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死人たちのアガルタ  作者: ねくろん@なろう
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第21話 航空博物館駅

 衛兵隊の女兵士、ネリーは気が立っていた。


 その理由は、最近周囲に装備の充実した野盗が拠点を構え、さらには上位の賞金首も目撃されたという事にある。

 奴らがまとまって攻撃を仕掛けてきたら、こんな駅はひとたまりもない。普段が砂の様なまとまりのなさだから助かっているだけで、やるべきことをやろうとしない衛兵隊の指導部には不信感すら覚える。


イルマからトコロザワの中心部である「航空博物館駅」に増援にきたはいいものの、することは監視、監視、また監視だ。


 気分を変えるために、戦国時代の兜を彷彿とさせる重ヘルメットを外す。

 体の感覚はほとんどない。だからせめて顔だけでも夜風に触れたかった。


 ヘルメットの中から現れたのは、ショートボブの金髪、しかし後頭部にあるべき髪の毛や頭蓋はなく、切り取れたように大きく空いている。彼女の後頭部には、頭蓋骨の代わりに多面体のワイヤーフレームがあり、拡張脊髄と脳髄を保護している。

 それらは首後ろの冷却フィンに熱交換器で繋がっていて、フィンは夜の街の光を受けて、青みがかった冷たい銀色に染まっていた。


 彼女の体はほぼ義体化されている。アンデッドにパワーアーマーを着せる代わりに、機械の体に直接アンデッドの神経や脳髄をのせて、わざわざ着せる無駄を省いてはどうか?というコンセプトで作られた、かなりロボットよりのアンデッドなのだ。


 ネリーは今、駅舎と廃墟を隔てる隔壁の近くで警戒についている。

と言っても地上にいるわけではない、ビルの窓拭き用の大型ゴンドラを利用した簡易拠点で、自動砲と呼ばれるライフル形状の大砲を構えて廃墟を監視しているのだ。

 装甲を追加された物々しいゴンドラは、クレーンで吊るされていて、中にはネリーの愛用している自動砲の予備弾薬、無線機、ビールや軽食なんかまである。


――ふと、ネリーは前方に違和感を感じた。

 何か来よったなあ。


 彼女はその魔女の爪のように尖った手指を持つ義手で、『大阪砲兵工廠』と印字されたクソ重い板状の安全装置を引っ張って解除する。

 ガチャリという音がして、トリガーが僅かに前に進んでロックから解放される。

 床に二脚を立て、据え置かれた愛用の20㎜自動砲。

 この銃の射程は2キロ以上はある。貫通力が距離で減衰したとしても、炸薬もたっぷり充填されているので、そこらのなれ果ての脳髄をハナクソと混ぜ合わせる事は、この子にとっては造作も無いことだ。


――さーて、何が来とるんかな?


★★★


 トコロザワの鉄道駅舎に到達した僕たち一行は、その血濡れになった格好のせいでちょっとした問題を起こしてしまった。

 僕らを見た衛兵隊の女の人が肝をつぶして、警報を出してしまったのだ。すぐ誤解と分かったものの、めちゃめちゃに怒られてしまった。


 その後はレールカーから担架で降ろされていくゴトウをササキさんと見送った。

 彼は片腕と指をいくつか無くしたようだが、命に別状はなかった。しかし、その傷の怒りが僕たちに向くのは間違いない。ここで問題が起きないといいが。


 護衛依頼の終了の手続きは、ササキさんの立ち合いのもと、衛兵隊の窓口で滞りなく行われた。少しくもりがちな僕らの様子を気遣ってか、レールカーを倉庫に預けると、ササキさんは僕らをとある場所まで連れて行ってくれた。


「まあ、映えスポットって奴かな?」

 

 駅舎には6本から8本のレールが通っていて、それを横切るように、ライムグリーンで塗装された大きな鋼鉄製の陸橋がある。そしてその陸橋から見えるものに声を上げた。天井からぶら下げられているのは、いくつもの飛行機だ。


 娯楽映像で見たことがある、あれは「零式艦上戦(ゼロセン)闘機」だ!

 今から大体200年以上前に、この国で作られた戦闘機だ。

 他にもぶら下げられているものがある。エンジンが一つの単発機だけでなく、二つ付いた双発機まである。駅に来たときはてんやわんやで気が付かなかったな。


「わぁー!飛行機です~!きれいな緑色ですねー!」


「本物なんですか、あれって?」


「うん、本物だよ。戦争で博物館の展示から、地下倉庫に避難させられていたのを、発掘してこっちに持ってきたんだ」


「トコロザワはこの国の飛行機発祥の地でね、こういったのがよく見つかるのさ。」


「へぇ……あれってまだ飛べたりするんですかね?」


「飛べるらしいよ、でもさすがにそれを試すには貴重な品すぎるからね、飛ばしたことはないみたい。そうだ、ここにきた記念に、写真を取ってあげようか」


「お願いしまっすです!フユさんこっちこっち!」

「え~血まみれのまま映るのぉ?いいけどぉ?」


 僕とウララの端末を使って、ササキさんがぼくらの写真を撮ってくれた。しかし、服が所々血に染まってるから、まるでハロウィンの仮装みたいだな。


「航空博物館駅にようこそ! トコロザワは、イルマや他の街に比べて、娯楽の多い場所だから、楽しんでいくといいよ」


「えぇー!楽しみでっす!」


「ウララさん、ここに来た目的を忘れちゃだめだよ」


「ははは、それじゃあ僕はもう行くよ、またどこかで会えたら」


「ええ、その時はよろしくお願いします」

「ばいばいですー!」


 ササキさんと別れた僕たちは、夜も更けてきたので泊まる場所を探すことにする。

 装備はブラックドッグの血でえらい汚れているし、結構長い時間廃墟を移動して体力も消耗しているので、とにかくどこかで休んでおきたい。


 ラグ.アンド.ボーンズは親父が適当に部屋を使わせてくれるけど、こっちは知り合いがいないから、普通にホテルを探すか。


 それにここ最近、ほんの数日の事なのに、起きたことが濃密すぎる。

 僕の頭の中は(?)でいっぱいだ。

 白いなれ果てとは?ネクロマンサーとは?アガルタとは?奇現象とは?他にもいろいろこの世界には謎があり過ぎる。


 言葉に書き留めて起きたことを整理しておかないと、なんかそのうち訳が分からなくなりそうだし。今まで分かったことをまとめる時間もとらないといけないな。

 その時はウララにも手伝ってもらおう。


 僕らは緑の陸橋を渡って、駅舎の隣りにあるビルに向かった。昔の複合商業施設、いわゆる駅ビルというやつを、アンデッドたちが好き放題に改造した建物だ。

 スクラップを使って作られた間に合わせの案内看板には、ビルの中にある施設の事が書かれている。ゲームセンターに映画館や劇場、ホテルにレストラン、キャバレーやダンスクラブにカジノまである。

 すごいなここ。人間が発明した娯楽の大体が揃ってるんじゃないか?

 イルマにも娯楽施設が無いわけではないが、ここまでの充実はしていない。


「すごい栄えてるみたいだね、イルマとはちょっと違う雰囲気だけど」


「工房とかがないですね~?鉄橋の向かい側になるんですかねー?」


 確かに、見てみるとクズ拾い用の施設はないな。補給大丈夫かな……?

 とはいえ、ゴトウのような職人がいるのだから、全くないということはないはずだ。ホテルに入ったらそこで聞いてみるか。


「あ、このホテルとかどうでっすか~?お城みたいでかわいいです!」


 ウララが案内板に張られているホテルの紹介写真の一つを指さす。ピンクのお城。うん、間違いなく異性同士、たまに同姓がご休憩する用の奴だ。まあ、そういう機能もちのアンデッドもいるからあまり言いたくはないが、なんでこんなのが必要なんだよ!?


「……これは止めておこう、もうちょっとこう、普通の落ち着いた雰囲気ので!」


「えー?かわいいとおもうんですけど~?」


「めっです!駄目なものはダメです!」


 僕はウララが選んだのとは別のホテル、まだもうすこし一般向けっぽい方の見た目をした「ホテル・プロペラ」に今日の宿を取ることにした。

 航空博物館駅っぽく、古風な木製の2枚プロペラが、ホテルのトレードマークになっているようだ。


 場所はここからそう遠くないな。

 向かうついでに。周囲に何かあるか、見回ってみるか。

 ウララのために、ドリンクが飲める屋台でもあればうれしいけどなぁ。

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