『あなたを愛します。だけど、これは叶わない、愛の言葉』
夢を見た。
俺もあいつも小さくて、いつもの花畑で遊んでいた。
『ねぇ、この子の花言葉、知ってる?』
あいつは俺からその花を受け取ると、からかうようにそう言った。
俺は知らなくて、首を振る。ただ、あいつに似てると思って摘んだだけだった。
『だろうと思った。花言葉はね……』
カタワレドキの赤い日に照らされたあいつの白い肌と、日に負けないくらい赤い髪と、俺の驚いた顔を写した黒い瞳が……
どうしても、忘れられない。
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「おはよう、ジーク。お寝坊さんだね」
朝、目が覚めると幼馴染の顔があった。
春の暖かい日差しを受けて、覗き込む様にベッドの側に立っている。
「……おはよう、フィーナ」
「怖い夢でも見たの? 涙の跡がついてるよ」
「覚えてない」
フィーナは、つまんないのーとだけ言って部屋を出てキッチンへ向かう。
なんとなく、俺もそれについていく。
「というか、勝手に家に入るなよ」
「今更? 実質お互いの家みたいなものじゃない」
「俺の家だ」
「何か言った? 聞こえなかったや」
こいつはいつもそうだ。都合の悪いことは聞こえないフリ。
呆れている間にいい匂いがしてきた。フライパンはジュージューと食欲をそそる音を立て、隣の鍋はコトコトとスープを煮込んでいる。
「ご飯できるまでに洗濯物干しちゃって」
「ああ……」
言われた通りにした。いい天気だ。よく乾くだろう。
ちょうど終わった頃に「ご飯できたよー」と呼ばれる。
「恵みに感謝して」
「……恵みに感謝して」
二人にはちょっと広いテーブルで、向かい合って食べる。いつも通りの光景だ。
「…………家にいなくていいのかよ」
「あんなに見られてちゃ居心地悪いもの」
「おじさんもおばさんも心配してるぞ」
「それなら私はジークが心配なの」
フィーナは笑いながら、パンをスープにつけて食べる。どうして笑えるのか、不思議でしょうがない。
「なんでだよ。だってお前……」
今日、命日だろ。
そう言おうとして、すんでのところで飲み込んだ。
声に出したら、本当になりそうで。
「そんなこと、この病気になった時からわかってたもの」
魔法が発展したこの世界で、いまだ治療法の見つかっていない奇病。
この病気に罹ると、18歳になったその日、突然死んでしまう。
華盛りの歳に急死することから、花散病。嫌な名前だ。
「私は、ジークを置いて逝くことの方が心配なの」
こんな時でさえ、俺の心配なんかして。
「18年前、私が生まれるまで、あと一時間か。ご飯も食べ終わったし、花畑でも行こうよ」
ずっと一緒に育って来て、ずっと一緒だと、思っていたのに。あの時、片思いになんてさせないって、約束したのに。
「相変わらずここは綺麗」
どうして世界はこんなに残酷で、こんなにも綺麗なのだろう。
「ほら見て、赤いアネモネ」
一輪摘んで、俺の元に持ってくる。あの時と反対だ。
だけど視界がぼやけて、顔が、わからない。
「最期まで、愛してるって言えなくてごめんね」