした顔をした。

「何がおかしいんだよ……」

彼女が笑い終えると口を開いた。

「ごめんごめん、でも大丈夫。私は普通の人間じゃないからさ」

(普通の人間じゃない……?)

アルケはますます混乱した。

そんな彼の様子を見て、彼女は口を開いた。

「だって私自身も……時間神のメテンだから」

「え……?」

アルケは驚きのあまり言葉を失った。

(ルイザが神の生まれ変わりだったなんて……)

「そういうわけで、私は近いうち旅に出てしばらく帰ってこないから。国民を不安にしないためにも秘密だよ?」

そう言ってルイザは立ち去ろうと歩き出した。

アルケは我に返り、慌てて言う。

「お、おい待てよ!」

ルイザは立ち止まり振り返った。そして再び口を開く。

「何?」

「その旅って……危険じゃないのか?」

ルイザは先程の笑顔から一変して真剣な表情になり、彼の問いに答えた。

「……私の中の何かは言ってる……これは、ただメテンを探し出して終わりでは済まないって……きっと想像できないような、何か大きなことが起こる……そんな気がする」

彼女の瞳からは不安や恐れは感じ取れなかった。ただ確信と決意だけが見て取れた。

「大きなことが起きるかもしれないのに……俺は黙って国に残ってなきゃいけねえのかよ」

アルケは怒りを抑えながらも震える声で言った。彼の言葉を聞いて、ルイザは再び真剣な眼差しで答える。

「もしかしてついて行くとか言うつもり?ダメだよ。私は魔法使いだからまだしも、アルケはただの人間なんだから。さっき言ったでしょ?ただ探して終わりじゃない気がするって」

彼は拳を握りしめた。そして怒りを堪えきれず叫ぶように言った。

「危険なのはルイザだって同じだろ!?」

彼女は驚いたように目を見開いた。

アルケは続ける。

「あんたは強い魔法使いかもしれねぇけど……!何かあったらみんなどうなるんだよ!みんなルイザを頼りにしてるし、いないと困るんだよ!」

彼は歯を食いしばりながら叫ぶ。

「それにあんたに何かあったら……俺が……きっと国王様とかも……悲しむよ!!」

彼の想いが伝わったのか、ルイザの表情が少し崩れた。彼女はそれを誤魔化すように微笑むと言った。

「……ありがとう」

そして再び真剣な顔に戻ると、アルケに向き直り言葉を続けた。

「私はね、噂通り魔法で身体を変えたり、老化を遅らせたりしてるから不老なんだけど……不死じゃないんだ」

彼はその言葉の意味がわからず首を傾げている。ルイザは微笑みながら続けた。

「私はね……死ぬんだよ、アルケ」

彼女は自分の胸に手を当てて言った。そして続ける。

「だから……私が殺されないように、守ってくれるかい?」

「それって……」

彼女は彼に向かって手を差し出した。

アルケはその手をしっかり握り返す。

「一緒に行こう、アルケ。足引っ張らないよう約束するなら」

彼は彼女の目を見つめ返し、力強く頷いた。

ルイザは少し嬉しそうに微笑んだ後、真剣な表情に戻り言った。

「そうだ……もう一つだけ約束してほしい」

アルケは首を傾げる。

彼女は彼の耳元に口を近づけると、そっと囁いた。

「君も死なないでね。そしたら、姫さまが悲しむでしょ?」

アルケは驚いて顔を赤くしたが、すぐに返事をした。

「お、おう……!」

ルイザはクスクス笑うと口を開いた。

「これからよろしくね、アルケ」

アルケも同じく笑みを浮かべて答えた。

「よろしくな!ルイザ!」

こうして、アルケの旅は始まったのであった。



登場人物紹介


アルケ=アンドレオス

ユステア王国騎士団に所属する騎士の少年。16歳。

正義感が強く仲間思い。父親を超えるために奮闘中。


ルイザ

宮廷魔術師の謎多き女性。予言は百発百中で、ユステア王国だけでなく同盟国からも信頼されている。

1000年前に天から堕ちた神のうちの一人である時間神のメテン。


リンネ=ユステア

ユステア王国の第11王女。アルケとは幼なじみ。神話が好き。明るく無邪気な16歳の少女。


ユステア国王

ユステア王国の現王。この世界では数少ない、神話を信じる者。国を大切に思っている優しい人。

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