第8話 目的の物を探そう
無人機がベヒモスに対して、最後の一撃を加えているのを遠目に見る。
空出撃になったから、後でこっぴどく怒られるだろうな。
「ウララ、左右にスラロームしながらこちらへ、あれだけの騒音の後だ、誰が見てるかわからない。照準を定めさせるな」
「おっけー、援護よろしくでっす!」
ウララは急停止を絡めながら器用に蛇行して移動すると、僕から絶妙に離れた場所に配置につく。いいセンスだ。安全な場所を選ぶ天性の勘がある。
ベヒモスとの戦闘の後、近寄ってきたなれ果ての掃討もすませると、僕らは整備場とおもわれる四角い建物の壁に取りついて、慎重に進入口を探していた。
正面のドアは5M程の高さの金属製の壁が連なっているドアで、航空機の格納庫で見たことがあるタイプだ。とてもアンデッド二人で開けるような代物ではない。
窓から入るのは無理だろう、ウララは窓から入れるような大きさの身体じゃない。
それに窓は死角が多くて、もっとも罠を仕掛けやすい場所だ。あんまり使いたくない。
窓から入って飛び降りたら、地雷やトラバサミなんかのウェルカムマットで足をもがれるとか、ワイヤーと手榴弾の伝統的ブービートラップでどっかーんとか、例を挙げればきりがない。
我ながら、いくら何でも慎重過ぎでは?と思うこともあるが……。
『あーやっぱそうだよね』と、なった時の落胆の方が上回る性分なので仕方がない。
続けて周囲を探索していると、建物の壁に崩壊している個所があった。
穴の大きさはそれなりにあり、二人とも入れそうなサイズだ。
入る前に端末のカメラで中をチェックするが、トラップの類は見当たらない。
よし、ここから侵入しよう。
僕たちは警戒しながら中に入る。
侵入したところは整備場の裏手にあたる廊下のようだ、高い位置に窓があり、いくつかのドアが並んでいるのが見える。
人間用の小さなドアは事務所や更衣室なんかがあるのだろう。右手には大きな搬入用ドアがある。
大きなドアが据え付けられている部屋は恐らく機械の作業場だろう。
大きい場所は後に回す。まずは小さい所からやろう。
僕は未知の場所に入ったらいつもやるように、ボール状の監視ドローンを取り出し自動探索モードにして走らせる。
探索中、何か異常があればこいつが知らせてくれる。
人の気配はないが、だからこそ安心はできない。ハンドサインでウララに指示を出しながら一つ一つ部屋を回っていく。
部屋で見つけた基盤や電子製品、薬品、日用品、とにかく目についたものは全部戦利品としてバッグに押し込む。
装備と混ざりって、弾がどっかにいった!?と、ならないようにだけ気を付けて、片っ端から回収していく。
そして残る扉はあと一つ、というところまで来た。これまで罠の類は一切ない。それどころか最近まで人が入った形跡も無かった。考えすぎだったか?
最後の部屋は中央に机があり、その背後には中身がプラモデルや人形でいっぱいの本棚がおいてある。足元のカーペットは緑色だが、机の近くにヒト型の真っ黒いシミがある。部屋の隅には45口径のピストル用薬莢が一つ、となるとこれは……
シミを触ってみると脂でねちゃりとする。ああ、これはやってるな。
「多分、他殺か自決した後みたいだ。 年齢は20代から50代か?」
「それ推理して無くないですか~? 死体が溶けたにしてはシミが小さいですね。アンデッドになって歩いたなら、このあたりはもっと汚れてるはずですし」
首をかしげてウララが不思議そうに言う。確かに。持ち去られた?だが何故?
興味を惹かれた僕は何か記録が残ってないか探してみる。といっても、探偵のように死ぬ前に遺した手記や日記を探すわけじゃない。
「どれだけ再現できるかわからないけど、シャーロックを起動してみよう。」
シャーロックというのは、現場を3次元スキャン情報を手掛かりに、多分こうだったんじゃない?くらいの精度で過去の光景を再現する機能だ。
分析の根拠は、過去の人類社会の行動をデータベース化した学習モデルからなる。精度は、うーん……稀によく当たるといった感じだ……。
前にシャーロックを使った時は、ベッドの上の男が全裸で白目をむいて自分の尻を叩いて、何かを喚いてベッドを上り下りしていたな……。シャーロック君、ちょっときみ、迷探偵すぎやしない?
とはいえ、他にできることも無い。僕はシャーロックを起動した。すると、部屋の中に緑色のホログラムの人物が浮き上がる。
『お前さん、ここで何をしているんだ』
『怒っているわけじゃないよ』
『おまえはもうここで働かなくていいんだ、終わったんだよ』
「緑のおじさんが一人で喋ってますね? 何と喋ってるんでしょう?」
「情報が欠損しているのかもね、あるいは人間以外と話しているか、かな?」
早送りになったようにものすごい速さで緑の人が動いている。
情報が欠損しているときに起きる挙動だ。机と本棚を行ったり来たりしている。
しかし会話の再生が始まると速度が元に戻った。
『軍が、何でここに?おい待てやめろ!』
『本日よりこの施設は日防軍《日本国防軍》の管理に入る。ここはアンデッドの整備施設になる』
『中国軍には勝ってるんだろ?何でなにもかも取り上げる必要がある』
『我々には、抵抗の意思を示した者を射殺する権利がある』
『おい待てやめろ!』
銃声。緑のおじさんは軍人らしいホログラムに撃たれ、床に倒れてシミと重なる。
「まあ、こんなことだろうとは。」
「あのー、イルマの衛兵隊さんたちって日防軍の残党なんですよね?」
「そうだけど……当時とは違うよ。それに、これは真実とは限らないし」
「それもそうですね~。 あ、ちょっと巻き戻してもらっていいです?」
ウララは僕がもう一度再生しているとストップ!と言って止める。
「ココ、ココです、本棚の周りをうろうろしてるところですー」
この後鉄砲で撃たれる運命にあった緑色の人が、《《本棚に埋まっている》》。動きは手を前にだして、何かを触ろうとしているようだが……あっ。
「よく気が付いたね」
「動体視力には自信があるので~」
本棚を横に動かそうと試みる。すると本棚はするするっと動いた。
レールとベアリングが本棚の背後に用意されていたのか、これはかなり注意深く見ないと気が付かない。
シャーロック君やるじゃん。
本棚の裏には電子金庫があった。
しかし、電源が落ちていて反応しない。
これではパスが解っても電子錠は開かないな。
「シャーロック君でもさすがにパスはわからないですかねー」
「そもそも電池が切れてるからなぁ。 こじ開けちゃおう」
僕は厳重に封印されている湿布薬のようなものを取り出した。そしてこれを金庫の蝶番側に張り付ける。
「なんですかーそれ?」
「まあちょっと見てて、面白いことが起きるから」
しばらくしてから僕はナイフの先で湿布を押す。すると押したところ、金庫の金属が、粘土か何かのようにこねられる塑性のある状態になった。
この湿布は金属のように安定して結合した物質の小さなすき間に入り込み、ロコイド状、つまり金属と湿布の成分が溶け合った状態にして、簡単に加工できるようにする作用がある。
ただ、一度ロコイド状にしたものが再び安定化するまでの間、この湿布は触るものみな傷つける、刃物のように悪ガキな劇物と化す。取扱いに気を付けないと、腕が無くなる。
粘土のようになった金庫をコネコネして、べろりと前面の扉を外す。
「わぁ、すっごい便利~、でもお高いんでしょう?」
「はい!そうなんです、クソ高いです!」
「ええ!? そんなに高くて大丈夫なんですか~?」
「はい、なので、決して損はしない、こういう金庫とかに使いましょう」
僕はふやけた金庫が安定化するのを待ってから中身を探った。
中には高度に純化された快楽物質、いわゆるドラッグと、電子鍵が詰まってた。
ドラッグは高価な薬品の生成に使うからとっておいて損はない。
電子鍵はきっと重機や倉庫の鍵かもしれないな。
ウララは雪の結晶のようなキラキラとした粒が詰まったプラスチックの包みをライトでかざして見る。見た目は奇麗だが、これで何人の人間を殺せるだろう。
「ストレスの多い生活だったんですかね~?」
「人間さんはいろいろ大変ですなぁ」
僕たちは部屋を出ると、廊下と大きな扉で隔たれていた作業場に出る。回収するまでドローンは一切何も感知しなかった。
本当にベヒモスと外をうろつくなれ果て以外の存在は居なかったようだ。
作業場はおおかた想像通りだった。
パーツにバラされかけている車両や作業機械が並んでいる。その中で無事そうなのがいくつかある。
暗緑色で角ばったシルエットの軍用トラックだ。
覗いた荷台には、ヒト型の死体がパッケージされていくつも乗っている。
密封が甘かったのか、全部乾いてしまって、それがヒトだったのか、アンデッドだったのかすら、この状態ではわからない。
荷台に乗って中を調べてみる。乾いてしまって全くわからないが、緑のおじさんもこの中に居るのかもしれないな。
――漁ってみたが、武器弾薬といったものはなった。しかしトラック自体は無事だ、この情報は売れるな。
その後も探索を続け、作業所の中でトランクくらいの大きさの精密工作台と、部品精度を調べるための汎用検査機を発見することができた。
金庫から発見した暗号鍵でロックされていたようで、鍵を操作すると反応した。
よし、目的の物は手に入れた。ラグ.アンド.ボーンズに帰ろう。




