第6話 ゴルフって何だ?
ゴルフ場とは?僕は自分の持つ端末に尋ねてみた。
『回答:社会的地位の高い人物が、「ゴルフ」という球技を行う施設。政治的、商業的な利害関係者同士で、流血を伴わない戦闘を行う場となっていた』
なるほど、ゴルフ場とはどうやら闘技場の一種だったらしい。
球技と言うのは野球と同じような棒とボールを使った戦いの事だろう。
端末の説明によると、野球は9:9で合計18人が死ぬまで戦うが、ゴルフは2人から戦えるらしい。性質としては決闘場のようなものか。
先ほどウララが見つけた、ゴルフに使うと思しき金属製の道具には、刃付けがされておらず、鈍器の形状をしていた。
確かに流血を伴わないと言った端末の情報を裏付けている。ゴルフ場は細長い形をしているし、球技という事は、恐らく互いに狙撃、先に弾を当てて弱らせた相手を撲殺した方が勝利と言った所だろう。
僕はかつてゴルフ場だったという場所を改めて眺めてみた。そこは広大なコンクリートと機械の墓場となっていた。戦争が始まって最初の攻撃の直後、おびただしい量の放射性廃棄物がここに投棄されたのだ。
2階建ての建物くらいはありそうな瓦礫の丘が、幾重にも連なっている。
丘のシルエットはそれぞれが複雑な形状を稜線に描き出していて、瓦礫だけでなく何かの機械の姿も目立つ。熱核兵器によって放射能を浴びたガラクタを運び終えた後、汚染されて使えなくなった機械や車両を、そのまま投棄したのだろう。
混沌としたシルエットで繰り返される稜線の奥に、一つだけ整った四角いシルエットがある。きっとあれが、整備をするための建屋だろう。
きっとあの中で、この丘を作り出した機械たちを維持していたはずだ。
「ここがそうでっすかー? なんか思ったより機械だらけってかんじですねー?」
「奥に整備場っぽい建屋もあるし、まずはあそこを調べたいな。問題は……」
この空間は大量の放射能によって支配されているようだ。
まだ外周に踏み入ったばかりだというのに、計数管が放射線の電離作用を受けて発するガリガリという音が止まない。僕の視界にも白いノイズが走る。
此処では半導体を使ったセンサーなんかの精密機器は使えないだろう。
この問題をさらに深刻にしているのは、なれ果てだ。目的が有るのか無いのか、それすらも解らなくなったアンデッドのなれ果てが相当数うろついている。
放射線となれ果て。この二つが重なるとちょっと厄介な事になる。
通常、アンデッドのなれ果ては音や光に反応して集まってくるので、そういった音や光の出るオモチャに爆弾を付け、群れを引き寄せてから爆弾を起動して、まとめて駆除するのがもっとも効率が良い。
しかしここまで放射線がきついと、そんなチャチなものは起動しない。
成層圏より上を飛ぶ飛行ユニットや、宇宙船なんかに使われる相当に高度なものが必要だ。そんな貴重な物をなれ果てに使うわけにはいかない。
しかし一体一体狙撃で間引いていくとなると、安全に移動できるまでに、いったいどれだけの時間がかかるか、わかったものではない。
「誰も来ないわけだよこりゃ……」
「どうしましょうかー?」
正直いい方法があったら、こっちが聞きたいくらいだ。
一応の解決法は用意してあるのだけど。
要点は、電子機器を使わずに音や光を出して、なれ果てを誘導すること。そして壊滅的打撃を与える攻撃を用意する、この2点だ。
まずはウララにこっちに来てもらってサイドバックを漁る。取り出したのはワイヤー、平たい空き缶、そして爆竹。伝統と信頼のなれ果ておびき寄せセットだ。
空き缶に爆竹を入れると、ワイヤ―で縛って固定する、余ったワイヤーが缶から垂れ下がるが、これで問題ない。遠心力を利用して投げるのに利用するからだ。数分に満たない作業で「爆竹缶」が完成する。
次に集まったなれ果てを始末するための爆発物を用意する。空中で炸裂して鉄球をまき散らす榴散弾が最適だが、今回は集める手段が非効率なこともあって、始末するときに大きな音はさせたくない。
また集まってきてしまっては始末する意味がない。
取り出したのは軽迫撃砲用の焼夷弾だ。見た目はちょっと細い飲料水の入った缶だが、中に入っているのはジュースではなくジェル状で粘りのある可燃性液体だ。しかもこれは、中にいくつかの子弾が入っていて、拡散効果が高いタイプだ。
ご丁寧に「シュヴァルツ」の鷲がプリントしてある。徹底してるなあ。
で、これを集まったなれ果ての中央に撃ち込む。粘度のある液体なので、一度なれ果ての表皮に取りつけば、地面を転がったりしても消えることなく焼き尽くす。
迫撃砲なら射撃音は小さく済むので、発砲音に反応して仕留める前のなれ果てが散らばったり、位置が暴露する危険も少ない。
ウララに作戦の意図を説明して、周囲の警戒と軽迫撃砲の据置を頼んだ。
――それでは作戦開始だ。
僕は丘と丘の間を移動する。高所に登れば確かに視界が広く取れるが、稜線を越えて移動する人間というのは存外に目立つ。ただでさえ放射線がきつくて視界のノイズがひどいのだ、尾根に上ったところで大した違いはない。
陰から影へと移動して、はぐれて移動しているなれ果てを消音器の付いたゲテモノMP40で一つ一つ潰していく。
まずは爆竹缶を投げることのできる、安全な方向と場所を確保するためだ。
爆竹缶で集めたはいいが、投げた自分の後ろから大量の団体さんが来ました。それはもうただのアホのやることだ。
『そろそr・始め・うと思うけd・そっち・どう……?』
『迫撃h・準備・できてますよー、後は・方位ヲ・くださ・なー』
端末での通信がギリギリできる程度の汚染だったのは不幸中の幸いだった。
比較的、なれ果てが薄かった方角から排除を始め、周囲の安全を確保した後、爆竹缶を投げ入れる方向をウララに伝える。彼女はその情報を基に迫撃砲の照準諸元を設定する。
「まったく、電子機器は偉大だね、これを全部自動でやってくれるんだもの」
僕はなれ果てが比較的多くみえる瓦礫の尾根にむかって、ブンブンと振り回した日の付いた爆竹缶を投げ入れる。
数秒の後<パパパパパパパパン>と、連続した破裂音が廃墟に響き渡る。
僕は破裂音を背に遮蔽物の後ろに隠れて様子を見守る。さて、どうなるか。
爆竹缶の破裂音は連中の注意を一斉に引き付けた。音を聞きつけたなれ果てたちは、数十秒もしないうちに集まってきておおきな団子を作った。いやはや、こんな人垣を見るのは、城塞の店じまいセールでもそうそうないぞ。
僕はせっかくの機会なので、ニ、三十人は居るなれ果てたちの様子を隠れて観察することにした。どういったタイプがいるのか、傾向を見ることでわかることもある。
「あ……誰もここに来ないっていうのは間違いだったな。」
観察している中には、クズ拾いと思しき装備のなれ果てが混じっている。
……ッ!
ウララと同じくらいの年格好の、クズ拾いのなれ果てが目に入ってしまった。二つに割れたボロの銃をさげて、彼女の窪んだ眼窩は虚空を見上げている。
「埋葬くらいはしてあげたいけど、ごめんね」
僕はあまりそれを見ないようにして、ウララの砲撃を待った。
人間ならばここで神に彼女の安息を祈るのだろう。
しかし僕たちは神を知らない。情報としてはもちろん知っているが。
それは人間の為の神だ、アンデッドに神はいない。
僕たちはモノの延長だ。神など居ようはずもない。
であれば一体何に訴えたらいい?
この感覚をどう扱えばいい?
オレンジ色の尾を引く光が僕の頭上を走り、千路に別たれて大地に火をつけた。
まあ……、この終わった世界が返せる答えは、大抵こんなものだ。




