第7話 ベヒモス
周囲のなれ果てを始末した僕たちは四角い建物に迫っていく。
瓦礫の山は次第に低くなってきて、瓦礫の代わりに、大量の車両が並ぶ駐車場のような光景が目の前に広がる。
「トラックばっかり、これだけあったら一個くらい動きますかねー?」
「近くにいると、電子製品が使えなくなる機能付きでよければ?」
「イルマのラジオ聞けないと困りますね~……あれ?」
ウララが指示したジャンクヤードの中央、急に開けた部分に何か見える。
スクラップの山?いや、違う、動いている?
それは小山ほどもあった。デタラメに金属が重なり合っていて、身じろぐたびに金属が触れ合い、軋み合って不愉快な音を立てていた。
顔、なのか?こちらに向けられたそれの前面には、ショベルカーのバケットが歯列のように並んでいる。歯を剥いたように見えた瞬間、何か黒いものが見えた。
僕は反射的に飛びのいた。
風をひょうひょうと切る音が僕のすぐ横を通り抜けていった。
さっきまでたっていた場所には、デタラメな角度の鉄板が何枚も生えている。あのまま突っ立っていたらバラバラにされていた。
「交戦開始!」
疑いようもなく大型アンデッドだ。僕は信号銃を取り出すと、赤と白のカートリッジを入れ、空に向かって撃つ。
――赤いフレア、意味は『クソヤバイなれ果てと交戦』だ。
ステラさんが来ることはないだろうけど、気が付いた衛兵隊の人が無人機を飛ばしてこっちを確認してくれるはずだ。
大型アンデッド相手なら無人機からの近接航空支援をしてくれる保険(特約付き)に入っておいてよかった。
……まあ、問題はそれまで耐えられるのか、だけど。
ウララは体を軽くするためにサイドバッグを捨てている。僕の近くに捨てられたバッグの中にはライフルグレネードと対戦車手榴弾が2つづつ。
さすが気が利いてるね。涙が出ちゃう。
僕もバックパックの緊急用の金具を引いてバッグを捨てる。MP40も捨てる。どうせ効かない。身に着けているライフルの予備弾薬は20発×4つのマガジンで80発。
あとはライフルグレネードと対戦車手榴弾が2発づつ。
――さてどうしたものか。
手裏剣のように回転しながら迫る鉄板を避けるために、僕はトラックの影に逃げる。
大型のなれ果て、仮にベヒモスとでもしておこうか、あいつの装甲はかなり厚そうだ。なのにあの図体で瞬発力も高いときたもんだ、反則だろ。
考えろ……まずは足を止めよう。格闘系ならその力の源は腰と足から来ているはずだ。座り込んだプロレスラーは、そこらのおっさんにも負ける。しらんけど。
僕はライフルグレネードを取り付けると意を決して躍り出る。
ベヒモスはちょうどトラック2台を掴んで、こっちに投げようと振りかぶっているところだった。
オウ……そりゃないよ。
2つのトラックは山なりになってこちらに飛んできた。先ほどまで遮蔽になってたトラックと2台はもろにぶつかって、合計3台のトラックが僕の周りで命を刈り取る形でスピンしている。
こんなの相手できるか、冗談ではない!
必死でかいくぐりながらベヒモスを視界にとらえる、見てないと次に何をしでかすか分かったものではない。
その刹那、ベヒモスの後ろ右足で何かが弾ける。僕がターゲットされている間、ウララが対戦車手榴弾を起爆したようだ。しかしまだ奴は元気いっぱいの様子だ。
ベヒモスは後ろ足で地面を蹴り上げ、巻き上げた瓦礫を散弾とする攻撃をウララの方に向けて行う。だが彼女の脚力の方が勝って、瓦礫は放置された車両のフロントガラスを砕いただけで終わる。
『対戦車r・弾は効ぅ・果なーしっ!・フユど・しよu?』
ノイズ交じりの無線が聞こえる。汚染もある中やり合うのはつらいよな……ん?
放射能汚染のある中こっちを捉えてるってことは、有視界戦闘してるのかあいつ?
センサー類無し、ってことは普通に煙幕とか目くらましの類、効くんじゃないの?
ちゃんと露出した目があるってことだ、やれないことは無いかもしれないぞ。
「ウララ、煙幕を炊いてくれ。奴はセンサー類を持ってないかもしれない」
思い込みは危険だけど、周りのトラックを素材にしてるなら、ほとんど民生用じゃないか。
ただの鉄を取り付けてるだけなら、ベヒモスの装甲に弱い部分があるはずだ。例えば最初、あれだけ大きくなる前の部分とか?
――つまり”素体”に目があるはず……!
ウララは指示を聞きとれたようで、逃げ回りながら煙幕を炊いてくれた。
僕も手持ちの煙幕を着火して投げる。
周囲が煙に包まれると、明らかに投げられる鉄板とトラックの精度が下がった。奴は戸惑っている。僕はライフルグレネードをどこにあてるべきか観察する。
バケットの歯列の上は?鼻っぽいものはあるが、それらしいものは無い。腕と足は論外、背中にはないし、うん?どこだ?ベヒモスの顔らしいものが見えない。あいつどこで見てるんだ?
僕は煙幕に紛れて観察するがそこで僕は気が付いた、
奴は歯を剥いた後、当てずっぽうに煙幕の中に鉄板の手裏剣を投げている。あのバケットの歯列の中かよ!
ライフルグレネードはロケット弾と違って弾速が遅い、発射した後は加速も何もなく、放物線を描いて飛ぶだけだ。鉄板を投げる瞬間、ちらっと見せるだけのベヒモスの顔に、どうやって当てろというのか。
『フユ・たぶ・目はあいつ・歯を剥く・Kiだけ・見えるみたい。普段・防護さ……』
「そうみたいだ、一瞬しか開かない。何かいい手があればいいんだけど」
『やっ・テeみる……』
えっ何を?
ウララはベヒモスの真正面、ど真っ直ぐに手榴弾を掲げて吶喊していった。
「はあああああ!?」
次の瞬間、僕はウララがベヒモスのごつごつした鉄の腕に叩き潰されるのを覚悟した。だがそうはならなかった。
派手さだけはある手榴弾の一撃を食らうと、ベヒモスは怯んで身を翻して逃げた。
『や・ぱり……戦イ慣れ・テない』
問1
民生用機械の修理をするアンデッドが
素体となった大型アンデッドの
心情を述べよ。(小問配点各5点)
Q:鎧の目的は? A:怖いクズ拾いから身を守るため。
Q:遠距離攻撃の目的は? A:僕たちを追い払うため。
Q:僕たちが勝手に騒いでただけですか? A:そうです。
ウララはベヒモスを追撃してこっちに顔が向くように誘導する。
しっかりと前を見るために、バケットは開かれている。
中には怯えた表情のアンデッドの少女が居た。
――そうか、お前……、別に戦闘用じゃないもんな……。
そりゃ怖いよな。
「悪いね」
僕はゆっくりと照準を合わせてライフルグレネードに点火した。
――ワタシの中で渦巻いていた『憎悪』は
彼らを見た途端、霧散した。
代わりに現れたのは『恐怖』
黒い服、黒い武器。
あのガレージに現れた人間と
色はちがったが、それが何か、
それを理解した瞬間、
ワタシの中の全てが恐怖した。
怯懦がワタシを支配した。
私の中のワタシが
コロセ、コロセ、コロセ、と云うが
誰もやり方は教えてくれない。
逃げたい、と思うが、逃ゲルナという。
ドウシテ?どうして?
何でそんなことをいう?
黒い人間が目の前にいる。
私は皆のいう事を聞いただけなのに
どうして?ねえ、誰か答えてよ――




